先日、日本に帰国中、ニューヨークを活動基盤にする文芸エージェントの大原ケイさんから「ねえ、大統領選についておしゃべりイベントしない?」というお誘いがあり、今年の大統領選挙について東京でトークイベントを行いました。そのハイライト、後編をお届けします。
選挙を左右する地上戦とは
大原ケイ(以下、大原) ところで、トランプは「地上戦」に弱いですよね。
渡辺由佳里(以下、渡辺) 地上戦って日本の方にはわからないですよね? 普通の人の家に行ってドアを叩くんですよ。私もアメリカに戻ったら行く予定です。知り合いから誘われていて。
大原 テレビには頻繁に出てくるし、ヒラリーの動員数も大きいけれど、その人たちがちゃんと投票者登録をして当日投票してくれないと勝てない(登録せずにいきなり投票所に現れても、投票はできない)。登録させて、投票所に足を運ばせる、という地上戦に関しては、ヒラリーのほうが8年前から大統領になるために準備してる。
表面的な人気だけだとトランプが勝ちそうだけど、予期しない出来事さえなければ、ヒラリーでしかあり得ないと思う。
渡辺 でも今回の選挙は、これまでの常識が通用しないから、成り行きはわからないです。
大原 さっき、地上戦に行くと言ってましたけど、どこに行くんですか?
渡辺 私はニューハンプシャー州に行きます。ニューハンプシャーは、現在はヒラリーに傾いていますが、トランプの熱烈なファンが多い州です。民主党にとって、ニューハンプシャーは絶対に押さえておかないといけない州なんですけれど、けっこうあぶない。
会場 それはボランティア・バスとかで送迎してやるんですか? それとも投票所に現地で集合?
渡辺 高校の駐車場に集まって、そこで、いくつかに分かれて運転して行くんです。時々嫌な思いはするけれども、いいおしゃべりができることもあると聞いています。ボランティアの地上戦には電話戦略もあります。「次の選挙、誰に投票するんですか? 重要な選挙ですから、ちゃんと投票してくださいね」みたいな電話の飛び込み営業みたいな内容です。
大原 由佳里さんの住むマサチューセッツや私が住むニューヨークは、結果がほぼ決まっているから、あんまり周囲に呼びかけても意味がないんですよね。ニューハンプシャーみたいにスイング・ステートとして重要なところに出かけて地上戦に参加しないと。そういう点でも、アメリカはボランティアの利用の仕方がすごく上手な国ですよね。
渡辺 日本では想像できないでしょうが、お年寄りで交通手段がない人をバスでお迎えに行って連れて行くっていうサービスとかもあります。そうやって選挙に行ってもらうのも地上戦です。投票できるように登録するのを手伝うのも。
大原 それに対して共和党はすごいことをやっています。民主党が強い場所では、投票を阻止するために事前から、お年寄りだと行きづらいように、その日投票できるところを少なくして遠くに行かないと投票できないようにしたりとか。田舎のお年寄りは、パスポートや運転免許所のような身分証明書を持ってない人も多いんですよ。投票は国民の権利だし、これまで不正事件はほとんど起きていない。なのに、突然身分証明書がないと投票できないルールに変えてしまう。
アラバマとかでおばあちゃんが、「アタシは50何年も投票してるけどパスポートいるなんて言われたのは初めてです」という事態になる。特に、共和党が嫌がらせのターゲットにするのが、黒人の民主党員が多い場所なんですよね。
ヒラリーの体調とトランプの気まぐれ
会場 ところで、ヒラリーの体調は実際どうなんですか?
渡辺 ヒラリーは、元気な人ですよ。でも無理をするタイプ。トランプもタフだけれど、ヒラリーのほうがずっとタフです。トランプがするのは大きな集会だけ。でも、ヒラリーはおもに小さなタウンホール形式。このやり方だと、一日に何回も移動があり、支持者と直接接する機会も多い。
タウンホール式イベントで少数と身近で接するヒラリー
大原 いろんな人とあってハグしたりとか握手したりとか。トランプは自分の飛行機で乗り付けて壇上で「ハイ! 俺様はグレート! イエーイ」って言って帰るだけだから、楽なんですよ。
数千人を集めるラリーを専門にするトランプ
渡辺 直接触れないからウィルスも感染らない(苦笑)。ヒラリーがやっていることって、本当にタフですよ。あっち行ってこっち行って飛び回って、寝る暇はほとんどない。