コンピュータ将棋界の歳時記では、初夏は世界コンピュータ将棋選手権。秋は電王トーナメントである。今年2016年で第4回を迎える電王トーナメントは、10月8日から10日までの3日間、東京・六本木のニコファーレでおこなわれた。
競技としての将棋の分野において、これまでの対戦成績や、その他多くのデータが示すところによれば、コンピュータは既に、人間の技量、力量を凌駕している。「人間に勝てるソフトを作る」という、四十年以上前に設定された開発当初の目標は、すでに達成されたと言ってもよさそうだ。
では、開発者の熱はすでに冷めているかといえば、そんなことはない。
現代の開発者たちのモチベーションは、どこにあるのか。話を聞いてみれば、「何かの役に立つ」とか、「何かの得になる」とか、そういうことではないらしい。要約すれば、「ただ面白いから」。そんなシンプルな理由で、コンピュータ将棋の最前線では、現在も熱い戦いが続いている。
3日間にわたる大会の模様はまた詳しくお伝えすることとして、本稿では取り急ぎ、機械の身ならぬ、開発者が何を食べているのか、というレポートをしてみたい。
まずはこちら、「呼きつね」(こきつね) のいなり寿司。
コンピュータ将棋ウォッチの第一人者とも言える千田翔太(ちだ・しょうた)五段が、予選の1日目、開発者にどーんと差し入れをして、話題になった。
筆者も早速、ニコファーレ近くのお店で買い求めてきた。使われているあげは、熊本名物の、南関(なんかん)揚げ。ふっくら、ジューシーで、風味が素晴らしい。スタンダードな金胡麻は、王道の美味しさ。くるみというチョイスもあり、おそらく多くの人にとっては目新しい組み合わせで、経験のない食感である。
今後、電王戦のイベントなどでニコファーレを訪れる機会があれば、ぜひお求めいただきたい。
将棋ときつね、ということで関連しそうな話をすれば。昔、金易二郎(こん・やすじろう)という棋士がいた。肩書は、名誉九段。将棋連盟所属の棋士には、ある時から通しで番号がつけられるようになったが、その棋士番号の1番にあたる。ちなみに2番は、木村義雄14世名人だ。
金(こん)があるとき、電話でうどん屋に出前を頼んだ。注文は、きつねうどん。名前は、こん。うどん屋は冗談だと思って、取り合わなかったという。本当の話なのかどうかは、筆者は知らない。
千田五段ほどの格調の高さはないが、筆者も差し入れを持ってきた。2日目はきのこの山と、たけのこの里。
開発者の皆さんには、どちら派かを問うて配ったのだが、たけのこ派と即答で名乗る人が多かった。
プログラマの場合、きのこ、たけのこではなく、プログラミングの際に用いるエディタの話になると、途端に不穏な空気が流れ始め、場合によっては戦争になるのだという。
3日目は、エンゼルパイとチョコパイにしてみた。
こちらに関しては、特にこだわりはなく、どちらもいい、という人がほとんどだった。
電王トーナメントでは、開発者には弁当が出される。写真は2日目の昼より。
鶏の唐揚げや焼き鳥など、がっつりとしたタイプである。他には魚という選択肢もあった。
決勝トーナメントでは、持ち時間は2時間。昼前に始まった対局は、午後遅くに終わる。コンピュータが考え続けている間、開発者はおりを見て、食事を取る。3日目の弁当は、運営側から、鮭、牛、豚という3種類が用意されていた。
筆者は「浮かむ瀬」開発者の平岡拓也さんにお願いして、その写真を撮影することにした。平岡さんは、対局の間、とても食べる気がしなかったという。
準決勝の対局が終わって、決勝進出を決めた平岡さんが、遅い昼食を口にしたのは、15時半頃だった。
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