誰もいない教室で、僕は思いきり自分を恥じた

今年もまた文化祭の季節がやってきました。都内の某私立高校で教師をしている海老原ヤマトさんが受け持つクラスは、ジュース・スタンドの模擬店を出したのだそう。学校行事で生徒たちの距離が縮まる一方、人付き合いに不器用な生徒もいて…。今回は、海老原さんが4月から気にかけていた、とある男子生徒のお話です。

今年の文化祭も、ぶじ幕を閉じた。高2の我がクラスは、ジュース・スタンドの模擬店を出した。当日はムシムシしていたから、想像以上に売れ行きを伸ばし、生徒の顔はほっこり。

最初はやる気がなかった生徒も、お客さんがたくさん来てくれると率先して動き、手伝ってくれた。

それでも、人付き合いに不器用な子はいる。準備にピリピリしたクラスメートに怒られ、助けを求める目でこちらをまなざす男子。クラスTシャツを忘れ、みんなと“まとまれない”女子…。

僕には気にかかる男子が一人いた。本当は明るくてやんちゃだけど、クラス内では口数も笑顔も少ない。口グセは、いつだって「せんせー、早く、クラス替えしてよ…」。当然ながら、クラス替えは来年4月までやって来ない。

彼は、文化祭を楽しめただろうか?

仲のよい友だちと離ればなれに

今年の4月、2年の新クラスで、彼は仲のよい友だちと離れてしまった。僕が担任を受け持つクラスとなった彼は、春からすでにクサクサ・モード。「終わった…。この1年間には、なーんにも期待してない」。休み時間も、クラスの男子とつるむのが気まずいのか、チャイムが鳴ると外に向かい、授業直前に戻ってくる。

1年時の担任の話では、「とにかく生意気で、話が通じない」。僕は身がまえたけど、妙な先入観は持たないようにしようと思った。そして、彼とのコミュニケーションの機会を多くした。

最初はぶっきらぼうで、ときに声を荒げて反抗するシーンも多かったけど、6月くらいまでには落ち着くようになった。

聴けば、会社を切り盛りするお父さんを尊敬してるらしい。そして、「お母さんに、こづかい減らされるから、遅刻は減らす」とも。何だかんだで良好な親子関係なのだろう。

こうした話を彼と気軽にできるようにもなった。一方で、関係ができると、今度は甘えてくるシーンが増える。授業中にマンガを読む、ホームルームをサボる、親への配布物を渡さない、などなど。

その度にきっぱり叱った。ここで下手(したて)に出たら、むしろチョロい担任だと見くびられるだけだろうと思った。

そんなこんなで、彼と僕は、生徒と教師の距離感を手さぐりしながら、1学期を終えた。ただ、彼がクラスの男子になじもうとしない点は、気にかかったまま…。

そして2学期。すぐに文化祭準備に入った。案の定、彼はクラスの準備に前向きに関わろうとしなかった。かといって積極的にサボるほどでもない。関心がないわけじゃないけど、関わり方がよくわからない、宙ぶらりん。

昨年の文化祭の“失敗”を思い返していた僕にとって、彼を文化祭の準備へ強引に関わらせるのは、気がひけた。教師として何らかの形で働きかけることをためらい、だいぶ弱気になっていたのだ。

結局僕は、クラスの文化祭に対する彼の関わり方を見守ることしかできなかった。

初めて見た彼の意外な一面

「クラス」というまとまりになじめない生徒の多くは、放課後の部活という居場所を大事にしやすい。生徒みずから選びとった場所なだけに、わりかし居心地がいいのだろう。

僕が気になっていたその男子生徒もバスケに打ちこんでいて、日頃つるむ友だちの半分くらいはバスケ部。

文化祭プログラムを見てみると、バスケ部の特別試合のイベントがあった。引退した3年と現役の2年が、お客さんの前で真剣勝負するらしい。そんなイベントがあるとは、彼は一言も教えてくれなかった。

僕は、クラスへの彼の関わり方については「見守る」しかできなかっただけに、彼の部活での活躍は見とどけておきたかった。

そして当日。自分のクラスが運営するジュース・スタンドを抜け出し、体育館に走った。すると、ウォーミングアップを終えた選手一同が、観客席に寄ってきて一礼するタイミングだった。

たまたま僕から近いところで一礼していた彼は、目のはしに僕を見つけた。ちょっとおどろいた様子で白い歯をにっと見せ、「来てくれたんだ」と一言。

ゲーム開始。野球しかやってこなかった僕は、体育館のスポーツ、それも身体がぶつかり、バスケット・シューズがキュッキュッと鳴る高校バスケの試合に圧倒された。体育館に広がる声の反響も、屋外スポーツとはちがった迫力がある。

機敏に動き、声をかけ、集中し、真剣そのもの。初めて見た彼の一面だった。

試合を見ながら、文化祭って、作り上げたものを披露する場であると同時に、生徒一人ひとりの居場所のお披露目会でもあると気づいた。

クラスだけが居場所じゃないしな、とは思いつつ、クラスで彼を生きいきさせられない自分の非力が、いっそうむなしくなった。

「あんたは必要ないから遊んできていいよ」

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教室では言えない、高校教師の胸の内

海老原ヤマト

一般企業に就職した後、私立高校で先生をすることになった30代前半の新米教師が、学校内で起こるさまざまな出来事を綴っていきます。教室や職員室での悲喜こもごも、そして生徒の言葉から見えてくる、リアルな教育現場とは?

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コメント

tipi012011 いい先生が居るものだ。 約2年前 replyretweetfavorite

moriyumi0721 この連載、好き。先生もいろんなこと考えてたのかなーとふと高校時代をふりかえってみたり→ 約2年前 replyretweetfavorite