第4回「学生時代には気付かなかった雨月物語の魅力」

幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作を8年越しで上梓した武富さんが盟友・宮本大人さんと作品に込められた思いやその裏話を語る対談第4回目。


大真面目にやってるけど、ちょっと実は……
逆の意味があったりとか

宮本 「菊花の約」とかは、これやっぱり、武富さんだからこういうテンションで描いてるのかなって(笑)。

武富 え?

宮本 武富漫画だからこういうテンションなのかなって思うんですけど、実は……

武富 半分は自覚的です。自覚してる以上に何か無意識にやっちゃってんだろうなっていうのはなんとなくわかってきましたけど……。

宮本 でも、この人たちのテンションはほんとにおかしいっていう前提でもちろん描かれていて、この二人のこういうあり方をただただ美しいというふうには、『雨月物語』はもともと全体を通して見ると書かれてないんですよね。
 そこが面白いとこで。これはこれでどうなのっていう。

武富 原文の書き方だと、そのエピソードだけ切り取って読む分には読む人によっては美談としても受け取れるぐらいの微妙な書き方なので、細かいところを見ない人は、けっこう普通にいい話だと思って読んでる人も多いんじゃないかな。

宮本 うん、だと思いますよ。あ、これは「テンション高い美談なのかな」っていうふうに多分受け止められると思うんですよね。だけど、それこそ「貧福論」まで行って、「あ、こういう相対化の視点があるんだ」なってなると、こんな異常な武士道っぽい……。結局、これ別にこの二人が美学に殉じてるだけで、誰も得しないわけで(笑)。て考えると、相対化されてるわけですよね。そういうとこがよかったなと。本全体として見たときの、こういう何か気づきのあるのが面白い。

武富 『菊花の約』の絵柄の選び方としても、一応6、70年代の熱血漫画・劇画、例えば『巨人の星』の後期的な絵柄やタッチとかを取り入れたりとかして演出はしているんですよね。あの熱血の感じを、我々80年代とか通ってるんで、引いて笑ってみる目をもう持ってるじゃないですか。それを踏まえてあの絵柄にしているんですよね。だからわかって読むと、絵柄も含め総合的に、明らかに皮肉なギャグになってるというか。でも、確かに僕の漫画版にしても、最初読んだときには、「これ笑っていいのかな」みたいな、「この2人、真面目にやってんのかな」みたいな感じはあるかもしれないですね。そこは『鈴木先生』のときも意図的にちょっと紛らわしくしてるというか、「どっちなんだ」みたいなのは今回も入れてますかね。

宮本 この左門の顔……影の線が入り過ぎですもんね(笑)。

武富 ああ(笑)、もちろん、宮本さんが僕の漫画に詳しい人とかいうのもあるし、漫画史に詳しい人とかそういうのもあるでしょうけど、読者さんが「この人、単にこういう濃い絵柄なのかな」で済ませちゃったら気づかないですからね。ぼくとしては明らかにメッセージとしてタッチを入れてるんですけど、でも、「まあ、この漫画家さんがそうしたいからそうしたんだろう」みたいな感じで流されたらそこまでですよね。確かに、あまりあからさまにやると、今度はギャグ「としか」見えなくなるという弊害が出るので、多少微妙にしちゃっている面もあるにはあるんですが……。

宮本 ほかのエピソードと絵柄やタッチが明らかに違いますよね。

武富 『菊花』だけ熱血少年漫画の作法です。

宮本 これもあとがきで書かれましたけど……

武富 「浅茅が宿」ですか。

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この連載について

初回を読む
雨月物語』を「漫画訳」しました!

宮本大人

名作『鈴木先生』の著者・武富健治さんの『漫画訳 雨月物語』(PHP研究所刊)が好評発売中です。幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作は芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんも絶賛です。8年越しの執筆を終えた武...もっと読む

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