テレビに熱狂を生む「地獄の軍団」TBS藤井健太郎のクールな番組作り

テレビが面白くなくなったと囁かれる昨今、『水曜日のダウンタウン』や『芸人キャノンボール』といった挑戦的な番組作りで、熱狂的なファンを生み出しているのがTBSテレビプロデューサーの藤井健太郎さん。先日発売した藤井さん初の単著『悪意とこだわりの演出術』も3万部を突破し、大きな注目を集めています。今回はその発売にあわせ、雑誌『テレビブロス』の編集部員であり、cakes連載「すべてのニュースは賞味期限切れである」のおぐらりゅうじさんと対談を行いました。刺激的な「現代テレビ対談」を、前後編に分けてお届けします。

左:おぐらりゅうじ 右:藤井健太郎

熱狂的なファンがいても視聴率のいい番組には勝てない

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 藤井さんとは1980年生まれの同い年で、2011年の6月にテレビブロスで『クイズ☆タレント名鑑』の特集をやった時、取材で会ったのが最初ですよね。

藤井健太郎(以下、藤井) ですかね。『クイズ☆タレント名鑑』のレギュラー放送は、2010年の8月から2012年の3月までだったので、ちょうど真ん中くらいだったんですね。

おぐら 当時、藤井さんは総合演出兼プロデューサーでしたけど、30歳でその肩書きは早くないですか?

藤井 早いほうだとは思いますが、特別珍しいって訳でもないですよ。

おぐら 2012年には、『テベ・コンヒーロ』で「コウメ太夫で笑ったら即芸人引退SP」という衝撃的な回があって。放送が終わった直後、一体あれは何だったんだ……!? っていう特集を急きょ企画して。

藤井 番組の特集かと思ったら、すでに放送が終わっているコウメ太夫の回だけを取り上げるっていうので、まぁブロスならではの企画でしたね。

おぐら コウメさんにインタビューしたら、「本当はマイケル・ジャクソンになりたかったんです」とか言っていて、それで白塗りなのか……いや違うだろ!って。

藤井 あの人はやっぱりその辺の変わり者とはレベルが違いますから。

おぐら 最近だと、ブロスの2015年の年末特大号で『水曜日のダウンタウン』の表紙と巻頭特集をやりました。藤井さんは表紙の「監修」としてクレジットされているんですけど、ブロスの30年近い歴史の中で、テレビ局の番組スタッフが表紙を監修するって、前代未聞ですよ。


藤井さんが表紙を監修した『テレビブロス』

藤井 あのときは、番組の雰囲気を表紙にも入れ込もうって話で。番組のアートワークを手がけてるODDJOBにデザインで入ってもらうことになったので、それなら僕もちゃんとやらないとって。

おぐら もちろん、僕のほうから「表紙のディレクションもしてください」とお願いしたんですが、それは藤井さんが番組のアートワークからデザインまで、きちんと自分でコントロールする人だっていうのがわかっていたからで。

藤井 バラエティ番組とはいえ、アートワークもちゃんとやりたいし、個人的にそういうのが好きっていうのもありますけどね。

おぐら そんな藤井さんが、ついに本を出して、しかももう3万部越えてるんですよね。ご自身の感覚として、今のテレビ業界を背負ってるみたいな認識ってあるんですか?

悪意とこだわりの演出術
悪意とこだわりの演出術

藤井 いや、全然ないですよ。番組の責任は背負ってますけど、業界全体とかは全く思ってないです。

おぐら でも、もはや、いちテレビ局員っていう感じではないでしょう。

藤井 外からだとそういう感じに見えるんですかね? でも、業界的な評価は、あくまで視聴率だったりするので。番組の評判がいいとか、ネットで話題になってるとかは、またちょっと違うんですよね。

おぐら 視聴率で見ちゃうと、もっと数字のいい番組が他にたくさんあるからってことですか?

藤井 ですね。例えばTBSだと、僕の番組なんかより『ぴったんこカン☆カン』のほうが断然いい数字なので、社内的にはそっちのほうが評価されます。でも、会社に一番利益を生んでいる訳ですから、評価されるのは当たり前ですよね。

おぐら なるほどなぁ。藤井さんの番組のほうが熱狂的なファンがいるのは確かですけど。

藤井 現状、そこの熱狂度は数値化も利益化もされていないですからね。世間の人が思っている以上に、会社は視聴率中心の評価です。もちろん、それが100%ではないけれど。

SNSの反応を気にして番組は作らない

おぐら 8月に放送された『芸人キャノンボール2016 in Summer』の視聴率は、どうだったんですか?

藤井 あんまり大きい声で言うことじゃないですけど、正直かなり低かったです。個人的には大好きな番組なんですけどね。

おぐら 3時間の特番で、あれだけパッケージとして完成されている番組って、今もうほとんどないですよね。

藤井 全体の完成度とかではなく、普通にザッピングして途中から見る人のことを考えた構成のほうが、やっぱり数字はいいんでしょうね。あの番組は、最初から最後までしっかり見ることを前提に作っているので。そういう意味では、ほめてくれる人がいるのはとてもありがたいですが、社内的には数字の悪い失敗作だと思ってる人のほうが多いんじゃないですかね。

おぐら 藤井さんの立場でもまだそうなのか……。

藤井 だから、テレビにおいてどこに価値があるかって話は難しいですよ。

おぐら 数字がお金の動いている指標になっているのは事実として、そこは否定しません。ただ、藤井さんとしては、内容と数字の評価について、ジレンマはないんですか?

藤井 いいもの作ったらそれでいいじゃん、とは全然思わないです。そういう空気でもないし。もちろん、テレビ業界全体で見たら、僕はまだ内容の良し悪しに向かっているほうだと思いますが、だからって視聴率を無視しようとは思わない。視聴率だけを追いかけるつもりもないけど、ちゃんと合格点を出しつつ、おもしろいものを作りたいですよ。やっぱり、あまりにも数字が悪い番組はダメですから。

おぐら それが現状のルールでもありますし。ぶっちゃけ、それがTBSとテレビ東京の違いだと思うんですよね。もちろんテレ東にとっても視聴率は大事ですけど、他の民放よりは自由度が高いというか、内容で勝負してこいっていう社風のような気がします。

藤井 テレ東にはまた、僕らとは違った価値観とルールがある気がしますよね。

おぐら ツイッターとかのネットの反応って、どのくらい気にしてますか?

藤井 多少は見ますけど、そこを目掛けて作ってはないですね。積極的に好かれようとは思わないけど、嫌われないようにはしようかな……くらいの温度感ですかね。

おぐら まぁ、そうですよね。情報番組なんかを見ていて思うのは、あの「ネット上ではこんな意見も……」っていうやつ、最近すごい多いですけど、さすがに安易すぎるだろって。ネット世論って、いわゆる真っ当な世論とは違うのに。だいぶ偏向していることに無自覚なまま、さも世間全体の声として紹介するのは、どうかと思います。

藤井 それでいったら、『芸人キャノンボール』はツイッターではけっこう盛り上がりましたけど、視聴率的には裏番組の『おじゃMAP』のほうが上ですから。

おぐら 結局はそういうことですよね。ネットでの反応を目掛けて作るなんて、そんなの炎上商法と一緒ですよ。

藤井 もしも僕が地下アイドルのプロデューサーで、100人お客さんが来たら万々歳みたいなところでやってるなら、それでもいいんだと思いますけど。相手にしているお客さんの規模が違いますから。それは、仕事としての上下ではなくビジネスの種類が違いますよね。

「質が高い」は主観の評価でしかない

おぐら 『水曜日のダウンタウン』の視聴率どうなんでしょう?

藤井 特別良くもないし、悪くもないっていう感じです。ただ、若い層からある程度取っているので、売りものになっている。一番取ってるのがM2層(35歳~49歳の男性)で、その次が20歳~34歳のM1層とF1層。視聴率が良くても、あまりに高齢層に偏っている番組は、売りものとしての価値は低いんですよ。

おぐら でも今って、視聴率のことだけでいえば、どうしても50歳以上の高齢層を狙いがちな傾向はありますよね。

藤井 若者は高齢層に比べてテレビを見てる絶対数が少ないので、視聴率を取るためにはそこを狙わざるを得ないです。

おぐら 最も視聴率のある層が、20〜30代の男性っていうのはいいですね。藤井さんよりひとつ前の世代の人たち、例えばテレビ朝日の加地倫三さんが手がけている『アメト—ク!』や『ロンドンハーツ』って、若い女性に人気があるじゃないですか。番組サイドも女性からの目線は意識しているはずで。

藤井 僕の番組は完全に男子校的なノリなので、女性のことはあまり意識してないですからね。恋愛の要素だったり、モテとかそういう感じの。

おぐら お笑いや芸人のファン層全体が、主に若い女性たちに支えられている状況のなか、『アメト—ク!』が大ヒットし、次のフェーズとして男子校ノリの藤井さんが出てきたのは、いい流れだと思います。その攻めの姿勢を称して、番組スタッフが「地獄の軍団」って呼ばれたりとか。

藤井 特定の層におもしろがってもらえることは、それはそれで大事なんですが、それだけじゃダメで。そういう意味で『水曜日のダウンタウン』は、幅もそんなに狭くないし、可能性はあるなと思ってます。

おぐら 『芸人キャノンボール』は狭すぎました?

藤井 一応、そういうつもりはなかったんですけどね。ただ、番組の元ネタになった『劇場版 テレクラキャノンボール2013』にしても、ヒットしたとはいえ世間的な認知度はそこまでじゃないですし。

おぐら あの映画は、今はなきオーディトリウム渋谷の閉館が決まったあと、向こう見ずにできるからって、いわば最後の思い出として上映されたようなものですから。

藤井 業界の人やカルチャーに積極的な人を指標として見ちゃうと、どうしてもズレてくるんですよね。我々のような人間の界隈だと、『FAKE』や『ヤクザと憲法』なんて全員が見てるイメージですけど、世間的には全然だったりするじゃないですか。

おぐら そのギャップが最も顕著だったのが『マッドマックス 怒りのデスロード』ですよ。僕らのまわりでは話題騒然、「ライムスター宇多丸のシネマランキング2015」でも年間第1位、雑誌『映画秘宝』の年間ベストでも第1位、なのに国内の年間興行収入ランキングでは32位っていう。

藤井 あ、そんな低いんですか。

おぐら 『映画 ビリギャル』や『ヒロイン失格』はもちろん、ドラマ『アンフェア』の劇場版のほうが、興行収入は上です。

藤井 でも数字で評価するって、そういうことですよ。質が高い低いの評価ですらも、結局は主観でしかないと僕は思っているので、そこは誰にも判断できない。

おぐら 売り上げに貢献しているのはどっちだ?っていう話にもなりますし。

藤井 あとは、「どうしてもこういう番組がやりたい」っていう意志がない人も、中には当然いて。そうなるとどうしたって数字が目標になる。結果、ビジネス上の勝ち負けで言えば、そっちのほうが勝つっていう。

おぐら 視聴率を取るといっても、狙って簡単に取れるものじゃないですよね?

藤井 内容のおもしろさに関しては、自分の中にちゃんと基準がありますけど、当たるかどうかに絶対はないですからね。もし100パーセント数字が取れる確証があれば、そっちに振るのもありだと思いますが、それで当たらなかったら最悪です。

おぐら でも、今のバラエティの作り方は、あまりに視聴率を取るためのフォーマットに先鋭化しすぎているなとは思います。

藤井 引っ張りとかね。なので、視聴率を取りにいくのが悪いことだとはまったく思わないですけど、それはあくまで今の評価基準の中で価値があるっていうことで。もし視聴率とは違うルールができた時には、全く対応できない。例えば課金制とか。

おぐら テレビが課金制になったとして、藤井さんの番組にお金を払う人はそれなりにいると思いますけど、『ぴったんこカン☆カン』は厳しいでしょう。

藤井 だから、今のオリンピック競技としての柔道とかと同じですよ。ルールの上での勝ちに特化したものであって、実戦ではない。金メダリストがイコール、ケンカが強いわけじゃないっていう。ま、金メダリストがケンカの練習ちゃんとしたら強いかもしれないけど。

(次回は9月23日公開予定)

『悪意とこだわりの演出術』の一部をcakesで公開中!
松本人志の圧倒的な打率と類い稀な構成力
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おぐらりゅうじさんからのお知らせ
2016年9月18日(日)
速水健朗×おぐらりゅうじ 「公開対談! すべてのニュースは賞味期限切れである」
政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。 世の中のニュースを好き勝手論じるcakesでの連載「すべてのニュースは賞味期限切れである」の公開対談をB&Bにて開催します! 両津勘吉生前退位問題、POデポはどこで間違ったのか、ゴルスタに見るSNSの未来、24時間テレビを悪く言うのはネットだけ、などなど、NGワードなしの刺激的時事放談を、どうぞお楽しみに!
出演:速水健朗、おぐらりゅうじ
時間:15:00~17:00(14:30開場)
場所:本屋B&B 世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料:1500円+1ドリンクオーダー

テレビ界、最注目プロデューサーのすべて!!

この連載について

悪意とこだわりの演出術』発売記念対談

藤井健太郎 /おぐらりゅうじ

テレビが面白くなくなったと囁かれる昨今、『水曜日のダウンタウン』や『芸人キャノンボール』といった挑戦的な番組づくりで熱狂的なファンを生み出しているのがTBSテレビプロデューサーの藤井健太郎さん。今回、3万部を突破した藤井さんの初の単著...もっと読む

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コメント

suginomoto73 藤井健太郎さんみたいな頭の構造になりたい… 11ヶ月前 replyretweetfavorite

halfburger3 "巻頭特集やりました。藤井さんは表紙の「監修」としてクレジットされているんですけど、ブロスの30年近い歴史の中で、 約1年前 replyretweetfavorite

akihik0810 『水曜日のダウンタウン』>現状、そこの熱狂度は数値化も利益化もされていないですからね。世間の人が思っている以上に、会社は視聴率中心の評価 後編https://t.co/doGZkvlB8j https://t.co/NQtBTJKf8b #TV #director … 1年以上前 replyretweetfavorite

usukeimada https://t.co/DWNNBuDy2u 視聴率低いのは録画視聴があるっていうのも絶対あると思いつつも、でも藤井作品ってリアルタイム視聴が面白いしなーとか。 約2年前 replyretweetfavorite