サブカルチャーからアートまで、しりあがり寿のマンガの世界
片桐仁(以下、片桐) ここの「練馬区立美術館」は、普段はどういう展示をやってるんですか?
—— 大正から昭和にかけて、近現代の日本の作家さんが多いです。洋画家の靉光*とか。* 靉光:あいみつ。昭和初期に活躍した洋画家。シュルレアリスムの影響を強く受けた画風が特徴。
片桐 靉光、知ってますよ。じゃあ今回の「回転展」は、いつもと客層もだいぶ違うでしょう。
—— 全然違いますね。いつもはご年配の方が中心なんですが、今回は若い方にもたくさん来ていただいて。
片桐 どういう経緯で、しりあがりさんの展示をやることになったんですか?
—— 朝日新聞としりあがりさんが展示をやる美術館を探していた時に、うちのスタッフが手を挙げまして。それと、練馬区にある日本大学芸術学部で、しりあがりさんがずっと教えているというのも少し関係しています。
片桐 日芸は江古田ですもんね。
—— まずは、ここから原画の展示です。
片桐 原画はやっぱりいいですね〜。
片桐 あ、『エレキな春』! 単行本、持ってますよ。
片桐 これ《徘徊老人ドンキホーテ》って、すごいタイトルですよね。
片桐 《金の言いまつがい》だぁ!
片桐 おなじみ《ヒゲのOL薮内笹子》。ゆるい手描きっぽいんだけど、デジタルの感覚もあって。ずらーっと並べられているのを見ると、30年の歴史を感じます。
片桐 初期の頃は、もちろん『ガロ』や『ねじ式』はあったんだけど、いわゆるサブカルチャーの漫画がそれほど世に出ていない時代で。しりあがりさんの漫画は、そういう流れを感じさせつつ、ドキッとするのに、ちゃんとポップなんだよなぁ。
—— 『ヒゲのOL薮内笹子』も最初はエロ系の雑誌に掲載されていたり、いろんな雑誌に描かれているんですよね。今回の展示にあたって、掲載された雑誌名から出版社をたどっても、「昔のことで掲載誌のありかは分からない」というケースがありました。
片桐 しりあがりさん本人も覚えてないんですか?
—— 覚えてないのもありましたね。
片桐 このへんは、漫画の原画じゃなさそうですけど。
—— タッチは漫画っぽいですが、一枚絵の作品です。
片桐 金箔も貼ってあって、漫画から少しずつはみ出していってます。
—— こういった作品は、アートフェアなどにも出品されています。
片桐 漫画家でありながら、アーティスト。すごいなぁ~。うらやましいなぁ〜。
—— こちらは、朝日新聞の夕刊に連載中の4コマ漫画『地球防衛家のヒトビト』の原画です。
片桐 しりあがりさんは、時事ネタも多いですよね。僕も連載している雑誌「テレビブロス」でも、時事ネタの1コマ漫画を描いてますし。
—— 2011年の震災直後はとくに、被災地のことを積極的に取り上げています。
片桐 「ず〜〜〜〜〜〜〜っと復興です」これは4コマとは思えない重みがありますね。
片桐 これなんか、現地の写生ですよ。セリフが一言もない。いつも読んでいる新聞にいきなりこれが載ってたら、かなりインパクトありますよ。しりあがりさんは、ものすごい才能ある人だけど、この絵のタッチでなめられがちだし、まさかいずれ新聞で連載するようになるなんて、当時はまったく思われてなかったでしょうね。
《崩》2015
片桐 でっか!! 独学で水墨画をやっているのは知っていましたが、一体こんな大きいのどこで描いたんですかね。
—— 昨年「NIKKEIアートプロジェクト」というのがありまして、そこで展示されていた作品です。日経新聞の会議室で描かれたそうです。
片桐 完全に美術家じゃないですか! いつ「しりあがり寿美術館」ができてもおかしくない。紙は、模造紙ですか?
—— いえ、和紙です。
片桐 和紙!
片桐 このぐしゃぐしゃな感じ、瓦礫みたい。到着した時はピシッとしてたんですよね?
—— はい、きれいな状態でした。
片桐 隠れてる部分にもちゃんと絵があるし、描いてる時からこういう風に飾ろうと思ってたのかな〜。不思議だわ〜。
ぜんぜんゆるくないエンターテインメント「ゆるめ~しょん」
—— 次の展示は、少し移動して別の部屋になります。