常識で他人を裁くことのグロテスクさ

先日『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんと、不倫×SFという斬新な取り合わせで話題となっている漫画『あげくの果てのカノン』の作者・米代恭さん。対談の後編は、会場からの質疑応答です。「ふたりにとっての恐怖とは?」「不倫はダメなどのルールや常識で、これはおかしいなと思っていることは?」「現実で好きな人に別の相手がいる恋愛の経験は?」など様々な質問が飛び出します。

「人の内臓ってこんなに柔らかいんだ」

— さて、ここで、村田さんに朗読していただきます。ファッションカルチャー誌「Maybe!」に書き下ろした「魔法のからだ」の1シーンです。

Maybe! Vol.1
Maybe! Vol.1

村田沙耶香(以下、村田) では恐縮ですが、はじめますね。

「元から知識があって、そういうキスをしたわけじゃないの?」

 志穂は首を横にふってわらった。

「ううん。何であんなことしたのかな、って思うよ。後になってから、本で、他の人もそうやってするんだって知ったとき、ちょっとほっとしたけど、がっかりもしたなぁ。私と陽太だけの発明だと思ったんだもん。」

「どうしてそうしたくなったのか、志穂にもわからないの?」

「うん、最初はお互いにほっぺたを舐めあってたんだ。やわらかくておいしそうだから。そのうち、私、陽太の身体の中に、入ってみたくなったの。皮膚の中に行きたくて、瞼を舐めた。陽太が驚いて、ぱかって口をあけたから、そこに舌を突っ込んだんだ。陽太はすごくびっくりしてたけど、説明したら、わかった、いいよって言ってくれた。
 陽太の肌は日焼けしてて、私より分厚いの。それを舌で触るのが好きだったんだけれど、口の中は違った。最初は、下唇の後ろを舐めたの。柔かくって、赤ちゃんみたい、人の内蔵ってこんなに柔らかいんだっておもった。
 もっと陽太の内側を味わいたくて、歯の裏側を飛び越えたら、少しだけ血の味がした。そこには口内炎があって、陽太に小さな穴があいていたの。痛くないように、そこをそっと舌で撫でた。陽太の身体の中は複雑で、いくら舌でさわっても飽きなかった」

— ありがとうございました。

会場 (拍手)

村田 「魔法のからだ」は、中学2年生の女の子ふたりが出てくる話です。主人公の瑠璃は背が高くて胸も大きい、まわりから「すすんでいる」と思われている子。それに対して、もう一人の志穂は小柄な少年じみた体型で、教室でもおとなしく本を読んでいる、性的経験なんてなさそうな女の子。でも実は志穂のほうこそ、中1のころにセックスを済ませているんですね。
 そんなふたりの会話シーンでした。

かのんは先輩とセックスするのか?

— 村田さんの作品はいつも肉体感覚が生々しいなあと思います。口内炎のくだりとか。

村田 「恋愛」というものを描くにあたっては、肉体感覚をいつも重視していますね。そうだ、米代さんに聞きたかったんです。『あげくの果てのカノン』を描くにあたって、かのんの肉体に関してはどういうふうに意識なさっていますか?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
あげくの果てを知りたくて—村田沙耶香×米代恭対談

村田沙耶香 /米代恭

先日『コンビニ人間』で、芥川賞を受賞した村田沙耶香さんと不倫×SFという斬新な取り合わせで話題となっている漫画『あげくの果てのカノン』の作者・米代恭さん。満員御礼となったお二人の対談イベントを全3回でたっぷりとお届けします。ふたりが考...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

gara_dari |村田沙耶香 @sayakamurata /米代恭 @cometakuzo |あげくの果てを知りたくて——村田沙耶香×米代恭対談 村田沙耶香さんの価値観が作品に反映されてる 好きだなぁ村田さん https://t.co/sXYPwujLtA 約4年前 replyretweetfavorite

shionchan123 面白い@(・●・)@ 約4年前 replyretweetfavorite

consaba 村田沙耶香+米代恭 「ふたりにとっての恐怖とは?」「不倫はダメなどのルールや 約4年前 replyretweetfavorite

bear_yoshi 「本人たちの間のなかで解決していることに干渉するのが、私は一番グロテスクだと思っている。」 /  約4年前 replyretweetfavorite