女装の男巫女の正体とは? インディアンプリンセス・ウェワ【前編】

新大陸にやって来た、ヨーロッパ人がまず驚いたのは、ネイティブアメリカンの部族の多くに、女装した男性がいたことでした。現在はtwo spritと呼ばれる彼らのなかで最も有名な人物、ウェワの生涯から、世界中で普遍的に見られた風俗、女装の男シャーマンの秘密を探ります。
劉邦の宦官』や『九度山秘録』で話題の、新進気鋭の歴史小説家・黒澤はゆまが、歴史のなかの美少年を追って世界中を飛び回る人気コラム!

世界中にいた女装した男シャーマンの伝統

今回はちょっと趣向を変えて異性装のお話をしたいと思います。

ヨーロッパ人が北米大陸にやってきた時、まず驚いたのは先住民、ネイティブアメリカンの部族の多くに、女装した男性がいたことでした。しかも、彼らはヨーロッパの性倒錯者たちのように、差別されたり、馬鹿にされたりすることなく、グループのなかで尊敬され、権威ある立場についていたのです。

これはネイティブアメリカンが、性をヨーロッパのように、男と女、二分法的にとらえることなく、人間には、三番目の性があると考えていたためでした。そして、こうした三番目の性に属する人々は、一つ身に二つの性を兼ねた双性的な存在として、常ならぬパワーを秘めていると、解釈されていたのです。

そのため、女装した男性は卓越した工芸家、占い師、預言者、語り部、ヒーラー、そしてシャーマンとなり、村で重大な会議があるときは、必ず助言役として意見を求められました。

また、普通に結婚することも出来、1542年にはテキサスの部族で、男同士の結婚が挙行されていることを、ヨーロッパ人から目撃されています。

「性倒錯者を取り締まらず、かえって尊重するとは、なんて野蛮で後進的なやつらだ」

そう言って、ヨーロッパからわざわざ押しかけてきた白人たちはあやしみ侮蔑しましたが、さて野蛮で後進的だったのはどちらの方だったでしょうか。

そもそも、女装した男シャーマンというのは、世界中で見られる風俗で、別に珍しくもないのですね。

インドにはヒジュラがいますし、タヒチ島のマフ、朝鮮半島の男巫、ボルネオのバシル、さらに日本でも近年まで奄美大島に女装ユタがいました。イスラームの話しで紹介したマホメットが面白がったというクライシュ族のトランスジェンダーの男性も、ひょっとしたらこの系譜の人だったのかもしれません。

また、中世日本で流行した「職人歌合」には女物の着物を着た、男巫の姿が描かれており、南西諸島のみならず、かつては本土にも女装の男シャーマンが存在していたことが分かっています。彼らはぢしゃとよばれ、鶴岡八幡宮など主に東国の神社に仕えていましたが、神代の時代には都に近い先進地域にもいたのではないかと、三橋順子さんは推測されています。

このように、女装した男シャーマンは、ユーラシア世界のあちこちで見られた当たり前の風俗でした。一人、それを持たなかったヨーロッパが、わざわざ新大陸くんだりまでいって、それを見つけ、目を見張って驚いているわけですから、なんとも馬鹿馬鹿しく滑稽なことのようです。

ヨーロッパ人たちは、彼らのことを、ベルダーシュ、ペルシャ語で「お稚児さん」を指す言葉で呼びました。学術的にもこの言葉が慣例として使われていましたが、今は、侮蔑語であるとして、白人世界でも、ネイティブアメリカンの世界でも「二つの魂」two spiritと呼ばれるようになっています。

さて、このtwo spiritですが、一体どんな人たちだったのでしょうか? 今回は、彼らのなかでも、最も有名な人物、ズーニー族のウェワの人生から、その謎をひもときたいと思います。

日本とも関係ある? 男巫女の伝統を持つズーニー族の事情
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コメント

7Xc8RHvl なんか検索したら男でありながら女装するシャーマンの話とか出てきたぞ… https://t.co/hEHXtSSP9T 2年以上前 replyretweetfavorite

ch3cooh_aa 早くCakeに課金してこの人のコラム全部読みたい。テスト終わるまでだ 約3年前 replyretweetfavorite

chiruko_t あとで読む。  3年以上前 replyretweetfavorite

fukko ちょっと楽しみにしている黒澤さんの記事。私なら、確実に「籠」より「弓」を選ぶでしょう。 3年以上前 replyretweetfavorite