人気作品を実写化するときのトラブル「疑心暗鬼の玉突き事故」の正体

ストーリー作りとは「自分探し」である? 心理カウンセラーとしての資格をもち、脚本のお医者さん=「スクリプトドクター」として活躍する三宅隆太さんと、「私の小説のかかりつけ医になってほしい!」とまで三宅さんを絶賛する直木賞作家の三浦しをんさん。「心の枷」をはずしながらシナリオが書けるようになる実践的な脚本術をつづった『スクリプトドクターの脚本教室・中級篇』の発売を記念して、お二人が語る「創作者あるある」「脚本あるある」とは?

映画からぬいぐるみまで、何でも語れるスクリプトドクター

三宅隆太(以下、三宅) 今日は多くの方にお集まりいただいてありがとうございます。しをんさんとは、『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』のときのイベントにいらしたのがきっかけで仲良くなったんですよね。ぼくはあのとき、すごく緊張してたんですよ。

三浦しをん(以下、しをん) え、どうしてですか?

三宅 「何がドクターだよ、やぶ医者じゃないか」って怒られるんじゃないかと思って。

しをん いやいや、何をおっしゃいますやら。むしろ、「私の小説のかかりつけ医になってほしい!」と、いつも切実に願っておりますだよ。

 私はラジオの「タマフル」がすごく好きで、ほぼ毎回聞いているんですが、その特集コーナーに三宅さんが何度も出演なさっていて。
※タマフル:TBSラジオのライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

三宅 ぬいぐるみに入浴剤、ブルボンのお菓子の話まで、とにかくとりとめもなく語ってて、もはやなんの人かよくわからないですけど(笑)、かれこれ7、8年くらい出演してますね。

しをん 「三宅さん出演の特集コーナーにはずれなし」は、タマフルリスナーの共通認識だと思います。そのなかで、「スクリプトドクター」を特集した回があったんですが、私はそれまで、スクリプトドクターという職業の存在自体を知りませんでした。でも、三宅さんがお話しされている内容は、小説を書く身としても、本当にためになることばかりで。
 のちに、『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』が刊行されたので、すぐに拝読しました。「今度から私もこうしよう」って思うようなことがたくさん書いてありました。

スクリプトドクターの脚本教室・初級篇
スクリプトドクターの脚本教室・初級篇

三宅 おお。マジですか!

しをん 今回刊行された『中級篇』も含め、ペタペタと付箋を貼りまくりですよ。なんたって私、「窓辺系」 ※1 かつ「ソフトストーリー派」※2 ですからね。
※1 窓辺系:「初級篇」において「よくない脚本」の例として登場する、「主人公が思っていることを口にせず具体的な行動も行わずに、独り『窓辺』に立ち思い悩む場面が繰り返し出てくる」パターンの脚本を書く作家のこと。
※2 ソフトストーリー派:「中級篇」において登場する、明確なプロットやあらすじを書かずに、印象的な会話シーンなどからいきなり脚本を書き始めるタイプのこと

三宅 そんなそんな(笑)。でも、しをんさんに「かかりつけ医」になってほしいとまで言っていただけて、本当によかったです。

 スプリクトドクターって、日本の映画制作のシステムでは大っぴらには存在してないんですよ。ノンクレジット契約なので、エンドロールにもクレジットされませんしね。まあアメリカでもクレジットはされないんですけど、あちらでは昔からポピュラーな職業です。

しをん へえ。三宅さんはいつごろからスクリプトドクターをされているんですか?

三宅 2000年代の前半からなので、かれこれ14、5年になりますね。元々はぼく自身が脚本家としてリライトに苦しんだ経験が何度かあって。「日本にもスクリプトドクターがいたらいいのになあ」と思うようになり、結局、自分で始めちゃったという。
※リライト:映画やテレビドラマの世界では、脚本家が初稿(脚本=シナリオの第一稿)を書き上げたあと、プロデューサーや監督から新たなオーダーが追加されたり、スポンサーやキャスティング、予算や撮影スケジュールなどの都合に合わせて、「書き直し(リライト)」を何度かくり返した末に決定稿になる。ときには数十回リライトが繰り返される場合もある。

原作者は「いろいろ言っちゃっていいのかな……」と悩んでいる

しをん 私が三宅さんにかかりつけ医になってほしいと思った理由は2つあって。
 まず、三宅さんが『スクリプトドクターの脚本教室』シリーズで書かれている方法論は、非常に実践的で、なおかつシステマティックではない指南なのがいいなあと。「窓辺系」だったり「ソフトストーリー派」だったりする脚本家志望者のかたを、ただ批判して、「ここをこうすればいい」と一方的に押しつけるやり方は、絶対になさらない。作品を良くしていくために、まず自分自身の「感情の動き」について自覚的になろうという話から、既存作品の脚本を「逆バコ起こし」する方法まで、ものすごく懇切丁寧に説明し、手ほどきしてくださる。
 三宅さんの本を読んで、自分の小説について新しい視点で振り返るきっかけにもなりましたし、映画を観るときに自分の中の解釈や感じ方が深まった気がしています。つまり、創作する苦しみを和らげる処方箋でもあるし、創作物をより楽しく味わえるようになる調味料でもあるという、すごいご本ですよ!

三宅 いやあ、本当にありがとうございます。というわけで、まだお持ちでない方、この機会にぜひ(笑)。

しをん ぜひ、買うべし!(笑) ……かかりつけ医になっていただきたい理由は、もう一つあって。ありがたいことに、自分の小説を映像化していただくことがあるのです。私はその際、シナリオの確認を事前に必ずさせていただいて、それで納得がいったら契約を結ばせてもらう、という手順にしているんですけど。

三宅 ええ。

しをん もちろん、問題なく企画がすすむことも多いのですが、ごくたまに、「私の小説のどこをどう読んだら、こういう話になるのかな?」と感じるプロットやシナリオをいただき、一体どうお伝えすればお互いうまくいくんだろうと悩むときもあって……。以前まさにそういう事態になっていて、そんなときに三宅さんに知り合って相談に乗っていただいたら、いい方向にすすんだのです!
※プロット:脚本(シナリオ)の前段階で、ストーリーの大まかな構成を理解するために書かれる文書

三宅 それはなにより! でもあの、くれぐれも作品のタイトルは言わない方向で……!

しをん はい(笑)。その時の三宅さんのアドバイスは、「とにかくちゃんと話し合う」だったんですけど、これは目からうろこでしたね。
 というのもまずね、映像化の話って、基本的に原作者側の窓口を出版社にやっていただくので、企画の初期段階では、私とプロデューサーさんが直接会う機会がない場合も多いし、脚本家や監督さんと直接連絡をとることもまずないんですよ。だから、プロットやシナリオを確認させてはいただくものの、「制作者側の状況をよく知らない者が、あまり口を出すのもな……」と思ってしまっていたんです。

三宅 なるほど……。

しをん とはいえ、辛抱たまらなくなって、結構シナリオに提案させていただいちゃってたんですが。だけど、やっぱりメールのやりとりでは限界がある。そこで三宅さんのアドバイスにしたがって、実際にプロデューサーさんとお会いしてお話ししてみたら、みるみる意思の疎通がうまくいって。結果的に素晴らしい作品を作っていただき、関係者全員大満足で、幸せな気持ちになったのでした。

「実写化」で起きる不毛なディスコミュニケーション

三宅 よかったよかった。

しをん そういうわけで、原作者にもスクリプトドクターがいてくれればなあ、なんて思うのです。

三宅 原作者にとって、映画化チームが「壁の向こう」側に感じられることがある、という話でもあったと思うんですが、実は映画をつくる側の人間にとっても、原作者の存在が「壁の向こう」側に感じられてしまうときもあるんです。ただ、ぼくは本来であれば原作者も同じチームだよなと思いたいですし、ドクターとしては、本来生まれなくてもいいはずの軋轢はなくしていきたい。でも、映画化のプロセスのなかで発生してしまう「構造上の問題」がいろいろあって、「壁」ができてしまうことは残念ながらあります。
 実際、当事者である脚本家たちの気持ちもわかるんです。プロデューサーや監督からも「よし、こういう方向でいこう!」とOKをもらって脚本を書いたにもかかわらず、しかも何度かリライトが繰り返された段階になってから、「原作者から脚本にNGが出た」という情報だけがおりてきたら、「えー、なんで」となりますよね。

しをん それはそうですよね。

三宅 これって、ぼくはすごく不毛だと思っているんですよ。脚本のリライトがだいぶすすんじゃった段階でプロデューサーがそれを出版社に送り、出版社が原作者に送り、脚本家にとっては顔の見えない状態にある原作者から「ここが違う」とか「こうしてくれ」ということをえんえんと書いたなが~いペーパーだけがとんでくるという……。

しをん はいはい(笑)。

三宅 このやりとりは、お互いの意図が正確に伝わりにくいだけでなく、双方のチーム内での疑心暗鬼をも生むんですよね。通常、原作者や出版社サイドに会いに行くのは大抵プロデューサーだけで、脚本家は同行しなかったり、どういうわけか、そもそも同行させてもらえなかったりするんです。でも、その段階での「その脚本」は何度かのリライトも経ているわけですから、映画化チームのなかでは合意がとれた内容になってるわけです。ところが、原作者からペーパーのみの「否定的なリアクション」が返ってくる。
 こうなると、脚本家はプロデューサーに対して疑念を抱きはじめたりもしてしまう。「そもそもプロデューサーであるあなたも納得したうえでの〈脚色〉だったり、アレンジだったりしたわけでしょ? 先方さんには、我々サイドの〈脚色の意図〉をほんとにちゃんと伝えたの?」といった具合に。同じことは原作者サイドにも発生する場合もあります。間に入っている出版社のひとに対して、原作者が疑念を抱くわけです。「映画チームに〈原作者としての意向〉をちゃんと伝えたの? だったら、なんでこんな〈脚色〉になってるの?」と。最悪、原作者と出版社の間すらも疑心暗鬼になって、もうあっちでもこっちでも疑心暗鬼の玉突き事故が発生しちゃう。それを解決するには「顔をみて話す」のが一番はやいんですよ。

しをん そうですよね。出版社側だって、映像化に慣れている担当編集者の方ばっかりではないですし、間に入る人が増えれば増えるほど、ややこしくなることは多い。だからこそ、コミュニケーションが大事なんですが、問題が発生して切羽詰まった状況になると、「いや、一回会って、話し合ってみようよ」という基本的かつ単純なことに、なかなか思いが至らなくなってしまう。

三宅 よかれと思っての、いろいろな人が「間に入る」という流れなんでしょうけど、その結果、中途半端な「お察し大会」がはじまって、却って話がややこしくなるケースは多いですね。本来はそんなに難しい話ではないはずなんだけど……。
 そもそも脚本を書き出す以前の、つまり、プロジェクトの初期段階で、プロデューサーが原作者や出版社サイドに対して「我々はこういう狙いで、あなたの原作を、小説という媒体から映画にしようとしています。映画という媒体に合うように、実はここを変えようと思ってます」という話ができたらいいんだと思いますが、なかなかそこがうまくいかないケースは多いんですよね……。というのも、プロデューサーが原作権を取りに行く段階では、まだ具体的なアレンジや脚色の方針が固まりきってないこともありますし、場合によってはまだ担当脚本家が選定されていないこともある。
 あるいは脚本家は選定されていて、なおかつアレンジの方針自体も固まっていたとしても、まだ脚本に着手していないという場合もある。そういうときは、具体的なアプローチについてプロデューサーが明確に説明できないのは無理もない話です。

原作者は「原作どおり」にしたい?

三宅 だったら実際に脚本を書く脚本家が打ち合わせに同行して、直接原作者や出版社サイドに説明すればいいんじゃないか、って考え方もあると思うんですけど、まあ率直な話、脚本家にしても実際に書き出してみなければわからないところもあるから、あまり早い段階で〈その時点で想定している脚色のプラン〉の話をしてしまって藪蛇になりたくないというのもある。その時点で原作者サイドが「そういうことなら、あれも足して、これも足して」と言ってきたら、それらの要素は以後のシナリオ作業で「確定事項」になってしまう可能性が高い。
 一方でプロデューサーからすると、あまり早い段階で〈原作の変更プラン〉を伝えた場合、もしそこで原作者からNOと言われてしまったら映画化のプロジェクト自体が総崩れになってしまうんじゃないかという不安は結構あると思う。

しをん なるほど。個人的には、シナリオを拝読するときに気にするポイントは、「ストーリー展開や描写が原作に忠実か」ってところではまったくないんですよね。だけど、そこを重視される原作者も当然いらっしゃると思うし……。

三宅 確かにそういう人もいます。とはいえ、映画化にOKを出しているのであれば、文字で書いてある表現がそのまま画面に出るわけじゃないってのは、だいたいの原作者の方も理解されていると思いますけどね。でも、なぜか製作側は見当違いの努力をしちゃうことが多い。

しをん やっぱりコミュニケーションが大事ですね、原作者をもっと信頼していただけるように。私がかねてから疑問なのは、マンガの実写化って、登場人物の外見をマンガの絵に寄せようとするじゃないですか。それを「原作に忠実だ」と評価する観客の方もいらっしゃるみたいだけど、「大事なのはそこなのか!?」と思う。いくら役者さんといえど、生きてる人間なんだから、マンガの絵みたいなプロポーションにはなれないでしょう!

三宅 個性的過ぎる髪型とかね(笑)。ぼくもマンガ原作ものを監督したときに、「原作の画と役者の顔が違う」と言われたことがあります。

しをん まじか(笑)。マンガと同じ顔だったらこわいよ! もちろん、あまりにも原作の人物像やストーリーをないがしろにしすぎるのも、「じゃあ、オリジナル作品ということでいいじゃないか」となってしまうでしょうし、何をもって「原作どおりか」というのは、本当に難しいですよね。

三宅 そうですね。なんであれ、原作者もふくめて「どういう映画にしようとしてるのか」という、チームとしての意思統一を明確にしておくことが大切だと思います。だからこそ、初期の段階でがっちり話し合うっていうのが一番良いんですよ。

次回「映画づくりの大半は『政治と経済』である」は9/16(木)更新予定

構成:平松梨沙 協力:ジュンク堂書店


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この連載について

脚本のお医者さんと罠にハマる原作者?—三宅隆太×三浦しをん対談

三浦しをん /三宅隆太

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コメント

MiuraYoh 三浦しをんさんもタマフルリスナーなんだな #utamaru 約2年前 replyretweetfavorite

neetian まさに「SHIROBAKO」のラストエピソード。実際に会うことの重要性って不思議だなぁ。 2年以上前 replyretweetfavorite

yokoline おもしろい。「提案」業はどこも同じ種類の課題が出てくるんだな 2年以上前 replyretweetfavorite

830Korin こんな職業があるなんて知りませんでした。面白いお話です。https://t.co/zHBA9gdULh 2年以上前 replyretweetfavorite