棋士とメシ

早熟の天才VS晩成の星

9月27日。将棋界では、王位戦七番勝負の決着がつく日です。羽生王位が46回目の誕生日を防衛で飾るのか。それとも木村八段が初タイトルを獲得するのか。

 羽生善治王位に木村一基八段が挑む、王位戦七番勝負は、羽生3勝、木村3勝で、最終第7局へともつれこんだ。そして9月27日、第7局の2日目を迎えている。

 第6局は、羽生が中盤でポイントをあげ、そのまま優位に立った。次の一手問題にも出てきそうな、作ったような絶妙手も織り交ぜ、羽生の攻めは、ほぼ完璧だった。

 一方の木村は、棋風の通り、勝負をあきらめずに、粘り強く受け続ける。ここで、木村の有名な言葉を引いておきたい。

>負けと知りつつ、目を覆うような手を指して頑張ることは結構辛(つら)く、抵抗がある。でも、その気持ちをなくしてしまったら、きっと坂道を転げ落ちるかのように、転落していくんだろう。(『将棋世界』2007年5月号)

 不利な将棋を指し続けるのは、つらい。誰だってつらい。それはプロもアマも、変わりはない。そして、木村の場合は、史上最強の羽生を相手にして、耐え続けなければならない。

 第6局では、木村のがんばりは報われなかった。木村ファンにとっては、目を覆いたくなるような敗戦だった。しかし、木村らしさを見せた一局だったとも言えよう。

 23歳で四段に昇段した木村が、43歳で初タイトルを獲得すれば、それは快挙である。9月27日、木村ファンは、ネット中継から目を離せない一日となるだろう。

 羽生善治は、1970年9月27日に生まれた。王位戦第7局のさなかに、46回目の誕生日を迎えている。14歳で四段、19歳で竜王位を獲得、25歳で全七冠制覇という経歴は、改めて、どう形容すればいいのだろうか。

 故・河口俊彦八段は『月下の棋士』(能條純一作、ビッグコミックス)の巻末で、「月下棋人の譜」というコラムを連載していた。第26巻が発売された1999年11月時点で、以下のように記している。

>羽生は現在で四冠を持っており、これらを防衛しつつ、名人・竜王も近いうちに奪い返すだろう。とすると、タイトル獲得数はさらに増え、多分中原を追い抜く。ただ、大山の80期までは届かない気がする。

 大山康晴80期、中原誠64期、というのがタイトル獲得数の記録である。それに次ぐ羽生は当時、40期だった。

 羽生も強いが、他の棋士もまた強い。羽生であっても、竜王位や名人位を奪われている。だから大山の記録80期を抜くのは難しいのではないか。そう河口が考えたとするならば、それはごく常識的な見方である。

 しかし現実は、その上を行った。

 羽生のタイトル獲得数は、現在、95期。もし王位防衛となれば、96期となる。

 羽生がこれまで盤上で見せ続けてきた妙技も、その結果残された成績も、思えば現代の奇跡のようだ。では、それは、いつまで見せ続けてもらえるのだろうか。

 史上最強の羽生の勇姿を、これからもずっと見ていたい、という人にとっても、2016年9月27日は、注目の一日となることだろう。

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松本博文

あの大一番を支えた食は何だったのか―― 現在における将棋対局のネット中継の基礎をつくり、食事の中継の提案も行った松本博文氏がつづる、勝負師メシのエピソード。

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コメント

nmoriyan @show_san31 それは将棋ファンとして非常にまっとうな感想です。木村先生本当に素敵な方なんで、ぜひ羽生先生以外からタイトルを…。 3年弱前 replyretweetfavorite