乙女の美術史―日本編―

田舎の少年たちを奮いおこした「妖しい美少年」―高畠華宵

全国の乙女たちからいまなお根強い人気を誇る高畠華宵の美少年絵の数々。しかし昔は、高畠華宵といえば「田中角栄が涙を流して見た」という逸話が残るほど、「男性のロマン」だった時代がありました。エロティックで肉感的な、華宵の描く少年絵の魅力に迫ります。

東京・文京区の弥生美術館には、竹久夢二や中原淳一(1913-1983)、そして高畠華宵(1888-1966)といった、「さし絵画家」たちの作品が集められています。

この美術館が昭和59年(1984年)にオープンした朝、田中角栄が来館し、高畠華宵の『さらば故郷!』の前で、人目を気にせず泣いたそうです。いや、意外ですな……。 彼は中学のときに、雑誌に掲載されたその絵を切り取り、机の前にはって勉強の傍らにながめては、「いつか東京に出て、成功してやるんだ……!」などと希望を膨らませていたのだとか。ちょっとビックリしませんか? だって現代のわれわれにとって、華宵の描く美少年は美輪明宏の若いころにうりふたつで、非常にエロティックで、禁断の香りを漂わせているように思えるのですが……。

全盛期の華宵のファン=耽美的な層ではなかったようです。 実際に華宵の作品は、『少女の友』(実業之日本社)の男の子版といってよい『日本少年』(実業之日本社)や『少年倶楽部』(講談社)などの雑誌に大量に載せられ、「普通」の戦前の男の子たちにも大人気でした。そしてその中に、後の田中角栄もいたのです。現在でも美輪明宏はことあるごとに「軍国主義が日本を覆い尽くす前には、ロマンティックで、デカダンスなもの(=人間の人生に必要な心の栄養)があふれていた」といっていますよね。その美輪によると、三島由紀夫は美少年の中でも、華宵の絵のような(そして美輪明宏のような)「妖美」がある美少年を最高のものだと話していたようです。

肉感的でエロティック♡ お約束の展開とは・・・?

そのころの少年誌では主人公の男の子たちが、お約束のように敵に捕まり、そのムチムチした体躯を縛り上げられたり拷問を受けたり、それは「素敵」な目に遭っております。そして、現代も数多く発刊されている、華宵の画集に載せられたコラムに「エロティック」という言葉が見られないときはありません。華宵の絵は、少年なのに……いや、少年だからこそでしょうか、太股がやけに肉感的なんですよね。それなのに、この華宵特有の魅力がきらめく「妖美」なまでのさし絵を、当時の社会は男の子にふさわしいものとして推奨していたんです。感覚が成熟しすぎているのか、鈍感なのか(笑)。とにかく表現の規制を作ることしか考えられない、現代の政治家&社会とは大違いです!

それでも戦争の影響が出版業界にも強まってきた1937年ごろから、華宵は活動を停止しました。鎌倉・稲村ヶ崎にあった、通称「華宵御殿」」という豪邸に全国の少年少女からのファンレターが殺到していたほどだったのですが、作品に私のすべてが詰まっているといいたいタイプなのか、そもそも三次元の男女に関心がなかったのか。縁談を断るとき、「私には絵の中の女たちがいますから」といい切り、浮いた噂はまったくない人だったそうです。ついでに、生涯独身でした。彼が暮らす華宵御殿には美男美女のモデルが集っていたそうなのですが(もったいない……) その噂の華宵御殿を一目見たいがために、地方の令嬢が家出するなどという一幕もありましたが、戦争を挟んだ後は復帰に失敗したため、忘れられた存在になっていました。そして、80年代に入っての『別冊太陽』(平凡社)での特集に先駆け、70年代に早くも、ボーイズラブ雑誌の草分けとして知られる『JUNE』などで特集が組まれ(!)、徐々に今日につづく人気を復活させていったのです。

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乙女の美術史―日本編―

滝乃みわこ /堀江宏樹

乙女の目線で読み解けば、日本美術はこんなに面白い♡人気のために「脱いだ」女神像に、萌え絵の起源。ビジネスマンとしての伊藤若冲になど、名作に隠されたスキャンダラスな真実を大公開!

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コメント

emilyixing_1007 ほお https://t.co/fdF3h88LLR 3年弱前 replyretweetfavorite

horiehiroki cakesで乙女の美術史を、のコラムの第第二回、 高畠華宵の回も公開されました。 https://t.co/IXYW5GkhU3 約3年前 replyretweetfavorite

Shimanatee このコラム、テーマは面白いのに文章が雑で残念…。 約3年前 replyretweetfavorite