「人の内臓ってこんなに柔らかいんだ」
—— さて、ここで、村田さんに朗読していただきます。ファッションカルチャー誌「Maybe!」に書き下ろした「魔法のからだ」の1シーンです。
「元から知識があって、そういうキスをしたわけじゃないの?」
志穂は首を横にふってわらった。
「ううん。何であんなことしたのかな、って思うよ。後になってから、本で、他の人もそうやってするんだって知ったとき、ちょっとほっとしたけど、がっかりもしたなぁ。私と陽太だけの発明だと思ったんだもん。」
「どうしてそうしたくなったのか、志穂にもわからないの?」
「うん、最初はお互いにほっぺたを舐めあってたんだ。やわらかくておいしそうだから。そのうち、私、陽太の身体の中に、入ってみたくなったの。皮膚の中に行きたくて、瞼を舐めた。陽太が驚いて、ぱかって口をあけたから、そこに舌を突っ込んだんだ。陽太はすごくびっくりしてたけど、説明したら、わかった、いいよって言ってくれた。
陽太の肌は日焼けしてて、私より分厚いの。それを舌で触るのが好きだったんだけれど、口の中は違った。最初は、下唇の後ろを舐めたの。柔かくって、赤ちゃんみたい、人の内蔵ってこんなに柔らかいんだっておもった。
もっと陽太の内側を味わいたくて、歯の裏側を飛び越えたら、少しだけ血の味がした。そこには口内炎があって、陽太に小さな穴があいていたの。痛くないように、そこをそっと舌で撫でた。陽太の身体の中は複雑で、いくら舌でさわっても飽きなかった」
—— ありがとうございました。
会場 (拍手)
村田 「魔法のからだ」は、中学2年生の女の子ふたりが出てくる話です。主人公の瑠璃は背が高くて胸も大きい、まわりから「すすんでいる」と思われている子。それに対して、もう一人の志穂は小柄な少年じみた体型で、教室でもおとなしく本を読んでいる、性的経験なんてなさそうな女の子。でも実は志穂のほうこそ、中1のころにセックスを済ませているんですね。
そんなふたりの会話シーンでした。
かのんは先輩とセックスするのか?
—— 村田さんの作品はいつも肉体感覚が生々しいなあと思います。口内炎のくだりとか。
村田 「恋愛」というものを描くにあたっては、肉体感覚をいつも重視していますね。そうだ、米代さんに聞きたかったんです。『あげくの果てのカノン』を描くにあたって、かのんの肉体に関してはどういうふうに意識なさっていますか?
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。