左:藤井健太郎 右:おぐらりゅうじ
「テレビ業界はダサい人が多い」の理由
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 藤井さんの『悪意とこだわりの演出術』に書かれていたことで感銘を受けたのは、やっぱり「テレビ業界の人はダサい人が多い」っていうところですね。
藤井健太郎(以下、藤井) そこ、みんな食いつくんですよ。ってことは、外の人も潜在的に思ってるってことですかね。
おぐら まぁでも事実、本物のおしゃれな人はテレビ業界を目指さないでしょうし、その影響で、番組のアートワークにしても、使われている楽曲にしても、ほぼダサいのは間違いない。
藤井 デザインとか見映えをあんまり重視してないんですよね。大衆に向けていく過程で、そういう部分は必要ないとジャッジされていったんだと思いますけど。
おぐら そのせいで、テレビを見ることがイコールでダサい、という雰囲気も一時期ありました。
藤井 家にテレビがないのが格好いい的な。さすがに最近はそんなことないですけど、それはテレビがだんだん弱いメディアになってきたからで。少しはデザインとかを気にするようになってきたし、強かった頃のほうがやっぱり、ね。
おぐら 王様だったがゆえに、鈍感だった時代。
藤井 ちなみに、僕の言っているダサいの種類は、広告代理店の人みたいな方向のダサいですよ。
おぐら それ、まったく興味がない人のダサいより、よっぽどタチが悪いですよ。
藤井 就職活動の段階で、とりあえず商社と広告代理店とテレビ局を受ける、みたいな人が多かったら、そりゃそうなるよなっていう。
おぐら あとは、これも本に書いてあった、テレビは他のカルチャーと比べて浅い、っていうのも、人材の質の問題ですよね。全員とは言わないまでも、テレビ業界の多くの人が、流行りのタレントや芸人にはめっちゃ詳しいのに、最新の音楽とか演劇とかはノーマークだったり。
藤井 文化的な素養って、業界に入ってからじゃ遅いんでしょうね。社会に出る前に、何をどんなふうに見て育ってきたかってことで。やっぱり学生時代に飲み会中心の生活だった人は、ちょっと……。
おぐら しかも、そういう飲み会中心だった人が就職戦線で勝ったりするから。これは就活市場がコミュニケーション能力を持ち上げすぎた弊害です。
藤井 それに、本当の才能や深い知識のある人は、テレビ業界に行こうとは思わないんですよ。たぶん。
おぐら 映像表現が好きで、ちゃんと才能があったら、自分で配信して世に出るか、就職するとしても、今だったらライゾマティクスとかに行くでしょうね。
藤井 しいて言えば、笑いっていうジャンルに関しては、まだテレビが一番強いとは思います。劇場とか現場のお笑いは別として。
おぐら でも藤井さんは、テレビを選んだわけですよね?
藤井 格闘技とか音楽とか、好きなものはいろいろありましたけど、テレビが一番好きでしたよ。あと就職でいえば、僕が安定志向っていうのが大きいです。テレビ局員なら、ある程度好きなことやれて、安定した給料もらえるだろうなって。変な話、瞬間的にだったら、今会社辞めてフリーになったほうが稼げるとは思いますが、まぁ絶対ないですよね。長い目で見た時に、金銭的なことはもちろん、何のメリットもないですもん。心配性なだけっていうのもありますけど。
おぐら その心配性な性格は、番組作りにも出てますよ。計算された笑いの構造、別の言い方をすれば、スベらないための仕掛けが綿密に張り巡らされている。
藤井 小ネタをいっぱい仕込んだり。
「地獄の軍団」長の冷静さ
おぐら 僕はこれまで、いろんなテレビ制作者の方にインタビューしてきましたけど、わりと熱っぽいタイプの人が多かった。自分なりのバラエティ哲学を語るような。それが藤井さんは「テレビ局は安定してるから」って。ここまでクールな人、初めてです。
藤井 熱がないわけではないんですよ。表には出づらいっていうだけで。世代もあるのかもしれませんけど。
おぐら 確かに、今20代から30代で活躍している俳優やミュージシャンも、クールな人が多いかも。「有名になりたいとか全くないんで、仲間と自由にやれたらそれが一番です」みたいな。「音楽で世界を変えてやる」的な人は、だいぶ減ってるでしょう。
藤井 大人しいタイプは増えてますよね。時代の温度なのかな。
おぐら だってマッチョな男、減ってません?
藤井 でもEXILEとかはあるわけだから。映画のヒット作の話と同じで、それも界隈論じゃないですかね。
おぐら 演出家時代のテリー伊藤さんのようなクレイジーな人って、今あんまりバラエティ業界にいないですか?
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