カオリは、その男をボランティアホームの人間の目に触れないように、裏手にある雑木林の方まで連れ出した。そして原色のキャラクターの描かれたタバコケースから1本取り出すと、慣れた手つきで火をつけふーとひと息ついた。
「ユウカさんのこと聞きたいんですか? うーん、あんまり無いですよ。
私、あの人のこと嫌いだったから、あまり交流してないもん」
夏も終わりに近づいた、この被災地の村には、一頃いた大人数のおおかたはすでにいない。
震災という哀しさとはまた別の、哀しさが秋の訪れとともにやってきそうだった。
そんな中でも、カオリは大学を休学してまでボランティアに参加しただけあって、1年を通してこの村にいるつもりの、いわば古株だった。大学に行っていれば、秋からはたぶん就職活動をしていたに違いないが、この村の生活に馴染んでしまったのか、復学するかもいまは悩んでいるようだ。カオリはユウカのことは初めから苦手だったという。