第168回 組み立てペンタゴン(後編)

「数学って不思議ですね。繋がっているといいますか、表し方がちがうだけといいますか……」とテトラちゃんはつぶやいた。「広がる複素数」第4章後編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
瑞谷先生:司書の先生。定時になると下校時間を宣言する。
$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\ABS}[1]{\bigl|\,#1\,\bigr|} \newcommand{\BAR}[1]{\overline{#1}} $

第167回の続き)

放課後の図書室

ここは高校の図書室。いまは放課後。 が宿題を片づけていると、いつものようにテトラちゃんがやってきた。

テトラ「先輩! 先日は正$5$角形、楽しかったですねっ!」

「そうだね」

先日、テトラちゃんは正$5$角形についてあれこれ考えて《定規とコンパス》で描く方法を導いたんだ(第165回第166回第167回参照)

テトラ「実はですね、あれからいろんなことが気になって、家で計算していたんですよ。テトラの話、聞いていただけますか?」

「もちろん、いいよ。どんな計算?」

こんなふうにして、今日も僕たちの数学トークが始まった。

テトラ「単位円に内接する正$5$角形の頂点を考えるとき、先輩は単位円の円周上にある点を$(\cos\theta,\sin\theta)$と置きました」

「そうだね。それはすごく自然なことだと思うけど。$\cos$と$\sin$の定義から」

テトラ「はい。あたしはそこからすぐに、頂点に対応する$5$個の角度が$\frac{2\pi}{5}$ずつ増えていることがわかりましたし。 だってひとまわり$2\pi$を$5$等分するんですから。ですよね」

正$5$角形の頂点

「うん。偏角だよね。複素数は一般に$r(\cos\theta + i\sin\theta)$と表せるけど、このときの$\theta$が偏角。単位円の円周上なら、$r = 1$だけどね……で、そこから何か計算したの?」

テトラ「はい。先輩が話してくださった《正$5$角形の頂点と$z^5 = 1$の関係》のことをずっと考えていたんです。この正$5$角形の頂点を想像しながら……そこであたし、気付きました。 複素平面で頂点に対応している複素数が$z^5 = 1$の解ということは、 $\cos\frac{2\pi}{5}+i\sin\frac{2\pi}{5}$を$5$乗したら$1$になるということですよね?」

「え? ああ、もちろん、その通りだよ。その話、しなかったっけ」

テトラ「すみません、違うんです。そのお話は聞いていました。でも、あたしの中ではどうも納得していなかったようなんです。 家で、$\zeta_0,\zeta_1,\zeta_2,\zeta_3,\zeta_4$のことを考えていたら……」

「うん」

テトラ「……そうしたら《$5$乗したら$1$に等しくなる$5$個の式》がぱああっ!と浮かんで来て、はわわっ!となって……」

$5$乗したら$1$に等しくなる$5$個の式
$$ \begin{align*} \zeta_0^5 &= 1 \\ \zeta_1^5 &= 1 \\ \zeta_2^5 &= 1 \\ \zeta_3^5 &= 1 \\ \zeta_4^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

「なるほど」

テトラ「それから、この$5$個の式も、確かにこれが成り立つ……とわかったんです」

$5$乗したら$1$に等しくなる$5$個の式
$$ \begin{align*} \left(\cos0\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin0\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos1\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin1\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos2\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin2\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos3\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin3\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \left(\cos4\cdot\frac{2\pi}{5}+i\sin4\cdot\frac{2\pi}{5}\right)^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

「ああ、それは《腑に落ちた》ってやつだね! その気持ち、よくわかるよ。前から見たことがある式のはずなのに『そういうことだったんだ!』 って突然気付くこと、あるから」

テトラ「あ、先輩もそうなんですか?」

「すごく基本的なところでは、数式の《因数分解》と《展開》が逆の計算なんだ!と気付いたときとかね」

$$ \begin{array}{rcl} a^2 + 2ab + b^2 &\stackrel{\text{因数分解}}{\longrightarrow}& (a+b)^2 \\ &\updownarrow& \\ a^2 + 2ab + b^2 &\stackrel{\text{展開}}{\longleftarrow}& (a+b)^2 \\ \end{array} $$

テトラ「なるほど」

「それから$2$次方程式の《解と係数の関係》をはじめて習ったときもね。《解と係数の関係》って、意味がぜんぜんわからなかったのを覚えてるよ。 式の変形は追えるんだけど意味がわからない。 でも、《解の公式》と《解と係数の関係》が似ていることをやってるって、気付いたときは感動したなあ」

  • 《解の公式》は、係数で《解》を表す。
  • 《解と係数の関係》は、係数で《解の和と積》を表す。

テトラ「な、なるほど……」

「さっきのテトラちゃんの$5$個の式はもちろん正しいけど、$\theta = \frac{2\pi}{5}$と置くとこうなるね」

$5$乗したら$1$に等しくなる$5$個の式で、$\theta = \frac{2\pi}{5}$と置いた
$$ \begin{align*} (\cos0\theta+i\sin0\theta)^5 &= 1 \\ (\cos1\theta+i\sin1\theta)^5 &= 1 \\ (\cos2\theta+i\sin2\theta)^5 &= 1 \\ (\cos3\theta+i\sin3\theta)^5 &= 1 \\ (\cos4\theta+i\sin4\theta)^5 &= 1 \\ \end{align*} $$

テトラ「ああ、そうですね」

「ド・モアブルの公式を使って書き直すとこうなるかな」

ド・モアブルの公式
$$ (\cos\alpha + i \sin\alpha)^n = \cos n\alpha + i\sin n\alpha $$
$5$乗したら$1$に等しくなる$5$個の式を、ド・モアブルの公式を使って変形した
$$ \begin{align*} \cos5\cdot0\theta+i\sin5\cdot0\theta &= 1 \\ \cos5\cdot1\theta+i\sin5\cdot1\theta &= 1 \\ \cos5\cdot2\theta+i\sin5\cdot2\theta &= 1 \\ \cos5\cdot3\theta+i\sin5\cdot3\theta &= 1 \\ \cos5\cdot4\theta+i\sin5\cdot4\theta &= 1 \\ \end{align*} $$

「そして、ここまでくればあたりまえ。だって、$\theta = \frac{2\pi}{5}$を$5$倍したら$2\pi$になる。$2\pi$の整数倍だと$\cos$は$1$で、$\sin$は$0$になるから、こうなるよね}

$5\theta = 2\pi$を使った
$$ \begin{align*} \cos0\cdot2\pi+i\sin0\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos1\cdot2\pi+i\sin1\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos2\cdot2\pi+i\sin2\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos3\cdot2\pi+i\sin3\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \cos4\cdot2\pi+i\sin4\cdot2\pi &= 1 + i\cdot0 = 1 \\ \end{align*} $$

テトラ「あ、はい……そ、それでですね。あの……あたしが考えていたことに戻るんですが」

「あ、そうだ。ごめんごめん。テトラ先生が話していたんだった。どうぞどうぞ」

テトラ「単位円に内接する正$5$角形の頂点$\zeta_0,\zeta_1,\zeta_2,\zeta_3,\zeta_4$はどれも$5$乗すると$1$になるんですから、$5$回分ジャンプすると、ぜんぶ$1$にたどり着くんですよ!  たとえば、$\zeta_1$の場合は、反時計回りにぐるっと回って$1$にたどり着きます」

$\zeta_1$を$5$回ジャンプさせる($\zeta_1$を繰り返し掛ける)

「なるほどね。ええと、$\zeta_1$を$5$回分ジャンプするというのは、$\zeta_1^1,\zeta_1^2,\zeta_1^3,\zeta_1^4,\zeta_1^5$を複素平面でたどるという意味かな。 ちゃんというと、$\zeta_0 = 1$から始めて、$\zeta_1$を繰り返し掛けていくと…… $$ \begin{align*} \zeta_0\zeta_1 &= \zeta_1 \\ \zeta_1\zeta_1 &= \zeta_2 \\ \zeta_2\zeta_1 &= \zeta_3 \\ \zeta_3\zeta_1 &= \zeta_4 \\ \zeta_4\zeta_1 &= \zeta_0 \\ \end{align*} $$ ……のようになるということだよね」

テトラ「はい。そして、$\zeta_2$も同じように$5$回ジャンプで$1$に着きます」

$\zeta_2$を$5$回ジャンプさせる($\zeta_2$を繰り返し掛ける)

$$ \begin{align*} \zeta_0\zeta_2 &= \zeta_2 \\ \zeta_2\zeta_2 &= \zeta_4 \\ \zeta_4\zeta_2 &= \zeta_1 \\ \zeta_1\zeta_2 &= \zeta_3 \\ \zeta_3\zeta_2 &= \zeta_0 \\ \end{align*} $$

「……」

テトラ「$\zeta_3$も同じように$5$回ジャンプで$1$に着くんですが、これは$\zeta_2$の逆回りで……」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki 二つ目はこちら。 2年弱前 replyretweetfavorite

hyuki @hayate95able たぶんこの辺りかと思います。 https://t.co/tVXaqkp7gj https://t.co/EJW8MwJnTs 約3年前 replyretweetfavorite

chibio6 最初テトラちゃんのいうジャンプの意味が分からなくて時間がかかったけれど、あれは角度で移動していたのか(あってる?)と気づいてからは早かった。 3年以上前 replyretweetfavorite

lyuda83 最後のミルカさんのお言葉の続きはぁ? →自分で考えろってことですね。 3年以上前 replyretweetfavorite