過労死や自殺から「ポジティブに逃げる」ためにわたしたちができること

日本では過労死や自殺が話題になっています。アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんは、過労死や自殺は日本だけのものでも、弱い人だけの問題でもないと言います。渡辺さんが、周囲の人々やご自身の経験を振り返り、「ポジティブに逃げる」ことをお伝えします。

米国でも「できる人」でも過労死はありうる

若い女性の過労死が話題になっている。 彼女のケースはよく知らないので、それについては言及しない。きっと、他の人にはわからない、複雑な理由が絡んでいるかもしれないと思うから、余計なことを言って周囲の人をこれ以上苦しめることはしたくない。

でも、この事件は、他人事とは思えない。

私の身近にも過労死と自殺をした人がいる。
3人の日本人女性は、いずれもまだ若かった。ものすごく頭が良くて、がんばり屋だった。同い年とは思えないほど、落ち着きがあり、私とは比べものにならないほど「できる」女性たちだった。

学校を卒業した後、(私はあちこち放浪していたもので)彼女たちと会うことはなく、亡くなったことを知ったのは、知人づてだった。
ひとりは過労死、あとのふたりは自殺だった。原因は、噂でしか知らない。

「過労死」は日本人独自のものではない。
米国人である姑の親友の長男は、私より少し年下だったが、まだ40代の若さで突然死した。弁護士だった彼は、そのころ多忙で睡眠時間がほとんどなく、心身ともに疲弊していたという。

眠っている間に彼は静かにこの世を去っていった。

私が生き延びたのはつくづく運が良かった

私も、自分の人生をふりかえって、今こうして生きているのはミラクルだと思う。

途中で、彼らのようにこの世に別れをつげていたかもしれない時が何度かあった。過労だったときもあるし、ただ落ち込んで、絶望していたときもあった。それを思い出すたび、つくづく、私は運が良かったのだと思う。
それについては、『どうせなら、楽しく生きよう』という本にも少し書いたが、深い底なし沼から抜け出してきた経験があるから、苦しい決断をした人や、その周囲の人を責めたくはない。

それよりも、「逃げる」ということについて語りたい。

「『逃げればいい』というアドバイスは無責任だ」という意見がある。たしかにそれだけでは無責任だ。絶望している人は、「逃げる」ということすら考えることができない心理状態になっているのだから。
でも、私が生きのびることができたのは、運が良かっただけでなく、逃げるというチョイスをしたからなのも事実だ。多くの人が私の選択や生き方を非難したが、逃げていなかったら、今の自分はないと思う。

私はこう願う。
できれば、絶望的な状態になる前に、「ポジティブに逃げる」ことを考えておいてほしいと。

娘には「逃げ道」をいつも用意した

上記の体験があったから、私が娘を育てるときに注意を払ったのは、「逃げ道をたくさん作る」ということだった。

娘は何にでも興味を抱く性格で、本人の望みで、6歳のころにはピアノ、フィギュアスケート、サッカー、水泳をやっていた。いずれも「遊び」の範囲でシリアスではなかったが、水泳教室で彼女の才能を見出したコーチの推薦で競泳チームに入り、水泳大会で優勝したりして、はからずしも、エリート競泳選手としての道を進むようになった。

ほかのこともなるべく続けさせようとする私に、「競泳に専念させろ」とコーチはアドバイスした。「わが子に才能があるのに、その手助けをしないのは親として失格だ」と非難する親までいた。

そんなとき、私は同じ台詞をくりかえした。「親としての私の仕事は、逃げ道をたくさん作ることだと思っているんです。ひとつのことがうまくいかなくなっても、別のことができる。道はひとつではないし、新しい道を作ることもできる。それを体験として学んでおいてほしいから」と。

娘は、14歳のときにはオリンピック選手がいる競泳チームに移籍して、彼らと同じ練習をするようになっていた。本人が望んだことだったが、その結果、彼女は精神的に追い詰められていった。

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アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

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コメント

YukariWatanabe 少し前に書いたものですが、もう一度> 2ヶ月前 replyretweetfavorite

YukariWatanabe 過去の記事ですが、こちらもお読みください> 5ヶ月前 replyretweetfavorite

sakutashiryou |渡辺由佳里 @YukariWatanabe |アメリカはいつも夢見ている 逃げても逃げなくてもそれなりにおもしろおかしく生きられるのが多様性(=゜ω゜)ノhttps://t.co/i9hbn1uZbw 8ヶ月前 replyretweetfavorite

nine3quaters 合わせてこれも読みたい// 約1年前 replyretweetfavorite