棋士とメシ

うなぎ屋と将棋屋

うなぎと将棋。一見関係ないように思われて、実は大いに関係あり、というお話です。



(現代振り飛車党のカリスマ、藤井猛九段)

 うなぎ屋は、将棋指しである。将棋屋は、うなぎ屋だ。

 ちょっと何を言ってるのか、わからない? ですよね。

「ああ、そうだよね」

 とうなずいてくださる方は、よほどの棋界通であろう。

 将棋界で「うなぎ屋」といえば、藤井猛九段の通称である。

 藤井は、竜王位3連覇の実績を残す、現代振り飛車の第一人者であり、職人肌の研究家だ。特に、四間飛車の使い手として有名であり、左美濃や穴熊を序中盤の段階で圧倒する、精緻な序中盤の定跡体系を確立し、その研究成果は「藤井システム」と称された。

 一方で、羽生善治三冠をはじめ、トップ棋士は居飛車党が多いが、振り飛車を指しても、これがまた上手い。

 かつて藤井は、こう語っていた。

「最近は居飛車党でも四間飛車を指す人がふえましたが、戦法の好き嫌いがないっていうのがまた、僕には不思議なんです。しかも、にわか四間飛車党が結構いい味出すんですよ(笑)。でも、こっちは鰻しか出さない鰻屋だからね。ファミレスの鰻に負けるわけにはいかない」 (『将棋世界』2004年5月号)

 振り飛車の職人としての矜持を語ったものとして、この発言はファンに大いに受けた。そして、藤井は「うなぎ屋」と呼ばれるようになった。

 ちなみに藤井を応援する、藤井公認の応援サイトの名称は、「鰻屋本舗」である。
http://fujii-system.com/

 一方で、兵庫県加古川市には、「将棋屋」という名の、老舗のうなぎ店が存在する。
http://www.shougiya.com/

 店の名は、明治の昔、初代の貴多文太郎が決めたという。貴多は将棋が強く、13世名人の関根金次郎から、六段の免状をもらっていたことに由来している。

 2011年、加古川の名刹、鶴林寺において、王将戦七番勝負第6局がおこなわれた。地元出身の久保利明王将に、新鋭の豊島将之六段が挑むというシリーズだった(肩書はいずれも当時)。


(久保王将-豊島挑戦者)

 王将戦の対局の前日、筆者は早めに現地に赴いて、将棋屋に立ち寄ってみた。

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松本博文

あの大一番を支えた食は何だったのか―― 現在における将棋対局のネット中継の基礎をつくり、食事の中継の提案も行った松本博文氏がつづる、勝負師メシのエピソード。

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コメント

dong_po_rou >は、うなぎ屋だ。 しかり。 1年以上前 replyretweetfavorite

twinforest 鰻やといえば藤井九段。それはともかく将棋指しは鰻を食べてるイメージあるし実際よく食べている。この伝統はどこから来たのだろう? 3年以上前 replyretweetfavorite

kenteki トップの画像、本当にかっこいい……とうっとりしてたら鰻屋本舗出てきてびっくり!あと関根金次郎十三世名人のエピソードには初めて触れたかも。棋道半世紀、読んでみたい…… 3年以上前 replyretweetfavorite