サッカーでいえば、目の前に転がってきたボールに足を当てただけで得点を入れられたようなときには「ごっつぁんゴール」と呼ばれる。それができるのが、「持っている」からなのかといえば、そうではないはずだ。その選手がボールがこぼれてくる場所にいなければゴールは生まれない。
そして、どうしてその場所にいられたのかといえば、運だけはなく、「意志」があったからということに違いない。経験や感覚からその「意志」が生まれ、それによってゴールができる。ごっつぁんという言われ方をしても、それは与えられたものではなく、勝ち取ったものだといえる。
ゴールキーパーにしても、好セーブを連発して相手のシュートを何度も止めたときには「当たっている」と解説されたりする。そんな表現をされて喜ぶキーパーは少ないはずだ。「当たっている」という言葉には、〝ツイてる〟〝調子がいい〟といったニュアンスがある。そうやって運や調子で片づけられてはたまらない。
キーパーであれば、相手のシュートを止める準備をしたうえで試合に臨んでいるのだから、そこで語られるべきなのは、実力であり、過程であるべきだろう。過程には、目の前の試合などに向けた「短いスパン」と、将来的な自分を考えた「長いスパン」がある。
僕の場合でいえば、短いスパンの準備としては、あまり細かいことは決めていない。
試合が近づいてきたときにも、何日前からどういうものを食べて、どういうトレーニングをするといった約束事をつくっていないのだ。試合当日にとる軽食のメニューをだいたい決めているくらいで、それまでの数日間は、自分の気分や体調に合わせて何を食べるかも変えている。プログラムやジンクスなどにはとらわれず、そのときの状況や具合に合わせてコンディションを整えているといえる。
試合が控えているときに、どういうプレーをしようといったことをあれこれ考えたりもあまりしない。ただ、試合が近づいてきたときにぼうっとしていると、相手チームのユニフォームの色やスタンドの様子が頭に浮かんでくる場合がよくある。そのことにどんな意味があるのかは自分でもわからないけれど、そうやって戦うための心の準備をしている面はあるのかもしれない。
意識している部分と、意識していない部分の双方で、試合に向けて心と体をつくっていく。そういう繰り返しになっている。 それがつまり、「憲剛スタイル」といえるようなものかもしれない。
「継続」するための二本柱
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。