無理やり笑い等を足して面白かったように見せる演出や、最初から着地点を決めて撮っていくやり方って、よくあるとは思うんですが、僕は自分が「あまり面白くない」と感じたモノを「面白かった」と言うことにはちょっと抵抗があります。
自分としても気持ちが悪いし、対視聴者的にも誠実じゃない気がしちゃう。そもそも今の視聴者は、そういう演出にはちょっとウンザリしていると思います。
いくら事前のシミュレーションを重ねても、結果が狙った面白さにハマらないことはあるし、ダメならダメなりの見せ方を考えた方が建設的じゃないかと。
例えば、『水曜日のダウンタウン』での「ストッキング被って水に落ちるやつ、誰がやっても面白い説」のVTRでは、ストッキングを顔に被って、ウォータースライダーをすべり降りる検証を行いました。
アンガールズ田中さんら〝見える〞芸人さんたちのチャレンジがあった後、「イケメン俳優でも面白くなれば、ストッキングで水落ちの面白さが実証されるはず......」と、俳優の中村昌也さんが挑戦。「息が苦しくなってストッキングを破る」というのが、基本の展開なのですが、 中村さんは大袈裟にやりすぎてしまいました。
ディレクターが撮ってきた映像を見た第一印象は「やってんなー」です。
これを「面白い」と扱うのには抵抗がありました。ただ、これを普通に「面白くない」と言 ったら、それではただの悪口です。バラエティ番組で「面白くない」と言う場合、それを〝面白く〞面白くないと言わなきゃいけません。
そこで、考えた結果、リプレイのシーンに以下のナレーションをつけました。
「慣れないバラエティのロケで不安だったのか、完全にやりにいってしまった。自慢の長い足をわざと大きく開き、スタッフの反応が悪いと感じたのか、プールに顔を理由なき二度づけ。 息苦しさを大袈裟にアピールするとんだ〝串カツ野郎〞にスタッフはすっかり醒めきってしまう結果となった」と。
もちろん、笑い声を足すことやプラス方向のナレーション、その他の演出で、この映像が面白かったように見せることもできました。事実、スタジオはこのナレーションが入るまで「まあまあいいんじゃない」という反応。ただ、僕の感覚では面白くなかった。というか「やりにいってる」のがとにかく気になった......ので、そのことをちゃんと伝えることが視聴者に対し ても誠実だと思いました。
「8」の面白さの出来事を「 10」に見せるために味つけをするのはいいと思います。
ただ「5」の面白さを「10」に力技で増やすのは無理があります。どうしても底上げのアラが見えちゃう。だったら「5」をあえて「1」に下げて見せる方がパターンとして新しいんじゃない かと。そして、「やりにいってる」というひとつ進んだ目線をつけることで、より面白く見られるんじゃないかと思いました。
結果、VTRを見たスタジオのダウンタウンさんは「これ悪意あるな〜」「このナレーショ ンあかんやろ!」と、言いながらも笑ってくれました。このVTRに関しては「面白かった」 という方向に手を加えるよりも、「やりにいった」の編集で、素材をより面白く仕上げることができたと思います。
また、『クイズ☆タレント名鑑』でも以前こんなことがありました。
過去の自分の記録に挑戦してもらう「スター☆今の限界名鑑」というコーナーで、ドーピン グで金メダルを剥奪されたハンマー投げのアヌシュ選手を、わざわざハンガリーから来日させて、現在の限界に挑戦してもらいましたが、全くやる気を出さず「医者に止められてる」という謎の言い訳をして、まともにハンマーを投げることすらしませんでした。
お蔵になっても仕方ないくらいのヒドいロケでしたが、予算的にもオンエアの尺的にもゼロ にするのは厳しい状況だったので、「こうやって日本人は外国人に騙されるんだ……」と嫌味たっぷりのナレーションで、「番組が騙されてヒドい目にあった」というVTRに途中から急ハンドル。肉を美味そうに食っている映像を差し込んだり、当時のドーピング方法を克明に説明するおまけもつけて、めちゃくちゃ悪い奴に描きました。
そして、VTRの最後でギャラが100万円だったことをバラし、ラテ欄には「くそハンマー男」と書きました。
また、最近では「鬼の角、1本と2本だったら2本が主流説」という説を『水曜日のダウン タウン』で検証しましたが、角の本数と鬼の色の関連性や、本数の理由などを調べていっても、なかなかこれといった結論にたどり着きません。そこで、なんとか展開を考え、「鬼は何本角まで存在するのか?」を最終的に見ていく構成にしました。そして、オチは「最多の6本角の鬼を発見するも、その像が盗まれていた」に決めました。
が、それも盗まれた鬼側に取材NGを食らってしまい、ついに八方塞がり。
結果、途中からVTRを突然早送りにして「これといった理由や結論が見つからなかったので後半は駆け足でお送りしました」と、強引に落とす方法を選択しました。
何度も使えない苦肉の策ではありましたが、普通に検証が行われて、そこそこの結果が出るよりはインパクトのあるオンエアになったと思います。
ここまで紹介したのは、結果的にピンチがチャンスに変わった例ですが、いずれも、もちろん最初からそうするつもりなんて毛頭なく、ストッキングの件だって、串カツ野郎になんてならずに面白くなることを望んでいたし、くそハンマー男にもいい記録を出してほしかったし、 鬼の検証も「へぇ〜」と思わず言っちゃうような結論がほしかったのは事実です。