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長年の友達が実は、過去に性暴力被害に遭っていたことを知った。
どういう流れでその話になったのか、怒りで記憶が吹っ飛んでしまった。被害の詳細は書かないけれども、彼女が受けたのは、日本語で「痴漢」と呼ばれる性暴力である。
被害について語る彼女は、「そういえばこんなことがあったんだよね~」くらいのノリであった。悲しみも、恐怖もにじませることなく、例えるなら「子どもの時に一輪車でコケて泣いた」みたいな、完全に過去として消化しきった話し方を彼女はしていた。だから私は調子を合わせようとした。
けれどもやっぱりどうしても、私はそのクソ野郎をタコ殴りにする想像をしなければ気持ちがおさまらなかった。想像の中で私は、あおむけに寝かせたそいつの腹の上を、エグいスパイクのついた靴でぴょんぴょん飛び跳ねながら歌った。
実際には無理だろう。いかに性暴力加害者とはいえ、タコ殴りにしたならこの法治国家日本では処罰されるのだと思う。それに私はエグいスパイクのついた靴なんか持ってないし買う気もないし、そもそも私の肉体と精神では成人男性一人をタコ殴りにすることなんて基本的に無理だ。無理なんだけれども——だからこそ私は、想像の世界でそいつの腹の上をぴょんぴょんしなければ私を守れなかったのだろうと思うのだ。実際にタコ殴りする力を、私という人間が持たないからこそ。また、そいつをタコ殴りにしたからといって、根本的な痛みが癒えることはないと私が知っているからこそ。
だからこそ。
「そいつ、殴りたくね?」