ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)
全体としては大きく三部に分かれる。① 1~5の興隆時代、② 6~10の安定期、③ 11~15の崩壊期である。各期間だけに絞って読んでもよいし、さらに細分して読める巻もある。
① 興隆時代
1 ローマは一日にして成らず(1992年刊)
紀元前八世紀とされるローマ建国神話から、創生期のローマ、さらにローマとは何かという原理を扱う。これらは欧米世界の原理でもあるので、世界史的や政治学の教養として読むとよい。その根幹は「リキニウス法」である。この巻は、物語としては総じて読みづらいが、反面、「ローマとは何か」ということを手っ取り早く知るには適している。政治学に関心がある人には必読だろう。
2 ハンニバル戦記 (1993年刊)
創生期のローマの存亡を賭けたカルタゴの英雄ハンニバルとの戦いとして「ポエニ戦争」(紀元前264~紀元前133(カルタゴの消滅は紀元前146)を描く。対するローマではスキピオが戦う。古代の戦争の物語として読みやすい。この部分だけ単独で読んでも面白い。カガノミハチの漫画『アド・アストラ -スキピオとハンニバル-』の背景でもある。
3 勝者の混迷(1994年刊)
通称、「内乱の一世紀」を描いている。登場するのは、ローマを改革しようとしたグラックス兄弟の時代(紀元前133~紀元前120)や、まさに内乱に関わるマリウスとスッラの時代(紀元前120~紀元前78)、ポンペイウスの時代(紀元前78~紀元前63)など。
この巻はカエサルの「内乱記」によるローマ史観をなぞっているため、その意味ではカエサル、アウグストゥス、ティベリウスの三皇帝による事実上の皇帝制度の必要性を歴史的に説明したものである。戦史的な物語としても読めるが、基本的にローマ史に固有の政治的な議論が多く読みづらい。
4 ユリウス・カエサル ルビコン以前(1995年刊)
5 ユリウス・カエサル ルビコン以後(1996年刊)
2巻通して、カエサル(紀元前100~紀元前44)の生涯がエキサイティングに描かれる。ここでの物語は、カエサル自身による「ガリア戦記」「内乱記」さらにキケロ文書を元にしているものの、塩野は、公的に注目されるカエサルの少年期・青年期について、その時代について総合的な推測を加えることでカエサルという人物を「小説」的に描き出している。このため、本書は歴史ではなく小説だとも批判されるが、まさにそうした小説的な想像力なくしてカエサルが理解できると言えるだろうか。他面、「ガリア戦記」を介して、事実上、欧州の原型というものがローマによってどのように成立させられたかがわかる。ヨーロッパとは何かということを知ることは、カエサルを知ることを基礎にしている。
この部分は、文庫本にすると6巻分ある。ここだけまとめてカエサル伝として読んでもよい。
② 6~10の安定期
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