〝大人〟なんて想像の産物だ

18年と8ヶ月一緒に働いた、唯一の同期である関口が会社を辞める。2016年、東京という街を生き延びた42歳のオッサンであるところの、ボクと関口。雨が降りしきる早朝の中目黒、煙草臭いワゴン車の中で、二人は話し始めた。ラジオから流れる音楽とともに、ひとつの〝から騒ぎ〟がまた幕を下ろそうとしていた――フォロワー7万5千人のツイッターアカウント『燃え殻』@Pirate_Radio_さんの史上最大級のつぶやき、『ボクたちはみんな大人になれなかった』第二部です。

「俺が夢の話したら、七瀬すげぇ嫌がってたなぁ」
 関口が窓の外の立ち食いそば屋を見ながら吐き捨てるようにいった。
「おまえの夢の話は、誰でも嫌がるけどな」ボクは呆れながら応える。

「その時にアイツが言ったんだよ」
「なんて」
「あの朝よ。おまえが奥の座敷で寝てた朝」
 関口がシートであぐらをかいたままこちらを向いて言う。
「わたしはもうイヤだな、夢を持つのも語るのも、って」
「またさびしいことを」ボクもクツを脱いであぐらをかいた。
「もうがっかりしたくない。人生の本当に大切な選択の時、自由なんてないんだから、って」

 ワイパーは文句のひとつも言わずに働きつづけていた。その甲斐もなく雨がフロントガラスを濡らしつづける。

 関口がアシスタントの肩をたたいて、外の自動販売機を指差さした。
「あ、何飲みます?」アシスタントが尋ねてきた。関口はブラックの缶コーヒーを2つ頼んで千円札を渡す。
 運転席のドアが開いた途端、外から横殴りの雨が吹き込んだ。水しぶきがボクの顔を濡らし、思わず顔をしかめる。

「す、すみません」
「大丈夫、閉めて閉めて」ボクがそういうとアシスタントは、あせって勢いよくドアを閉めた。ラジオは大雨による交通の乱れを説明していた。

「ハンカチ使う?」
「なんで、お前がハンカチなんてもってんだよ」少し笑いながら関口からハンカチを受け取る。
「柔軟剤。いい匂いだろ?」
「だから、なんでだよ」

 雨粒でにじむ窓ガラス越しに見えた中目黒の景色が、生き物のように形を変えていく。

 BARレイニーの入口のガラス戸に雨が打ちつけられて、激しい音を鳴らしている。うつ伏せで左手を自分の体に敷いたまま寝てしまったので、しびれてしまって左半分の感覚がない。
 やかんのぐらぐらぐらという音がずっと聞こえていた。
 関口はカウンターであぐらをかきながらどうでもいい話を続けてる。七瀬はどんな話をしても声を出して笑いながら、相槌をうってそれに応えていた。

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ボクたちはみんな大人になれなかった

燃え殻

2016年まで生き延びた42歳のオッサンであるところの、ボク。1999年、ド底辺のお先真っ暗な二十代のガキであるところの、ボク。どっちもしょうもないけど、なんでだかあの頃が、最強に輝いて思える。夢もない、希望もない、ノーフューチャーな...もっと読む

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angelmikazuki |燃え殻 @Pirate_Radio_ |ボクたちはみんな大人になれなかった 雨粒でにじむ窓ガラス越しに見えた中目黒の景色が、生き物のように形を変えていく。 https://t.co/T5Rr95D2Mb 10ヶ月前 replyretweetfavorite

Kikki63662874 都会の片隅で繰り広げられる群像劇。目が離せない。 約1年前 replyretweetfavorite

amcd_grfk 誰かの「その後」とオフの姿は自分の見てた残像と重なるとは限らないし、ずいぶん前に亡くなった幼なじみを何故か思いだした。 約1年前 replyretweetfavorite

natsuakin 「人生の本当に大切な選択の時、俺たちに自由はないんだってよ」~ 文章を読み進めていくに従い、映画のように画面が流れていく。 約1年前 replyretweetfavorite