アメリカでレイプ犯罪が蔓延する理由
前回「リオ五輪の裏で浮き彫りになった異様な『白人男性の特権意識』」でも語ったが、アメリカでは男性アスリートによるレイプが問題視されるようになっている。アスリートと犯罪についての執筆が多い南バージニア大学教授のジェフ・ベネディクトの調査によると、男性人口の3.3%でしかないアスリートは、性犯罪者の19%、DV(ドメスティック・バイオレンス)加害者の35%を占めている。
レイプを含む性暴力は、被害者のほうが落ち度を責められたり個人攻撃されたりすることが多い。ことに、加害者が人気アスリートの場合には極端だ。モンタナ大学アメフト選手による有名なレイプ事件でも、住民や警察は加害者を擁護し、被害者を責めた。
だから、レイプや性暴力の被害者は通報せずに泣き寝入りをすることが多い。日本でも統計での犯罪数や犯罪率から「レイプや性犯罪は少なくて安全」と信じる人がいるが、被害者が報告していないだけで、犯罪が少ないわけではない。
いまアメリカでは、若い男性による女性へのレイプを含む性暴力の増加が問題となっている。
高校や大学で男子による女子へのレイプを含む性暴力が安易に行われ、加害者は後悔するどころか、ソーシャルメディアで自慢そうに公表する。こんな風潮は、「レイプカルチャー」と呼ばれている。
今年5月に発表された南フロリダ大学など4つの大学の研究者による調査結果は、そんなショッキングな現状を明るみに出した。
23歳以下の若い男性379人が参加したこの調査では、半数以上の54%の大学アスリートが「性交での強制行為(sexual coercion)を行ったことがある」と告白したのだ。ここには、女性が要求したのにコンドームの使用を拒んだなどの行為も含まれているが、この数字を見るだけで、被害者が報告していない性犯罪がいかに多いか想像できる。
レイプ事件がメディアで大きく伝えられるたびに世論は怒る。しかし、この調査結果を見る限りでは、怒りで現状が改善している様子はない。
大学時代から男子アスリートによる性暴力の問題に取り組んでいるエリック・バートホールドも、メディアでのバッシングを含む「アスリートを攻撃するやり方では問題は改善しない」と言う。彼が主張するのは、「北風と太陽」式のアプローチだ。
Eric Barthold(写真提供 Geoff Hansen)
子どもの頃から大学まで数々のスポーツをこなし、スキーとサッカーのコーチもしているアスリートのエリックは、コルビー大学でジェンダー問題に目覚め、「性暴力に対抗する男子アスリート」という大学クラブを共同創始し、現在は高校や大学を訪問して「Man up and Open up(男として勇敢になれ、そして心を開け)」という啓蒙運動を行っている。これは、高校や大学を訪問し、男子学生と60分間じっくりと語り合うプログラムだ。
エリックは、大学のレイプカルチャーの背後に、マッチョで男尊女卑のアスリートに代表される典型的な「男らしさ」のイメージがあるという。
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