2016年の王位戦七番勝負、最終第7局は、神奈川県・鶴巻温泉「元湯 陣屋」でおこなわれた。結果は、羽生善治王位が、挑戦者の木村一基八段に勝ち。4勝3敗で、王位のタイトルを防衛した。
羽生王位の通算タイトル獲得数は、これで96。この、現実とは思われないような数字は、羽生が持つ、史上最高の技量を的確に表わしている、とも言えるのだろうか。
一方の木村は、初タイトル獲得まで、またしても、あと一歩、及ばなかった。43歳の今回が、実質的にラストチャンス、と思っている人も多いかもしれない。しかし、どうだろう。木村がよく揮毫する「百折不撓」の言葉通り、またタイトル戦の舞台に戻ってくるものと、期待したい。
第7局、現地には多くのファンが駆けつけ、大盤解説を見守っていた。昼にはレストランの限定メニューとして、陣屋名物のカレーが出され、好評だったようだ。
現地の盛況をネット中継越しに垣間見て、筆者が思い出したのは、2011年の王将戦七番勝負のことである。久保利明王将に、豊島将之六段が挑むシリーズで、第5局を終えた時点で、久保3勝、豊島2勝となっていた。
そして、3月11日。東日本大震災が起こった。将棋界もまた、その影響を大きく受けた。第6局の日程はあらかじめ、3月14日、15日に、陣屋でおこなわれるものと決まっていた。諸般の事情から、当然ながら、対局の開催は危ぶまれた。それでも関係者が協議した結果、対局はおこなわれることになった。
やっとのことで開催された、第6局。現地の大盤解説会などは、中止とされた。関東では、多くの地域で停電が起こっていた。記録係が座る机には、ろうそくの用意がされていた。
筆者は、ネット中継を担当していた。テレビが伝える計画停電のスケジュールを見ながら、中継を最後までできるのかどうか、心もとなかった。
1日目、封じ手の後で、やはり停電に備えて、陣屋の自家発電機によって灯されたライトのテストもおこなわれた。
もし、停電が起これば、薄暗い中での対局がおこなわれていたかもしれない。
幸いにして、停電も、大きなトラブルも起こらなかった。
対局の方は、久保王将が勝って、王将位防衛を果たした。
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