幸せな挑戦

第4回】「持っている」という表現の罪

「非エリート」である中村憲剛選手が、日本代表まで上りつめることができたのはなぜか? ――大事な場面で結果を出すことに使われる「持っている」という表現についてあまり「好きではない」と語る中村選手。その部分に試合に臨む上での「憲剛スタイル」を見出せるようです。今回のcakesでは、試合前の準備だけでなく、プロ選手として必要な「負けず嫌い」について思うことなどを、第1章「未来の自分のつくり方」よりご紹介します。
 大事な場面で結果を出す選手に対して、最近は「持っている」と表現される場合も多い。そういう表現の仕方は、個人的にはあまり好きじゃない。
 

 サッカーでいえば、目の前に転がってきたボールに足を当てただけで得点を入れられたようなときには「ごっつぁんゴール」と呼ばれる。それができるのが、「持っている」からなのかといえば、そうではないはずだ。その選手がボールがこぼれてくる場所にいなければゴールは生まれない。

 そして、どうしてその場所にいられたのかといえば、運だけはなく、「意志」があったからということに違いない。経験や感覚からその「意志」が生まれ、それによってゴールができる。ごっつぁんという言われ方をしても、それは与えられたものではなく、勝ち取ったものだといえる。

 ゴールキーパーにしても、好セーブを連発して相手のシュートを何度も止めたときには「当たっている」と解説されたりする。そんな表現をされて喜ぶキーパーは少ないはずだ。「当たっている」という言葉には、〝ツイてる〟〝調子がいい〟といったニュアンスがある。そうやって運や調子で片づけられてはたまらない。

 キーパーであれば、相手のシュートを止める準備をしたうえで試合に臨んでいるのだから、そこで語られるべきなのは、実力であり、過程であるべきだろう。過程には、目の前の試合などに向けた「短いスパン」と、将来的な自分を考えた「長いスパン」がある。

 僕の場合でいえば、短いスパンの準備としては、あまり細かいことは決めていない。

 試合が近づいてきたときにも、何日前からどういうものを食べて、どういうトレーニングをするといった約束事をつくっていないのだ。試合当日にとる軽食のメニューをだいたい決めているくらいで、それまでの数日間は、自分の気分や体調に合わせて何を食べるかも変えている。プログラムやジンクスなどにはとらわれず、そのときの状況や具合に合わせてコンディションを整えているといえる。

 試合が控えているときに、どういうプレーをしようといったことをあれこれ考えたりもあまりしない。ただ、試合が近づいてきたときにぼうっとしていると、相手チームのユニフォームの色やスタンドの様子が頭に浮かんでくる場合がよくある。そのことにどんな意味があるのかは自分でもわからないけれど、そうやって戦うための心の準備をしている面はあるのかもしれない。

 意識している部分と、意識していない部分の双方で、試合に向けて心と体をつくっていく。そういう繰り返しになっている。 それがつまり、「憲剛スタイル」といえるようなものかもしれない。



「継続」するための二本柱

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中村憲剛

全国大会に出場したのは小学校の時だけ。選抜歴も同じ小学生時代の「関東選抜」が最高キャリア。幼い頃から体も小さく、中学入学時の身長は「136cm」。ぶつかっては吹っ飛ばされ、自分よりスピードのなかったライバルに成長差から追い抜かれ・・・...もっと読む

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コメント

die_kuma 昨日今季J1初出場した中村憲剛選手の連載が更新されました! 「持っている」という言葉が嫌いというのは、カズも同じ事を言っていた。 #frontale 5年弱前 replyretweetfavorite

kadokawaone21 絶賛発売中の中村憲剛『幸せな挑戦』 の一部公開をcakesさんで連載中。本日第4回を更新しました!第3回までは無料で公開中ですのであわせてぜひ! 5年弱前 replyretweetfavorite