6月、私は生まれて初めてフィンランドに降り立った。
フィンランドは初夏。温かい季節を迎えた歓びで、北欧の街は光り輝いていた。飛行機から見下ろした、森と湖の美しさに目をうばわれ、私はこれから待ち受ける日々に胸を高鳴らせた。
そもそも、なぜフィンランドに旅立つことになったのかといえば、フィンランド語訳版の拙詩集が出版されるにあたり、現地のポエトリーフェスティバルに出演が決まったからだ。
ポエトリーフェスティバルとは、詩人たちを中心にした賑やかな「お祭り」。野外ステージで詩人が朗読する中、料理の屋台が並び、出版社の出張販売も行われる。親子連れや文化系の若者で賑わう、盛大なイベントだ。
約2週間の滞在を共にしたのは、アーティストのチョーヒカルさん。私が21歳、彼女が19歳のときに知り合って以来の友人である。彼女の代表作は、インパクト抜群のリアルなボディペイント。
私は今回、いつか朗読とコラボレーションしてみたいと思っていたチョーさんに、ライブペイントでの共演をお願いした。
ところが滞在中は、自分の欠点を突きつけられ、異国でヒリヒリとした日々を過ごすことになった。
私は自分の臆病さに逃げ込み、人任せのズルい生き方をしてきたのかもしれない……。
そんな思いにとらわれ、帰国前日もホテルのベッドの中で悪夢にうなされる始末。せっかく異国まで来たというのに、なんてお粗末なのだろうか。
このまま30歳になると「思いやりゼロ人間」になる?
話は、出発日の6月9日に遡る。成田空港から約10時間のフライトの末、ヘルシンキ空港に到着。次のタンペレへのフライトまで、数時間の間があり、私たちはひとまず空港内のカフェに落ち着いた。
朗読とのコラボレーションに関する打ち合わせを終えた後、チョーさんは唐突にこう漏らした。
「自分の性格の悪さを直したいんですよね」
「まあ、私も性格よいとは言いきれないし、気にしなくても……」と軽くとりなそうとすると、「ええ!?」という声に遮られた。
「まさか、どちらかといえば『性格よい』と思ってるんですか?」と顔を覗き込んでくるチョーさんを前に、ぐっと言葉に詰まる。
「いや、まわりに助けてもらいたくて、過剰に困った雰囲気を自分から出しちゃってるなあ、ってよく反省してるよ……」
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