ユウカが元カレの隆二の後をつけて登戸(のぼりと)までやってくると、隆二は女と待ち合わせをして団地の一室に消えていった。
目の前の表札には「AKATSUKI REIKO」という文字があった。その文字に付け足すように小さく「YOUKO」とある。どうやら、本来は親子2人暮らしの家のようだ。
隆二と女と子どもの3人が一緒に帰っている最中、ユウカは女の身なりをチェックしていた。ラフなボタンダウンのシャツにジーンズ。足元はたしか白スニーカー。メイクもさほどしてなかった。子どもの母親であることはたしかだろうけど、専業主婦にはみえない。おそらく時短か在宅でできる仕事をしている雰囲気があった。
“女”というだけで、ユウカの胸には何万匹ものアリが徘徊してるくらいムズムズとしていた。
名前はたしかに知っていた。隆二の知り合いであることには間違いない。
でもそれ以上のことが、どうにも思い出せない。
隆二との関係は? まさか……恋人?
もう一度、先ほどの光景を頭から引っ張り出す。
大きな口を開けて笑う飾りっ気のない女。人徳がありそうだ。ただ、あういう女は絶対に隆二のタイプじゃない。
隆二はおしゃれに気を使う女子が好きだった。定期的にネイルサロンに通うユウカの手をいつも褒めてくれた。隆二は美意識の高い女が好きなのだ。
隆二のタイプをユウカは熟知している。
ユウカと隆二が付き合ったきっかけは、隆二からの情熱的なアプローチだ。当時、ユウカは他に好きな男がいた。隆二はユーモアがあってイケメンだったけど、ユウカはあまり興味がなかった。というか、好きな男がいる時点で他の男は“その他のただの男”にすぎなかった。隆二はそのことを知っていたけど、会うたびにユウカに告白をした。もともと、押しに弱いユウカは、好きな男が別の女と結婚したと聞き、隆二の告白を受け入れた。
隆二と付き合うことを決めたユウカだったが妥協で選んだわけじゃなかった。付き合いだすとユウカは一気に隆二への気持ちが倍増した。“彼氏”というカテゴリーに入った男に尽くすのは、ユウカとしては本能だった。
私を選んでくれた男をがっかりさせるようなことは絶対にしたくない。" 恋人”になってからがユウカの本領発揮なのだ。プロ彼女という言葉が話題になったことがあったが、ユウカは自分こそがプロ彼女だと自負していた。
隆二が付き合う前に話していた好みの女性像をちゃんとユウカは守っていた。髪色は少し明るめの茶色。緩やかに巻かれたセミロング。横分けで前髪はちょっぴり長め。一番好きなスタイルは、女の子らしいワンピース。
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