牧村朝子
あなたは記号じゃない~障害者施設殺傷事件、被害者の実名報道の是非をめぐって
7月26日、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に元職員の植松聖容疑者が刃物を持って侵入し入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせるという事件が起こりました。この事件は戦後最大の大量殺人となりあらゆる方面から多くの議論を呼んでいます。牧村さんの地元でもある相模原で起こったこの事件に、牧村さんはどう向き合っているのでしょうか。
あの子の名前を知らないままだと、今でも時折考える。
その時私は5歳くらいで、地元のデパート・イトーヨーカドーの屋上で遊んでいた。あまり光景が思い出せない。ただ覚えているのは、強い恐怖と、あの子の歌だ。
“まくら たべたい カルシウムになるよ”
3拍子の歌を歌い身を揺らしながら、私よりもだいぶ大きなあの子は私に近づいてきた。意味不明だった。顔は私に向いているのに、黒目は天井を向いていた。体が震えた。私は混乱し、火がついたように泣いて逃げ出した。
その後の記憶が私にはない。大人になってから聞いたのだが、私が逃げたあと、私の親はあの子の親に平謝りしたらしい。あの子は、私の入った小学校にいた。すでに高学年だったあの子を怖がったり、じろじろ見たりする一年生たちに、先生はこう言った。
「障害のあるお友だちとも、仲良くしましょうね」
そんな私の地元・神奈川で、事件は起きた。
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この連載について
牧村朝子
性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む
著者プロフィール
タレント、文筆家。2010年、ミス日本ファイナリスト選出を機に芸能界デビュー。2012年渡仏、フランスやアメリカでの取材を重ねる。2017年独立、現在は日本を拠点とし、執筆・メディア出演・講演を続けている。夢は「幸せそうな女の子カップルに"レズビアンって何?"って言われること」。出演『ハートネットTV』(NHK総合)ほか、著書『百合のリアル』(星海社新書/2017年、小学館より増補版刊行)『ハッピーエンドに殺されない』(青弓社/2017年)ほか。愛称は「まきむぅ」。