笑いのカイブツ

僕がお笑いに捧げたように、母は人生をちぎって、分け与えてくれた。

お笑いを本当に辞めると決意したツチヤタカユキさん。そんなツチヤさんの脳裏をよぎるのはずっと一緒に暮らしてきた母のことでした。
他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。

図書館からの帰り道。昔のクラスメイトの家の前を、自転車で通る。
彼が赤ちゃんを抱いて、家から出てきたのが見えた。

その時初めて、僕は自分が、子供がいてもおかしくない年齢なんだと気付かされた。

家の中からは、夕飯のいい匂いがした。幼い頃感じた暖かさがそこにあった。
この世に生きている限り、人は愛を残しているんだと思った。
僕は、そういうものになりそこねた人間だ。


元カノのアナタのことを思い出した。

こんなにどうしようもない人間を、愛してくれたたった一人の女性さえ、ちゃんと幸せにしてあげられなかった。付き合っていた日々を思い返すたび、迷惑ばかりかけていた場面がよみがえり、自分で自分を殺したくなった。

久々に未練たらしく、アナタに送ったLINEは、「幸せにでけへんかって、ごめん」という言葉だった。

こんなに情けない人間で、本当にごめんと思っていた時に、アナタからの返事がきた。

「謝らんといて。幸せやったよ」

その言葉を見た瞬間、過去から飛んできた拳が、心臓をぶっ叩きはじめて、息苦しくなった。

あの人が今日もどこかで、生きていると思うと、この世界のことが、少し好きになれた。

「ありがとう」

アナタのような人が、僕の人生に現れてくれて、本当によかった。


いつかの母もそうやって行方をくらました父と愛を営もうとしたのだろうか。
それに失敗して僕を産んだのだろうか。僕を産んでから失敗したのだろうか。僕を産んだから失敗したのだろうか。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

出版社からの書籍化希望が殺到した青春私小説の傑作。cakesの連載を大幅に加筆し、ついに書籍化!

笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ
文藝春秋
2017-02-16

この連載について

初回を読む
笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ

他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん、二七歳、童貞、無職。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。人間であることをはみ出してしまった「カイブツ」はどこへ行くのでし...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

afaik49 ツチヤタカユキの私小説連載イッキ読み。あの人の話、アナタの話、ピンクの話。彼の抱えていた絶望と幸福がこれでもかと顔面を殴ってくる。 #annkw| 3年弱前 replyretweetfavorite

ren_1031 突き詰めるチカラ行き着くと狂気になり、そこから笑いに繋がるって真逆なようで紙一重なんだな。彼が報われる日を陰ながら待っていよう。 3年弱前 replyretweetfavorite

ai2141 |ツチヤタカユキ|笑いのカイブツ https://t.co/UDGs3gIZp9 私には聞いたことない日本語が並んでるなあ 3年弱前 replyretweetfavorite

ririannu12 お風呂はいろとおもったけど、更新きてたー✨(>∀<) これと燃え殻さんの連載の為にcakes定期購読してるわw 3年弱前 replyretweetfavorite