第3回】つまらない広告は学生への裏切り

大学のブランドは、百貨店の包み紙のようなものと語る世耕石弘氏。時に批判や議論を生む尖った取り組みをし続ける意義、大学にとって広告、広報が果たすべき役割とは何か。

川上 広報活動で使用するキャッチコピーの多くは、近大の広報部では自分たちで考えているそうですね。

世耕 別に作りたいわけではないんですけど、外部の代理店が持ってくるものがイマイチなことが多かったので(苦笑)
 作るうえでいつも言っているのは「私たちは東大阪の街で広報をやっている人間で、コピーを専門に作っている人たちのようにクリエイティブな才能にあふれているわけではない。でもそういう人たちに勝てるコピーを作らなくちゃいけないわけだから、そのためにどうするか」ということです。

川上 具体的にはどう作っていくのですか?

世耕 まずは4人くらいで集まって、パソコンの画面をスライドに映しながらひたすら修正を重ねながら作っていきます。そこから先は、みんな忙しいので他業務をしながらLINEのグループ機能を使って何度もやりとりして……という感じですね。

川上 専門でやっているわけでもない方たちが、そういったやり方で、これだけ力のあるコピーを作り出しているということが、僕にとっては目から鱗です。

世耕 私たちの心情として「この宣伝費は学生が納めた学費から出ている」というのがありますからね。実際に「広告を出すくらいなら学費を少しでも減らせ」という批判もあります。でも、私たちが今やっていることって、そうじゃないんです。
 優れたキャッチコピーや広告で世の中にインパクトを与えることは、今すぐ還元はできるものではありませんが、10年、20年経った時に、近大の大学としてのブランド向上に必ず寄与しますし、近大卒であるということの価値が今の数倍大きくなっています。そのために、広報活動をやっています。
 学生とじかに接する部署ではありませんが、常にその考えを持って作っているので、無駄打ちみたいな広告を出すということは、私たちにとってみると、完全に学生への裏切り行為なんです。だから必ず力のあるものを出さなくてはならないと思っています。

川上 大学広報ならではの心構えや信念があるのですね。

世耕 それに大手企業と違って、予算が限られている私たちは何度も出稿できません。だからこそ、1回ですごいインパクトを与える広告を作らなくてはいけない。こういった諸々の理由があって、結果的にいつもギリギリまで追い込まれていくんです。

川上 『こだわりバカ』でも紹介させていただいた「固定概念を、ぶっ壊す。」というキャッチコピーのポスター、これもすごいインパクトですが、どのようなフローでつくられたんですか?

世耕 最初に代理店が持ってきたのは、マグロがロケットになって飛んでいってるような絵で。そのアイデアからなんとなく絵ができてきて、あとはキャッチコピーだなとなりました。ちなみに、この「固定概念」って造語なんですよ。

川上 確かに、本来なら「既成概念」とか「固定観念」といった言葉になるところですよね。

世耕 そうなんです。実はこのキャッチコピーでうたっているのは、「関関同立」についてのことで、大学の序列をどう表現するべきかが、この広告で難しかったところでした。
 それこそ代理店が最初に持ってきたコピーは「関関同立を追い越す!」みたいなストレートなものだったんですが、それでは世の中の支持を得られない。私たちと似た環境にいる人たちのシンパシーを得られるものを、ということで、相当手直ししながら作りました。そこで生まれた言葉が「固定概念」でした。

川上 それにしても、世耕さん自身も先ほど仰っていたように、元々広報部の人達はみんなコピーのプロではなかったわけですよね。だからこそ、「どこからそのスキルとアイデアが……?」と驚かされます。

世耕 やっぱりそれは、近大という微妙な立ち位置にいるからこそ感じる悲哀や怒りが原点なんですよね。
 例えば、大手の予備校や塾に入試制度の説明にうかがって、門前払いにされたことなんて何回もあるんです。「うちはおたくの大学なんてターゲットにしていませんから」と。でも私たちはその予備校からの合否データを持っているわけで、実際のところたくさん受けている。そしてその割に全然通ってないことも。だけど、完全に差別される現状があるんです。
 高校の合格実績を見ても、「関関同立等多数合格!」と書かれている中の「等」にあたるのがうちの大学です。その高校から近大を受ける学生はすごく多くて、合格者数で見ると恐らくうちの合格者が一番多いはず。
 でも、「等」なんです。
 そういう風に、色々な場面でスッと線を引かれ続けてきた悲哀というか、そういった感情が根底にありますよね。……というか、もはやそれだけかもしれません。この追い込まれてきた環境と、鬱屈した思いがいつも最終的に出てきている気がします(笑)。

川上 でもそれがものすごいエネルギーとなって、結果を出し続けているわけですからね。

世耕 この鬱屈した気持ちは、私自身は実は近鉄時代から味わってきているものなんですよね。近鉄にいた頃は、阪急という存在が気になって仕方なくて。路線としては近鉄の半分くらいの規模なのに、どうも鉄道のトップブランド感がある。しかも『阪急電車』って素敵な小説や映画まで出て、「もうめっちゃ腹立つわ~」って(笑)。
 でもこれ、笑い事じゃないんですよ。そういうイメージが百貨店からホテルから、すべてのブランドの価値観に影響を及ぼしてきて、すべてにおいて単価負けしてくる可能性もあるわけです。

広報をやるからにはプロフェッショナルであるべき

川上 ここまでお話をうかがってきて、ブランドイメージを作りあげることの重要さを改めて感じているのですが、考えてみると、ここまで目立つ広告を作られているのって近大くらいしかありませんよね。世耕さんから見て、他の大学に対して思うことはありませんか?

世耕 先ほどの話と重複してしまいますが、宣伝費は学費の一部から出ているわけなので、箸にも棒にも引っかからないような広告というのはそれだけで学生への裏切りなんですよ。そこのところをもっとちゃんと意識しなくちゃいけないなと思いますよね。
 あと、一般的に大学職員になった人には教育に携わる仕事をしたいって思いを強く持っている人が多くて。だからなのか、広報活動に携わっているなかには「所詮広報なんて」って思いを持っている人も少なからずいるように感じています。
 だけどそれを言うなら、教育に携わりたいからと大学職員になるという選択がそもそも違いますよね。たとえばプロ野球球団の職員が野球に命を懸けている人間じゃないといけない理由なんてないんですよ。
 以前経営学部で教えていただいていた、近大OBの藤井純一さんという方がいます。この方は元々日本ハムの本社にいらして、そこでセレッソ大阪を立ち上げた手腕を買われて、日本ハムファイターズにいった方ですが、藤井さんは野球にはまったく興味がなかった人でした。けれど、マネジメントの責任者としてはプロフェッショナルで、セレッソでやったスポーツマネジメントを徹底し、当時年に46億円あった赤字を解消して黒字経営に転換しました。
 それと同じで、大学広報をやるなら「大学広報のプロフェッショナル」にならなくてはいけないと思います。
 もちろん教授会の意向もあって広報担当が意見を通せないところもあるのではと思います。しかし、個人的には、それは広報としての責任放棄だと思います。教授会の審議なんてかける必要は本来まったくない。だって彼らは研究や教育のプロかもしれませんけど、広報のプロではないわけですから。
 そして、大学の広報が審議されるのは多くが「広報委員会」なんです。各学部から選出された人が集まって編成された委員会。教員からすれば「適当に割り当てられてしまって……」みたいな方も多いので、広報に対するモチベーションもないしテンションも低い。結果、そこで仕事をする必要のない人ばっかりが集まっているから、一人でも反対意見が出たら「じゃあ止めときましょう」となって、誰も反対しないし反応もしないような無難なコピーばかりが世に出ているというわけです。

川上 熱量を持たない人間が複数人で作ると、無難なものができあがってしまうという典型ですね。
 実は僕も出身大学である大阪大学の広告コピーに関わったことがあるんです。阪大は研究実績の世界ランキングでは東大・京大についで日本3位のことが多いんです。世界的な学者もいっぱいいる。でも関西では知られていても、それ以外の地域での知名度は圧倒的に低い。 研究で日本3位というエビデンスを知らない人も多い。だからこそあえて普通はアピールしない3位をアピールしつつ、そこで満足せずさらに上を目指すというストーリーで「3位じゃダメなんです。」というコピーを書きました。

世耕 あ、あれは川上さんが関わられていたんですか。非常に印象に残っています。

川上 ただあのような挑戦的な広告を出すと、中身をちゃんと読まずにいろいろ批判する人も多いんです。「お金の無駄づかい」とか。本当は、何の主張もない当たり障りのない空気コピーな広告の方がよっぽどお金の無駄遣いなんですよね。

世耕 私の個人的な考えかもしれませんが、大学ってブランドがすべてで、中身まできちんと見ている人はほとんどいないと思うんです。良いか悪いかは別として、これが現実だと思います。
「東大はすごい」ってみんな言うけれど、じゃあ東大の何を知っているのかって聞いたらみんな知らない。知っていることと言えば「入試が日本で一番難しい」という一点です。しかし、それがあるからすべてにおいて尊敬される。
 私は大学って、百貨店の、それも商品券の包み紙みたいなものだと思っています。中の金額は同じでも、どこの百貨店のものかで価値が変わる。日本の大学のこの現状は本当に良くなくて、ここが変わらないと世界の大学からどんどん遅れをとってしまうなと、危機感を抱いています。
 なので、阪大の広報の方に会った際に、「3位じゃダメなんです」の次のコピーとして「京大をぶっ壊せ」を真剣にすすめたこともあります。
 そうやって自分たちの退路を完全に断って、京大と真剣勝負しようとしたときに、新たな道ができるんじゃないのかなと思っていて。私は、あらゆる大学が既存の序列を打ち崩すことによって、「固定概念」にとらわれている日本社会のあらゆるヒエラルキーを打ち崩す革命が起こせるんじゃないかと思っているんです。それをモチベーションに仕事をしています。

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驚きの近大広報 世耕石弘×川上徹也

川上徹也

2013年、志願者数日本一を実現した近畿大学。その背景には、広報から始まる数々の改革があった。仕掛人である世耕石弘氏にコピーライターの川上徹也が聞いた、驚くべき宣伝手法。全四回(9月21日、28日、10月5日、12日)。

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コメント

dazaism  つまらない記事は読者への裏切り。 11ヶ月前 replyretweetfavorite

ryuenhrmt うちのえらい人たちにも読ませたい https://t.co/cQIqifQDgj 12ヶ月前 replyretweetfavorite

Baron_Happy カッコいいやん! https://t.co/NFlRxtTXSK 12ヶ月前 replyretweetfavorite

Singulith >「優れたキャッチコピーや広告で世の中にインパクトを与えることは、今すぐ還元はできるものではありませんが、10年、20年経った時に、近大の大学としてのブランド向上に必ず寄与しますし、近大卒であるということの価値が」  https://t.co/ubReeowiem 12ヶ月前 replyretweetfavorite