第5回「原作付きで遊ぶというか、いろんなことを試すやつのこれが総決算」

幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作を8年越しで上梓した武富さんが盟友・宮本大人さんと作品に込められた思いやその裏話を語る対談第5回目。

今後の作風を「占う」つもりで、
通常の連載作品よりも力を入れました。

宮本 この作品を描いたことは今後にどうつながっていきそうですか。

武富 あ、そうですね、いろいろいっぱいあります。ここ数年、原作付きをいろいろ試して自分の可能性を広げるみたいな感じのことをやってたんですけど、さすがにそろそろ自分の本道というか、やっぱり自分の得意なところを次の作品でやっていきたいので、いわゆる原作付きで遊ぶというか、いろんなことを試す作業に関してはこの漫画訳雨月物語が総決算のつもりですね。頭から順々に書いていってるんで、特に後半の「蛇性」あたりぐらいから、次に描くものの作風を選んでいくような作業になってるかなと思います。

ちょうど9編あるんで、ちょっと作風を1作1作変えたりして、いろいろ実験みたいなのをやってきたんですけど、これを描き終わったあとの次の作品の絵柄に近いものがだんだんと後半出てきてるはずです。この1冊の中でいろいろやってみて、それをまとめていく作業まで、できた実感がありますね。安彦良和さんからいただいた削用筆との出会いということも含め、次の作品は後期の、とくに「蛇性」と「青頭巾」あたりですかね、このへんの絵柄がこれからしばらくのメインの絵柄につながっていくのかなという感じはします。

宮本 この描き方というのは、月1とか月2とかのペースで維持できる感じなんですか。

武富 え……あ、あのう……背景を誰か描いてくれれば(笑)。今後アシスタントを使う上で、僕の入れたい背景の絵というのがこうなんだよというのを今回自分で1冊描いておけば、次やるときに説明が楽だっていうのもあって、見本ですね、この1冊はなるべく自分で描こうというふうに心に決めたというか。これ1冊を常に手元に置いといて、このぐらいの密度でとか、こういう感じで描いてほしいと、アシスタントさんに指示するためのカタログみたいな役割もあるんです。

どうしてもアシスタントさんが描くと、作家本人が描くより良くも悪くも丁寧になっちゃう。それも計算のうちで、さすがにこんなに雑に描かなくていい(笑)。作家本人が描くと、このぐらいラフでも味わいになるけど、アシスタントさんがこの密度でざくざく入れると、多分雑にしか見えない。なのでそこは丁寧に入れてもらってかまわんよって感じなんですけど(笑)。そういう背景処理とかまで含めて、今後の作風を「占う」つもりで、通常の連載作品よりも力を入れました。

あと、前に「ユリイカ」で篠儀直子さんが指摘してくださってますけど、『鈴木先生』のときって、線数少なくてもほぼ全部のコマに背景入れてたんですよね。それって、人物の絵がやや雑になってしまったことと関係があって、バランスをとっているんです。今後はもう少し人物の絵に時間をかけたいなとずっと思っていて、「赤目村」とかでも頑張ったんですけど、今回の雨月では、さらにたっぷり時間をかけさせていただいて、人物に関しても、今後の作品ではどのくらいじっくり絵を入れるか、など考えながら描きました。

その絵の力の入れ方というのも、若いときの叙情劇画短編のときの密度の入れ方、濃い入れ方とはまた別に、まあ年相応じゃないですけど、抜くところは抜きつつ、1本1本の線をゆっくり丁寧に引くなど、そのへんの間合いも、当社比的には、ちょっと今までの自作品よりは絵や線の追求というか、あまり行き過ぎないというところも含めて、絵に入れ過ぎないという今までのコンセプトも引き継ぎつつ、けっこう程よい絵を模索できたかなという感じがあって。ほかの人はもう、早いうちにやってる作業なのかもしれないですけど。

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この連載について

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雨月物語』を「漫画訳」しました!

宮本大人

名作『鈴木先生』の著者・武富健治さんの『漫画訳 雨月物語』(PHP研究所刊)が好評発売中です。幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作は芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんも絶賛です。8年越しの執筆を終えた武...もっと読む

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