勝つ組織

第1回】『勝つ組織』佐々木則夫さん、山本昌邦さんの素顔

3月6日からサッカー女子日本代表も出場する国際大会、「アルガルべカップ2013」がはじまります。今回、cakesでは監督の佐々木則夫さんと、サッカー解説者の山本昌邦さんのお二人による対談を収めた『勝つ組織』(角川oneテーマ21)のダイジェストを紹介していきます。第1回は、本書の構成を担当した戸塚啓さんに、対談時のお二人の様子、本書の読みどころについて話を伺いました。


 

── 戸塚さんは対談に同席して『勝つ組織』の構成を手がけたわけですが、佐々木則夫監督にはどのような印象をお持ちでしたか?

戸塚 なでしこジャパンの監督として、二つの顔をお持ちだなと感じていました。
 2011年の女子ワールドカップ優勝後にクローズアップされた、ダジャレ好きな監督としての顔がひとつ。テレビカメラが映し出す佐々木監督は、穏やかな表情と軽妙な語り口が印象的ですよね。諧謔のセンスがあります。憎めないお父さん、という感じです。
 でも、グラウンドや記者会見場では、勝負に挑む監督としての厳しい表情を見せる。プロフェッショナルとしてのオーラがあります。
 柔と剛を巧みに使い分けている、と言えばいいでしょうか。

── 組織を束ねるリーダーとしては、どちらも必要な表情ですね。

戸塚 柔と剛のバランスがまた、絶妙なんですよね。オンとオフの切り替えは、ビジネスでもスポーツでも大切だと思います。なでしこジャパンは、この点でとても優れている組織です。男性に比べると女性は良い意味で開き直れるとか、精神的に割り切って戦えるといった評価がありますが、彼女たちは自分の力を限界まで出し切ることができています。

「話に来てくれてありがとう」

── 『勝つ組織』を読むと、組織が力を発揮できる雰囲気作りに、佐々木監督が心を砕いていることが分かります。

戸塚 試合中の選手たちを見ていると、監督と選手の関係性が見えてきます。監督が選手をおさえつけたり、監督が一方的に指示を出すばかりのチームは、選手たちがベンチを見るんです。相手が予想外の戦い方をしてきたから、「監督、ここはどうしたらいいんですか?」というような眼差しを浮かべる。ミスをした選手が、監督の顔色をうかがったりする。
 そういうことが、なでしこジャパンにはありません。戦術的な確認をするために、試合中に佐々木監督と選手がやり取りをすることはあります。けれど、監督発信の一方的なコミュニケーションではないんですね。

── それは、佐々木監督の「聞く力」によるところでしょうね。なでしこジャパンを率いるにあたって、監督が組織作りのキーワードにあげているものです。

戸塚 代表チームというのは、非常にデリケートな組織です。ワールドカップやオリンピックのような大会前ともなれば、選手たちは何とかしてメンバーに選ばれたいと思う。どちらも、4年に一度の大舞台ですからね。「監督に楯突くようなことをしたら、メンバー選考に悪影響が及んでしまうんじゃないか」と心配します。
 でも、なでしこジャパンは違うんですね。
 選手側から意見できる雰囲気があります。昨夏のロンドン五輪でも、大会期間中に選手から踏み込んだ意見があったと聞きます。
 佐々木監督はそれを、嬉しいものとして受け止める。選手のやる気の表れと理解して、「話に来てくれてありがとう」と言うそうです。
 スポーツをやってきた方ならお分かりになると思いますが、そんなことを言ってくれる監督はなかなかいませんよね? 部下のほうこそ御礼を言いたいのではないかな、と僕は思います。しかも佐々木監督は、自分の非を素直に認めるんです。
 トレーニングがうまくいなかった夜のミーティングで、「あのトレーニングは自分の設定条件に問題があった。明日もう一度、お願いします」と頭を下げたことがあると。
 組織のなかに不公平さや理不尽さがあってはいけない、と佐々木監督は話します。リーダーも例外ではない、と。「上司だったら何をやってもいいか」という不公平感が生まれないためにも、自分の言動に注意しているのでしょう。

「組織は自分を映す鏡」

── 奇しくもここ最近、オリンピック競技や学校体育で、体罰やパワーハラスメントが問題となっています。

戸塚 佐々木監督も、共著者の山本昌邦さんも、自分の仕事に強い責任をお持ちです。『勝つ組織』のための対談だけでなく、日頃からお二人のお話を聞いていて感じるのは、『結果の責任は自分にある』というスタンスです。
 練習メニューを組むのは指導者です。選手がうまくできないということは、指導法にも原因がある。さきほど、佐々木監督は選手に謝るというエピソードをご紹介しましたが、『組織は自分を映す鏡』というのがお二人の信条です。そうした意識を持っていれば、体罰をしようなどとは考えないのでは。
 全力を出し切らなかった選手には、お二人も厳しい言葉をかけます。けれど、結果を残すために費やした努力は、決して否定しません。努力することも才能と認めて、過程を評価するんです。

── スポーツを取材しているなかで、佐々木監督ならではと言えるような部分を、感じることはありますか?

戸塚 監督と呼ばれる方は、どなたでも自分の仕事に自負をお持ちです。サッカーであれば、戦術、技術、トレンド、心理学、栄養学、医化学など、様々な分野について勉強を重ねている方ばかりです。仕事に対する責任感も強い。
 その結果として、何でも自分でやろうとする監督もいます。ご本人に理由を聞くと、「自分が関わらないと心配だし、もし誰かに任せて思い通りじゃなかったら、結局は自分がやり直さなきゃいけないので」と言う。
 不安は分かります。やり直す手間を避けたいのも、心理としては理解できる。
 けれど、部下の受け止め方は違うはずです。「監督は自分を信頼してくれてないんだな」と思うでしょう。
 なでしこジャパンのスタッフに、佐々木監督は権限を委譲しているそうです。「これを頼む」と言われたコーチは、自分の仕事に責任感を持って取り組み、仕事の精度が上がっていくそうです。
 「はじめのうちは10の依頼に対して10の答えを持ってきたスタッフが、しばらくすると12とか15まで考えてくるようになる」 と佐々木監督はお話していますが、同じような話をJリーグの監督からも聞いたことがあります。そして、その監督が率いるチームは、なでしこジャパンと同じように結果を残しています。監督がすべての仕事を背負わずに、コーチに適宜分担しているのです。

── コーチをうまく使っているわけですね。

戸塚 使っている、という意識ではないと思います。それでは、上から目線になってしまいますのでは。

── あっ、そうですね。

戸塚 コーチたちはそれぞれの分野のスペシャリストですから、リスペクトを持って彼らに任せているのだと思います。

── なでしこジャパンの成功は、ピッチの外にも理由があるのですね。

戸塚 まさにそのとおりです。組織として機能しているからこそ、世界のトップにまで登り詰めることができた。良いリーダーのもとでは、良い部下が育つのでしょうね。佐々木監督が率いるなでしこジャパンなら、企業のプロジェクトでも立派に成功させるのではないでしょうか。

── 『勝つ組織』には印象的なフレーズがたくさんありますが、そのなかかでも「これはすごい!」と感じたものをあげるとしたら難でしょうか?

戸塚 教えるのではなく考えさせる、ということです。部下の話を聞いて、問いかけて、考えさせるという三段階を、佐々木監督は心がけていると感じました。
 あらかじめ答えを用意しないで、選手自身に答えを見つけさせるわけです。こうしろ、ああしろ、とは言わない。部下を持つ方なら実感として理解いただけると思うのですが、これって実は難しいですよね。どんな仕事にも、時間的制約がつきまといますから。納期を早めるには、指示をしてしまったほうが手っ取り早い。
 佐々木監督はここで、自分に問いかけるわけです。自分がすべて指図をしてしまって、部下は充実感を得られるのか。
 僕にも会社員の経験がありますが、上司に指示されてばかりでは、充実感は遠ざかるばかりです。そうではなくて、自分で答えを探したほうが前向きに、主体的に取り組めますよね。残業が続いても、やり遂げようという気持ちになれる。
 サッカーにはチームとしての戦術や個々の技術を競い合う側面がありますが、すべての土台になるのは選手のメンタリティだと僕は思います。技術的に優れた選手が揃っていても、勝利をつかめるとは限らない。面白いチームやうまいチームと、勝つチームは違うんです。

── なるほど。

戸塚 なでしこジャパンは、面白いサッカーをして、なおかつ勝つことのできるチームです。困難に打ち勝つことのできる組織です。

── 最後に『勝つ組織』の読みどころを、ご紹介いただけますか?

戸塚 この本にはサッカーの現場の話が、それほど多く含まれていません。ワールドカップやオリンピックの舞台裏も明かされていますが、あくまでそれは組織論を展開するうえでの具体例です。
 本の性格としては、強い組織を生み出すためのリーダー論です。命令によって部下を動かす20世紀型ではなく、部下の意見に耳を傾けて結果を残していく21世紀型のリーダーの姿を、お二人が浮き彫りにしています。
 僕自身もサッカーが大好きですが、この本はサッカーに興味のない方にもぜひ読んでいただきたいです。他のスポーツにもビジネスにも、様々なシーンに応用できる組織論になっていますので。
 とくに、女性が多い職場で働いている男性には、とても参考になると思いますね。年下の女性社員に、どうやって声をかければいいのか。どうやって彼女たちのやる気を引き出すのか。佐々木監督のようにうまいダジャレが言えなくても(笑)、組織をまとめることはできます。

※3月12日(火)掲載分の次回より書籍のダイジェストを掲載いたします

 

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この連載について

勝つ組織

佐々木則夫 /山本昌邦

サッカー女子日本代表も出場する国際試合「アルガルベカップ2013」。監督として個性豊かな選手たちをまとめ、世界一に導いた佐々木則夫氏と、現在はサッカー解説のほかビジネスマン向けの講演活動も行っていらっしゃる山本昌邦氏による、「本当に勝...もっと読む

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