図書館からの帰り道。昔のクラスメイトの家の前を、自転車で通る。
彼が赤ちゃんを抱いて、家から出てきたのが見えた。
その時初めて、僕は自分が、子供がいてもおかしくない年齢なんだと気付かされた。
家の中からは、夕飯のいい匂いがした。幼い頃感じた暖かさがそこにあった。
この世に生きている限り、人は愛を残しているんだと思った。
僕は、そういうものになりそこねた人間だ。
元カノのアナタのことを思い出した。
こんなにどうしようもない人間を、愛してくれたたった一人の女性さえ、ちゃんと幸せにしてあげられなかった。付き合っていた日々を思い返すたび、迷惑ばかりかけていた場面がよみがえり、自分で自分を殺したくなった。
久々に未練たらしく、アナタに送ったLINEは、「幸せにでけへんかって、ごめん」という言葉だった。
こんなに情けない人間で、本当にごめんと思っていた時に、アナタからの返事がきた。
「謝らんといて。幸せやったよ」
その言葉を見た瞬間、過去から飛んできた拳が、心臓をぶっ叩きはじめて、息苦しくなった。
あの人が今日もどこかで、生きていると思うと、この世界のことが、少し好きになれた。
「ありがとう」
アナタのような人が、僕の人生に現れてくれて、本当によかった。
いつかの母もそうやって行方をくらました父と愛を営もうとしたのだろうか。
それに失敗して僕を産んだのだろうか。僕を産んでから失敗したのだろうか。僕を産んだから失敗したのだろうか。
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