1954年公開の第1作『ゴジラ』から数えて62年。日本国内で28作、海外で2作が撮られた怪獣映画シリーズが、『シン・ゴジラ』の名称で新たに発表された。総監督・脚本は、1995年から始まったアニメ作品『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる庵野秀明。監督・特技監督を担当するのは、人気怪獣映画「平成ガメラ三部作」*1で特撮ファンに強く支持される樋口真嗣である。
ゴジラシリーズは、時代の変遷とともに、ゴジラを正義の味方、人間の仲間として描く傾向があった。今回の『シン・ゴジラ』では第1作の原点へと立ち返り、東京を蹂躙する禍々しい厄災、人間の敵としてのゴジラが強調されている。また注目すべきは、突如として現れた巨大不明生物に翻弄されながら、国家の危機に立ち向かう政府、自衛隊などの働きがすばやいテンポで描かれる斬新なアイデアだ。ゴジラシリーズほんらいの魅力の再発見につながる、骨太な作品に仕上がったといえる。東京湾内羽田沖で大量の水蒸気が噴出する事態が発生。当初は、局地的な地震、もしくは海底火山の噴火と想定されていたが、実際には巨大な尻尾を持つ生物であることが判明した。やがて巨大不明生物は東京都内へと移動していった。
庵野秀明はこれまで繰り返し、「プライドを持ったフィルム」という表現を使ってきた。2015年4月1日『シン・ゴジラ』製作発表時には、「映画としてのプライドを持ち、少しでも面白い映像作品となるように」とコメントを残している*2。彼が『新世紀エヴァンゲリオン』発表後のインタビューで答えているのも同じ内容だ。では、庵野にとってプライドとは具体的に何だろうか。彼は「プライドを持ったフィルム」を以下のように説明している。
「アニメの業界内では、僕は正直有名な方だと思うんですよ。でもですね、これが一歩、普通の飲み屋にいって、カウンターの隣に座った女の子に、自分の職業の説明ができないんですよ。恥ずかしくて。(中略)そういう時には、ごまかして会社員とか言ってるんですよ。そこで僕の感性はアニメーションというものにプライドを持っていないんだな、と」
「全然知らない人に、『こんなアニメーションがあってね、口ではうまく説明できないんだけど、とにかく見てよ』といって、その人が見た時に、『何、あれ?』という風なものにしたくない」*3
つまり庵野にとってのプライドとは、アニメや特撮といったジャンルの内側での安住をよしとしない、「飲み屋で隣に座った女の子」に届く風通しのよさと一般性である。より広い範囲へ向けて、胸を張って作品を送り出すこと。私が庵野に惹かれるのは、こうした意識の持ち方にある。90年代後半に『新世紀エヴァンゲリオン』が巻き起こした社会現象は説明するに及ばないだろう。2007年から開始された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(現在、3作が公開)も大ヒットしている。『シン・ゴジラ』も公開週の興行成績1位を獲得し、興収40億円を視野に入れる好調ぶりだ*4。庵野のプライドが込められた作品は、社会を揺り動かすポテンシャルを持つ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。