「彼でなければならない必然性」はどこにあるのか
インタビュー・対談記事のイントロで、これまで様々な役をこなしてきた俳優の印象を手短に形容するのは簡単ではない。だからこそ、『シン・ゴジラ』の宣伝で登場した長谷川博己と石原さとみの対談記事のイントロを、「映画やドラマ、舞台、CMに大活躍の長谷川博己さん、可愛らしさと色っぽさを併せ持ち、幅広い世代に大人気の石原さとみさん」(『東京カレンダーMOOKS 夏の情緒レストラン』)としてしまう気持ちはよく分かる。「可愛らしさと色っぽさを併せ持つ」の守備範囲は抜群に広い。主役を張る若手女優ならば、概ねこの掛け合わせを嫌がらないだろう。実務的な話をすれば、事務所からの赤字は入らない。
先述の長谷川の記載には、彼の特性を絞り込む形容が一切無い。何たって「映画やドラマ、舞台、CMに大活躍の長谷川」である。『シン・ゴジラ』で内閣官房副長官・矢口蘭堂役を演じた長谷川は、その役どころについて「熱くならない。でも、調整力はある」(『サンデー毎日』8月7日号)と分析している。映画を観終えた後では、その「調整力」が極めて選び抜かれた表現だと納得する。絶賛が連なる『シン・ゴジラ』論をいくつか読んだが、不思議と、メインキャストの長谷川について「彼でなければならない必然性」を語る人がいない。疑義を呈する人も見当たらない。異例とも言える328人ものキャストのトップに立つとなれば、それが誰であろうと「あいつで良かったのか」との議論が巻き起こるはずなのだが、そういう声が聞こえてこない。昨年、『釣りバカ日誌』のハマちゃんが西田敏行から濱田岳に切り替わると聞いた時の、「あぁもう彼しかいないよ!」というような積極的な声もさほど聞こえてこない。
若干の「We Are The World」感
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