樋口毅宏、燃え殻に説教される

プロレス好きの燃え殻さんと作家の樋口毅宏さん対談後編。話は、プロレスをモチーフにした小説『太陽がいっぱい』で「引退宣言」をした樋口さんのパフォーマンスに及びます。どうやら「引退宣言」がだいぶスベってしまっているそうで……。その体たらくを現代のプロレスの栄枯盛衰になぞらえ、燃え殻さんからの熱い叱咤激励が飛びます。

もはやプロレスは孤高のジャンルではない

燃え殻 樋口さん、作家を引退するって話をしてましたけど、あれ、なんなんですか? Twitterもやめちゃってるし。

『太陽がいっぱい』の帯に「樋口毅宏 引退宣言」とあります。びっくりしました。

樋口毅宏(以下、樋口) ははは。

燃え殻 樋口さんで暖がとれるぐらい、炎上しましたよね。本当にあれは反省した方がいいですよ。

— 時を同じくしてTwitterも辞めてしまったんですね。

樋口 Twitterは『民宿雪国』のときから販売促進のためにはじめて。それこそ燃え殻さんと会えたり、これまでTwitterを通していいことがあったし、会いたい人には会えました。嫁もゲトした。役に立ったこともあったけど、結論としてあまり販促効果はないなぁと。それに息抜きで見てる分にはいいけど、ついつい長い時間見てしまって時間が取られてしまう。付き合いでリツイートしたり、フォローしている人の中でも大上段から説教や皮肉や悪口を書き散らしている人がいて、でもフォローを外すわけにもいかないからミュートにしたり……。
 なんでもうサラリーマンでもない、誰も知り合いがいない京都に引っ越したのに、ネットでしがらみに縛られているんだろうと思った。ここは思い切ってやめるべきかなと。僕はわりと定期的に、それまでの関係性を一回チャラにしたくなる衝動に駆られるんですよね。今回もそう。

燃え殻 樋口さん、『日刊SPA!』の引退について話したインタビュー(作家・樋口毅宏が引退表明!? 「作家なんて男子一生の仕事じゃない」)があったじゃないですか。あの記事が大スベリをしたんですよ。ここに来るまで何人もの人に止められたけど、僕はWJに上がるつもりできましたから。
※WJ:2002年に長州力がタニマチの福田政二社長から協力を得て旗揚げした団体。「プロレス界のど真ん中を行く」と宣言したものの、目玉となる長州VS天龍の6連戦が天龍の負傷で3戦目で中止となり、アメリカで製作したヘビー級のベルトが試合に間に合わず、格闘技イベントを開催すると金網が崩れそうになるといったトラブルが頻発。半年で経営は悪化して離脱者が続出し、2004年8月に活動停止となる。

樋口 止めたの誰? それって燃え殻さんが何かトラブルがあったら「足を引っ張られないようにおまえも見捨てる」って言ってるようなものだと思うけど。でもそれなのにきょうは来てくれたんだ。燃え殻、おまえ男だ!

燃え殻 男じゃなくていいから、ちゃんと反省して下さい!!!!

樋口 ど真ん中を逆走してましたか。見出しと写真を読み返すと不遜だなぁとは思いました。「役者なんて男子一生の仕事じゃないよ」と、石原裕次郎のオマージュだって誰にもわかってもらえなかったか。

燃え殻 いまの新日本プロレスは不透明決着やフロントとのいざこざといった旧来のプロレス的な澱を排除したじゃないですか。

樋口 『真夜中のハーリー&レイス』に出た時、清野茂樹さんと話したんですけど、いまの新日本プロレスに「影」とか「沼」みたいなモノはないですよね。その会場で行われてる試合を観て「面白かった!」と満足して帰ることができるのが、いまの新日だと思うんです。
 小川直也が橋本真也をボコボコにして、「あれはいったいなんだったんだろう」とモヤモヤして帰るような、そういった謎かけはないよね。
※『真夜中のハーリー&レイス』:ラジオ日本で毎週火曜日深夜(現在は午前2:00~2:30)に放送されているプロレスラジオ番組。清野茂樹アナがNWA世界ヘビー級選手権を掛けてゲストとプロレストークを展開。毎回「時間切れドロー」と言う形で清野アナが防衛する。
※小川直也が橋本真也をボコボコ:1999年1月4日、東京ドームで3度目となる橋本vs小川戦が行われるも、小川が馬乗りしてのパンチや後頭部への蹴りなど暴走ファイトを展開し、試合はノーコンテストに。小川は「新日本プロレスのファンの皆様、目を覚ましてください!」と絶叫した。

燃え殻 いまの新日に「不穏な試合」はいらないんですよ。

—ちょっとすみません。樋口さんのあの記事は「不穏」じゃなくて、ただスベッてるだけですからね。

燃え殻 そう。あれは地スベりです。

樋口  「こんなのプロレスじゃない!」と拒絶されたんだ。

燃え殻 先ほど樋口さんが言った小川と橋本の試合は1999年で。その後、2005年にユークスが猪木の株を全部買ったことで、新日本プロレスは一般企業化したわけですよ。2012年に株主がブシロードに移ってからドーンと売れた。その間に不穏なことは排除していったんですね。フロントとのいざこざを見せるんじゃなくて、いかにレスラーがリング上で輝くかを追求することがプロレスという職業なんだと。ブシロードの木谷社長は「プロレス事業が音楽ビジネスに近い」と言ってて。
ユークスが猪木の株を全部買った:プロレスゲームの開発メーカーであるユークスが、アントニオ猪から新日本プロレスリング株式会社の株式の51.5%を取得、同社を子会社化。不明朗な資金の流れや採算性に問題のあった興行を見直した。
2012年に株主がブシロードに移って:カードゲームで急成長したブシロードが新日本プロレスを買収。プロレスファンでもある木谷高明オーナーはテレビのスポットCMや山手線の車体広告、駅貼り広告などキャンペーンを打ち出すなど、プロレス人気復活に投資を惜しまない。

樋口 ライブのように試合をコンテンツとして考えるということ?

燃え殻 そうです。試合があって、物販があって、キャラクタービジネスがあって、2次使用、3次使用も見込める。もはやプロレスは孤高のジャンルではないんですよ。

樋口 うん。うん。

燃え殻 その結果、いまの新日本プロレスは花開いてるんですよ。さらに言えば、その礎を作ったユークスの時代に僕たちはPRIDEに浮気してたじゃないですか。
PRIDE高田延彦とヒクソン・グレイシーの試合を実現するために立ち上げたイベントだったが、回を重ねるごとに煽りVTRや演出のクオリティが上がって一大ブームとなった。総合格闘技ではあるものの、その展開にプロレスのエッセンスを取り入れ、桜庭とホイス、シウバの絡み、ヒョードルとノゲイラ、ミルコによる無差別級GPはドラマティックな展開となった。

樋口 そうだったね。

燃え殻 そのことを認めなきゃいけない。

樋口 後ろめたさはあるよ。若手時代のオカダや内藤を知らないんだから。自分の中で歴史が空いちゃった。

2人が口をそろえて驚いたオカダ・カズチカのドロップキック

燃え殻 その頃、棚橋が新日本プロレスを支えていたんですよ。それが、2014年9月に対戦した柴田の「新日本を守ってくれてありがとう」につながるわけで。あの試合、1度は新日から出て格闘技に挑戦していた柴田がバチバチでいこうとするも、棚橋は正調のプロレスで返していくんですよ。そんな棚橋の矜持に観客は声援で応えて、柴田も改めて正調のプロレスを見せた。
 樋口さんのインタビュー記事は旧来のプロレスの悪い部分を凝縮したようで、棚橋たちが築いてきたことに対して失礼だったんですよ。
柴田:デビュー5年目から武蔵戦など格闘技戦に挑むことが増える。2005年1月31日付けで新日本を退団。07年からは総合格闘技団体に参戦。桜庭和志や秋山成勲、石井慧と対戦する。2012年9月に桜庭とのタッグで新日本に「ケンカを売りに来た」が、戦いを通して後藤洋央紀や棚橋と和解。新日本隊と共闘するようになり、2016年3月3日、新日本プロレスに再入団。

樋口 棚橋たちを愚弄したと? もちろん、いまの新日本プロレスも好きですよ。

燃え殻 一緒に1月4日の東京ドーム大会を観に行った時、そろって「あ!」と言ってしまったのがオカダ・カズチカのドロップキックの打点の高さだったじゃないですか。
オカダ・カズチカ:1年間の米国修行を終え、2012年1月4日に新日本に金を降らせる“レインメーカー”として凱旋帰国。2月に早くも棚橋からIWGP王座を奪うと、新日マットの主役のひとりとなる。2015年11月には天龍源一郎の引退試合の相手も務め、東京スポーツ主催のプロレス大賞で年間最高試合賞を受賞した。

樋口 あれは凄かったね。新日本プロレスの歴史で、いまほどレスラーたちが身体を張ってる時代はないし、もっともっと恩恵を受けてほしいよ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
大事なことは全部プロレスに教わった—樋口毅宏×燃え殻

燃え殻 /樋口毅宏

cakes で大好評を博した小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』でお馴染みの燃え殻さんと『さらば雑司ヶ谷』や『タモリ論』などで知られる作家の樋口毅宏さん。お二人はプロレス好きの友人同士。実は、燃え殻さんにcakesで書くことを勧...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

rexit 樋ロ毅宏、燃え殻に説教される|樋ロ毅宏/燃え殻  “「役者なんて男子一生の仕事じゃないよ」と、石原裕次郎のオマージュだって誰にもわかってもらえなかったか。” ← 全然わからなかったw。 3年以上前 replyretweetfavorite

rexit 樋ロ毅宏、燃え殻に説教される|樋ロ毅宏/燃え殻  “どうやら「引退宣言」がだいぶスベってしまっているそうで……。” ← それ、普通に言っちゃって良いのかw。 3年以上前 replyretweetfavorite

51ky41 燃え殻さんの滾る思いを受け、樋口さんは嫁に何を伝えたのか? プロレス解説※がいちいち的確で編集者の変態的な趣向を讃えたい(^^) @Pirate_Radio_ @higu_take 3年以上前 replyretweetfavorite