自分が歩いて来た場所に、自分でびっくりしてみてた。
私は1987年に神奈川県相模原の病院でぽこんと生まれた。だいたいの赤ちゃんがそうである通り、お米の一袋ぶんかそれよりちょっと軽いくらいの重さだった。今はその、かつての私の身体まるごとの重さであるお米の一袋を、1か月かそこらで食べてしまう。約30年かけて、約3倍の体長に成長している。
気づいたら、神奈川から何千キロメートルも離れたフランスのド田舎の村にいた。人口100人くらいの、小さな小さな村。そこは、私が心から愛し、人生の相棒だと思っている人の故郷だった。彼女が日本へ出張しているあいだ、日本語を話す人は私の他にはいない。
フランス人にとってガイジンである私がフランスに住み、フランス人と共同名義で住宅ローンを組むためには、結婚制度を利用する必要があったので、そうすることにした。最初は使わせてもらえなかったが、2013年に「みんなのための結婚」と呼ばれる法案が通り、同性同士でも結婚制度を使えることになった。
役所で、婚姻のための書類を記入するとき、「夫となるもの」「妻となるもの」というふうに並んだ文字の「夫」のところを窓口の人は消して「妻」と書きなおしてくれた。そういうふうにしてもらえる未来まで歩いて行けることを、知らなかった。10歳で女の子に初恋し、「同性愛は悪いことだ」と思い込んで、引っ越しの車で泣きながら、初恋の女の子がくれた手紙に返事を書かず忘れるように努力したあの頃には。
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