第166回 水面に映る星の影(後編)

「これで、正五角形が出来たことになるんでしょうか。でも、まだ描けてないですよね?」とテトラちゃんは首を傾げて……「広がる複素数」第3章前編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\ABS}[1]{\bigl|\,#1\,\bigr|} \newcommand{\BAR}[1]{\overline{#1}} $

図書室にて

テトラちゃんは、正$5$角形をめぐる数学トークを続けている。

第165回の続き)

テトラ「あ、これ、$2$次方程式になってます! ここ、同じですから!」

$$ \underline{(z + \BAR{z})}^2 + \underline{(z + \BAR{z})} - 1 = 0 $$

「そうだね。できた、できた! これで解けるよ。$y = z + \BAR{z}$と置いてみよう」

$$ \begin{align*} (z + \BAR{z})^2 + (z + \BAR{z}) - 1 &= 0 \\ y^2 + y - 1 &= 0 && \text{$y = z + \BAR{z}$と置いた} \\ \end{align*} $$

テトラ「$y$の$2$次方程式ですね。解くと……$$ y = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2} $$ になります! 先輩、$\sqrt{5}$が出てきましたようっ!」

「出てきたね! あれ……プラスマイナス?」

テトラ「プラスマイナスでいいんですよね? $y^2 + y - 1 = 0$は、$2$次方程式の解の公式を使うと、$2$個の解が出てきて…… $$ \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} \qquad\text{と}\qquad \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} $$ ……になりますから」

「うん、もちろんそれは正しいんだけど、なぜ$2$個になったのかな、と思ったんだよ。 だって、もともと解こうと思ったのは$4$次方程式だから$4$個の解……あ、違うね、勘違い勘違い。 僕たちが解いたのは$y$についてだった。 $z + \BAR{z}$を$y$と置いたんだから、まだ話は続く」

テトラ「ここまででわかったことは、$$ z + \BAR{z} = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2} $$ でいいんですよね?」

「……」

テトラ「ち、違いました?」

「……いやいや、大丈夫。テトラちゃんの理解は正しいよ。いま僕が考えていたのは、この$2$個の解はなんだろうってこと。 つまりこの正$5$角形のどこに出てくるんだろうってね」

テトラ「はあ……」

「うん、こうかな。$z$は正$5$角形の一つの点……を表す複素数だよね。そして$\BAR{z}$はその複素共役になる。 つまり、$z$と$\BAR{z}$は水面に……」

テトラ「あ、はい。《水面に映る星の影》です。$z$が星で、$\BAR{z}$がその影」

「たとえば、正$5$角形の$5$個の複素数にこんなふうに名前を付けるとする。$\zeta_0$(ゼータ$0$)から$\zeta_4$(ゼータ$4$)まで。 そうすると、$\zeta_1$の複素共役は$\zeta_4$にあたるわけだよね」

テトラ「$\zeta_1$の真下、対称の位置に$\zeta_4$がありますからそうですね」

「うん。そうすると、$\BAR{\zeta_1} = \zeta_4$になっている。$\zeta_1 + \BAR{\zeta_1}$は$\zeta_1 + \zeta_4$で、 この和は実数になる。それがさっきの方程式$y^2 + y - 1 = 0$の解の一つになるんだ」

テトラ「どうして……共役複素数の和が実数になるっていえるんでしたでしょうか」

「だって$a+bi$と$a-bi$を加えたら、ちょうど虚部の$bi$と$-bi$が打ち消し合うからね」

テトラ「あっ、あたりまえでした。すみません。……ということはですよ。さっきの解のうち、 $$ \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} \qquad\text{と}\qquad \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} $$ のどちらかが、$\zeta_1 + \BAR{\zeta_1}$つまり$\zeta_1 + \zeta_4$になっているということですか」

「そうだね。そして、別の方が、$\zeta_2 + \BAR{\zeta_2}$つまり$\zeta_2 + \zeta_3$になってることになる。 そうかそうか。正$5$角形で$1$を除く頂点は$4$個。 その$4$個の点は$4$個の複素数になっている。 そして、それらは複素共役な$2$組のペアになっている。 その$2$組のペアと、$y^2 + y - 1 = 0$の$2$解が対応していたんだ!」

複素共役な$2$組の複素数

テトラ「共役複素数は、《仲良しペア》ですね!」

「ああ、すっきりした。でも、気がつけばあたりまえだね。だってもともとの$4$次方程式の次数を下げたときに使ったのは、 $z + \BAR{z}$で、あきらかに$2$組のペアをまとめて考えようとしていたわけだから」

テトラ「ちょ、ちょっとお待ちください。部分部分は理解したと思うんですが、大きな流れがわからなくなってしまいました。 整理しますっ!」

  • あたしたちは、複素平面上に正$5$角形を描こうと思っています。
  • 一つの頂点が$1$にあって、単位円に内接する正$5$角形を考えています(ちょっと傾いてます)。
  • 三角関数を使えば残りの頂点はすぐにわかるのですが、それだけではつまらないので、ルートを使って表したいと思いました(おもにテトラがそう思ってます)。
  • 単位円の円周上にありますので、$5$個の複素数の絶対値はすべて$1$に等しくなります。
  • なので、$z^5 = 1$という方程式の$5$個の解が頂点になります。
  • ええと、それから……

「$z - 1$で因数分解、だね」

テトラ「そうでした、そうでした」

  • $z^5 = 1$という方程式は、$z^5 - 1 = 0$と書くことができます。
  • $1$が頂点になっていますので、$z = 1$は解のひとつです。
  • なので、$z^5 - 1$を$z - 1$で因数分解することができるはずです。
  • $(z - 1)(z^4 + z^3 + z^2 + z + 1) = 0$となりました。
  • $4$個の頂点は$z^4 + z^3 + z^2 + z + 1 = 0$の$4$個の解です。
  • そして、ええと……

「$z$と複素共役な$\BAR{z}$との積を使って……」

テトラ「$z\BAR{z} = 1$ですね!」

  • $z\BAR{z} = 1$が成り立ちます(複素共役である《仲良しペア》は、いっしょにすると良いことがあるんですね)。
  • これを使って$z^4 + z^3 + z^2 + z + 1 = 0$は、$(z + \BAR{z})^2 + (z + \BAR{z}) - 1 = 0$と変形できます。
  • そしてこれを解いて……

テトラ「これを解いて、$$ z + \BAR{z} = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2} $$ が得られたところ、ですね」

「うん、複素共役なペアが$2$組あって、$z + \BAR{z}$の値が$2$個ある。じゃ、どっちがどっちだろうか?」

問題
$2$組のペア、 $$ \zeta_1 + \zeta_4 \qquad\text{と}\qquad \zeta_2 + \zeta_3 $$ がある。
$2$個の数 $$ \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} \qquad \text{と}\qquad \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} $$ がある。
どっちがどっちだろうか。

テトラ「可能性は$2$通りありますね……」

「これはすぐにわかるよ」

テトラ「そうなんですか?」

「うん。だって、よく見てみれば、$$ \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} < 0 $$ であることがわかるよね。分子が負だから」

テトラ「あっと、そうですね。ということは、和が負になるペアということで、こうなります」

$$ \zeta_2 + \zeta_3 = \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} $$

「そうだね。そして、$$ \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} > 0 $$ であることもわかる」

テトラ「はいはい、わかります。$\sqrt{5}$は《富士山麓オーム鳴く》で$2.2360679\cdots$ですから$1$より大きいです。 なので、$-1 + \sqrt{5} > 0$ということですね」

「うん、そう。ということで、$$ \zeta_1 + \zeta_4 = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} $$ だとわかった」

解答
複素数のペアと数の対応は、 $$ \left\{\begin{array}{llll} \zeta_1 + \zeta_4 &= \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} \\ \zeta_2 + \zeta_3 &= \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2} \\ \end{array}\right. $$ となる。

テトラ「何だかおもしろいですね。図形を考えていたら、方程式の話になって、方程式を考えていたら、複素数の話になって、 複素数を考えていたら、ルートの計算で数の大小の話になって……」

「え、でも、そういうのは普通じゃない? だって、方程式を解くときに、数の計算をしたり、式の変形をしたり、グラフを描いたり、何でもするものだから」

テトラ「そうなんですが……そうですよね。どんな武器でも使っていいんですよね」

「何でも使えるところが、数学のおもしろいところなんだし」

テトラ「ですねっ!」

「さっきの$\zeta_1 + \zeta_4$と$\zeta_2 + \zeta_3$は両方ともベクトルの和として考えることもできるね。こんなふうに」

ベクトルの和として$\zeta_1 + \zeta_4$と$\zeta_2 + \zeta_3$を考える

テトラ「ベクトルまで……」

「ここまでで、$$ \zeta_1 + \zeta_4 = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} $$ がわかった。$\BAR{\zeta_1} = \zeta_4$だから、 $$ \zeta_1 + \BAR{\zeta_1} = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2} $$ と書いてもいい。ここから$\zeta_1$を求めることになる。さて?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

chibio6 √5が描ければ、各共益複素数の和を作図し、そこから半径の大きさを利用して各頂点を描けそうだ。 3年以上前 replyretweetfavorite

syatchzektyach この話めっちゃ好き 3年以上前 replyretweetfavorite

siro_ni 去年の教採で正五角形の作図でたなぁ...... 3年以上前 replyretweetfavorite

aramisakihime 『数学ガール/ガロア理論』を読むと、一層理解が深まりますね。 3年以上前 replyretweetfavorite