第1回「9編通して初めてわかってくることがある」

幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作を8年越しで上梓した武富さんが盟友・宮本大人さんと作品に込められた思いやその裏話を語る対談第1回目。

9編通して初めてわかってくることがある。
それが生かされた漫画になってる

武富健治(以下 武富) よろしくお願いします。宮本さんはうちの漫画を初期作からずっと読んで下さってますし、もはや武富マニアの第1人者と言って過言ないので(笑)、まずは今回の『漫画訳 雨月物語』を読んで頂いた感想とか質問とかを普通に伺えたらと。

宮本大人(以下 宮本) 以前、明治大学の米沢嘉博記念図書館でやらせてもらった武富健治展の準備のときに、もうこの『漫画訳 雨月物語』の話はあって。

武富 そうでしたっけ!(笑)

宮本 そうですよ。だって、展覧会は2011年の秋からでしょう?

武富 あ、なるほど、第1話の「白峯」が2012年1月発売の「ユリイカ・武富健治特集号」に載ったんだから、そうですよね。

宮本 だから、そのときはもう、執筆の遅れをPHP研究所さんに待ってもらってるっていう話があって。なので、ついに「本になったか!」って感じです。僕は恥ずかしながら、そんなに古典文学に詳しくなくて、上田秋成の原作を全部通して読んだこともなかったんで、巻末に載ってる千街(晶之)さんの解説にすごい助けられながら、にわかですがちょっと勉強がてら、改めて読んだりとかして(笑)

武富 あ、すごい! この対談のために原作にもあたってくださったんですね(泣)。ありがとうございます。

宮本 いや、ものすごい面白かったです。

武富 あ、じゃあ、原作を読まれたのは、うちの漫画のゲラのほうが先ですか。

宮本 いや、一応そこはじらして、先に原作を読んでから漫画版を読みました。

—意外と少ないですよね、『雨月物語』を正確に認識してる人って。

宮本 いや、なんか本当、武富さんも書かれてますし、千街さんも書かれてますけど、有名なエピソードだけ知ってるって人がすごい多いと思うんです。9編通して読むってことはなかなかない。実際、多分、これ漫画版で読んでも多分、皆さん、「白峯」が1番ハードル高いと。

武富 初っ端に(笑)。

宮本 初っ端の第1話にこれがあるから(笑)。これって、古代の歴史的な話を当時の人はわかってる前提で書いてるけど、今、その当時の崇徳天皇っていう人がどんな人だったかってわかって読む人はそんないないんで、そこはすごいハードル高いと思うんですよね。
 だから、いきなりそこから入るのは多分、まあ、皆さんわりと難しいとこだと思うんでね。これが最初にある意味は全9編通して読んで初めてわかってくる、みたいなのがあって、ちゃんとそれが生かされた漫画になってるなと。要するに1話1話のディテールの解釈に『雨月物語』が全体としてどういうものなのかというのが多分反映されてますよね。
 一見いい感じに見えるものが実は、こっちから見るとダメだとか、一見ダメに書かれてるものが、こっちから見ると案外そんなにダメでもないんじゃないかとかいうのが常に両側から見れるように書かれてる。それが1編だけ読むとわかんないんですけど、常にこっちのエピソードで言われたことが別のエピソードで相対化されるみたいな、そういう作りになってて、それが通して読むと見えてくるというのがこの作品の面白いとこですよね。
 だから、それが初めて漫画で本格的に再現されたというか、1個だけ見るとわからない部分がちゃんと見えるようになってるというのは、やっぱりこの本のいいところですね。

武富 そのへんが読者に伝わるようにというのを1番のコンセプトに描きました。今までのコミカライズの場合でも、やっぱり漫画家さんは、とくに女性の方は文学、歴史に強い方が多いから、多分、作家さん的にはそのへんわかりながらも、読者には要求せずにそこを省略して漫画化されてたんじゃないかとは思うんです。
 普通、漫画はやっぱりエンタメだから、作家さん自身はわかってても、めんどうな読解は読者さんには要求しないのが作法みたいなところがあるんですけど、うちの場合は、それこそ『鈴木先生』もそうですけど、昔から読み手側に要求するような作風になっていて、今回も読者にあえて伝わるように思い切りしつこく描いていったんですよね。

宮本 9編それぞれの物語の中に、案外今の漫画でも好んで取り上げられるモチーフがけっこうたくさん入ってるので、一旦、「あ、こういう感じだ」っていうのが、そのチューニングが合ってくれれば、すごく面白くなるって感じしますよね。最初のときは別に順番に読まなくてもいいんだと思うんです。

武富 そうですね、気になったお話から読んで言って頂ければ。

宮本 読み進めるにしたがって、実はそうなんだっていうのがわかれば、それでいいんじゃないかなって気がしますね。

武富 そういう意味でもやっぱり、買って手元に置いといてほしい本ですね(笑)。

—そうですね。是非お買い上げ頂いてお手元に(笑)。

宮本 あと、武富漫画ファンからすると、お馴染みのキャストがまた登場するというのが面白いとこですよね。『鈴木先生』での役どころとある程度かぶってるようにしてあるので、そこも面白くて、「吉備津の釜」の磯良は小川なんですけど、この思い詰め過ぎてイってしまう人を小川にやらせてるのは、それは鈴木先生読んでれば面白いっていう、読んでなければ全然わかんない(笑)。
 これが小川だと思って読んでると、より面白いという、そういう仕掛けもありますよね。

武富 『鈴木先生』ではかなわなかったカップリングというか、小川ファン五人衆とは違う岬勇気との組み合わせだったりとか、アナザーストーリー的な楽しみ方も一応できるような…。あと、小川に関しては、もう1つは、小川は本当に何でもやってくれるという…(苦笑)。生真面目ゆえに、意外と無茶ぶりというか、空手着着せたりとか、アホなことを意外とド真剣に引き受けてくれるキャラってことで今回も……

宮本 演技力あるし。

武富 はい、人ならぬ変なものになっちゃうというヒロイン的にはやりにくいめんどうな役を…それこそドラマの小川蘇美役だった土屋太鳳ちゃんもやってくれそうですけど、ノリノリで。
 小川はそういうキャラクターです。


こちらから試し読みできます!『漫画訳 雨月物語』

又吉直樹氏 大絶賛! ! 上田秋成が書き上げてから推敲に8年かけた『雨月物語』を文藝漫画家・武富健治が同じく8年かけて漫画訳に挑んだ意欲作!

この連載について

雨月物語』を「漫画訳」しました!

宮本大人 /武富健治

名作『鈴木先生』の著者・武富健治さんの『漫画訳 雨月物語』(PHP研究所刊)が好評発売中です。幻想怪奇文学の古典である『雨月物語』に真正面から「漫画訳」に挑んだ意欲作は芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんも絶賛です。8年越しの執筆を終えた武...もっと読む

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ryogetsuan いろんなタイプの霊能力者を扱った図鑑としても読むことができます。→ 10ヶ月前 replyretweetfavorite