畑を借りたが、どうしてよいやら。とりあえずクワを買いに行く

自宅近くをドライブ中に「貸し農園あります」という看板を見つけた金田さん。それまで無農薬と有機野菜の違いもわからず、食へのこだわりもさほどなかった金田さんですが、「なんだかおもしろそう」という理由で、畑を借りることに。でもサラリーマンの夫は猛反対。夫を説得しつつ、農園に向かってみると……。
家庭菜園をはじめた夫婦のドタバタな日々をユーモアたっぷりにお届けします。

いやがる夫と、農園に向かう

「ぼくは野菜作りなんて興味ない。どうしてもやるなら、ひとりでやって」

きまぐれで畑を借りることにした私に、夫は猛反対だ。

「なんで? 一緒にやろうよ」

「あのさぁ、畑仕事がどういうものか、わかってて言ってるの? タネまいて終わりじゃないんだよ。世話するんだよ。ほうっておいたら虫がつくし、草ぼうぼうになるんだよ。だいいち、3キロのお米も重くて持てない人が、100㎡もの畑をどうやって耕すわけ?」

「耕すのはアナタで、私はタネまきと水やりと収穫を担当するよ」

「じょうだんじゃない! 汚れるし、つかれるし。平日会社で働いているのに、なんで休日まで畑で働かなくちゃいけないわけ? そんなヒマがあったら、ぼくはゴルフの練習に行きます」

「ああ、そうですか。わかりました。じゃあ、運転だけしてよ」

私はいやがる夫にたのんで、農園へ向かった。

前日に『貸し農園あります』の立て札を見つけ、さっそく貸し主に電話をしたところ、

「好きな区画を選んで、また連絡ください」と、農園の場所を教えてくれたのだ。

「うわぁ~、すご~い!」

そこは林のわきに広がる農園だった。風が木々の枝を揺らし、野鳥のさえずりと虫の音しか耳にとどかない。

「わーい、ここ ぜーんぶ、私の土地だよ!」

「ちがうでしょ。でも、いいねえ、ここ」

区画は、地面に張られたロープで仕切られ、借り手のついた場所には、名前の書かれた木片がさしてある。それのない区画から、自分の畑を選ぶのだ。広さは「平均100㎡」らしいが、小学校の教室よりは広そうだな。

「日当たりって、どうなの?」

「東があっちだから、太陽はこう動くね」

夫は、方位磁石なしでも方角がわかる人だ。

「じゃあここでいいや。水道も近いし」

私は、雑木林のへりから3つ目の区画に仁王立ちした。

「ついに私も土地持ちだね。思えば長い道のりだったよ」

夫は区画の周りをとぼとぼ歩いていたが、やがてため息をついた。

「ほんとに100㎡あるぞ」

「なんでわかるの?」

「歩幅で測ったんですよ。10m×10mあります」

「さっすがー!」

夫は、メジャーなしでも長さや距離がはかれる人なのだ。

「10㎡もあればじゅうぶんなのに。100㎡なんて、家庭菜園の広さじゃないよ」

「じゃあ農場だね。私たちきょうからファーマーだね!」

と叫んだ私を、夫はにらみつけた。

「ぼくはいっさい手伝いません」


お隣さんは外国人!

「野菜作りの経験はあるの?」

貸し主は、農園のそばに暮らす農家の老夫婦だった。契約書にハンコをつきながら、小柄な奥さんは終始ニコニコしている。

「いいえ、まったくありません。これから勉強します」

「そう。楽しんでね。契約では2月スタートだけど、その前に始めてもかまわないから」

その日から、私は週末ごとに畑の視察に出かけた。むろん、運転手同伴だ。

「見て見て、私の畑!」

区画にささった木札に、マジックで『金田さん』と書いてある。

「まるで墓標だな」

夫は、連日の説得で、「バイト代をくれるなら、少しは助けてやってもいい」と言い始めていたが、それでもうっすら不機嫌だった。

「見て、ここ。動物の足跡があるよ!」

なんの足跡でしょう。クマではなさそうです。

「タヌキかな? ウサギかな? 私の畑に遊びに来るかな?」

「来る来る。それで野菜をぜーんぶ食べちゃうんだよ。それよりさ、向こう見て。人がいる」

ふりむくと、広い農園のかなたで、何やらのろしがあがっていた。バーベキューなのか焼畑なのか、麦わら帽子のおじさんたちが集まっている。

「別の農園から集団で移ってきた人たちがいる」と畑の大家さんが話していたが、彼らがそうなのかな。“集団で”なんて、ソ連のコルホーズみたいだ。

「あんなふうに、みんなと仲良くできるの?」

夫の言葉に、私はだまりこんだ。人見知りで内弁慶。コミュニティーでわきあいあいというのが、どうも苦手なのだ。

「周りの区画の人って、どんな人なのかな……」

内心、それだけが不安だった。

それから2週間後。私はついに、農園のメンバーと出くわしてしまった。小道をはさんだ向かいの区画で、おじさんがスコップで土をほりかえしていたのだ。

「ハーイ! コンニ~チワ!」

笑顔で手を上げたおじさんは、なんと外国人だった。年は50代だろうか。ブルーの目に真っ白な髪。冬だというのにTシャツで、汗だくだ。一緒にいるかわいい子は、息子さんだろう。

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シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

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YATA_Eagle 旦那さんの辛辣なツッコミが魅力的  3年以上前 replyretweetfavorite