キツネたちの生存戦略
ファンシー絵みやげとは、80年代に観光地にあふれていた商品のことです。
このようなファンシーなイラストが描かれた商品を、みなさんも観光地で見たり買ったりしたことがあるのではないでしょうか。これらの商品は、なぜ長い間土産店を賑わし続けることができたのでしょうか。そこには柔軟な適応力で進化を続け、時代の波を乗りこなしてきた「土産物たちの生存戦略」が隠されています。
連載の第1回、第2回ではファンシー絵みやげ全体の興廃について見てきましたが、今回からは個々の商品やキャラクターにスポットを当てて、どのように激しい時代の変化を生き抜いてきたのかを見ていきたいと思います。
ファンシー絵みやげは、北海道のキタキツネから始まりました。その後キツネのキャラクターは全国に飛び火し、キャラクターの数が最も多い存在になりました。「これ覚えてる!」と言われる確率もキツネが群を抜いて多く、まさにファンシー絵みやげの象徴です。キツネの変化を見れば、ファンシー絵みやげがいかに土産店の主役にまで登りつめたのかがわかるのでます。
「North Fox in HOKKAIDO」開拓の時代
第1回で書きましたように、ファンシー絵みやげの始まりは北海道の「North Fox in HOKKAIDO」と描かれたキタキツネキャラクター、通称「泣きギツネ」であると考えられますが、「North Fox in HOKKAIDO」と書かれたキタキツネキャラクターは、他にもいくつか存在します。
札幌の会社が作ったキャラクター。よく見ると舌を出している。
札幌には道内唯一の国営公園である滝野すずらん丘陵公園があり、スズランと一緒に描かれていることが多い。
代表的なキャラクターである、こちらの「泣きギツネ」には、ファンシー絵みやげの特徴である目と離れた眉毛もありませんし、目が点目でなく吊り目です。さらに頬の紅潮表現もありません。しかし頭を大きく描き額が広い表現と、キタキツネを可愛く描く手段の発明ともいえる「ヒゲを描かない」というデフォルメは、その後に受け継がれています。
ファンシー絵みやげで、顔を表現する場合の特徴は次の通り。
大きい頭、下の方にある目と上に離れた眉毛、点で描かれた目、頬の紅潮表現。
一方、同じく「North Fox in HOKKAIDO」と書かれたキャラクターには、ヒゲが描かれているのが特徴の「ひげギツネ」と呼んでいるものもあります。
長方形のキーチェーンのイラストは、この一例しか見たことがなく、一番原始的であるとも言えます。
顔は「ひげギツネ」ですが、体はリアルなキツネ。
実は「ひげギツネ」は前から見ているだけで、2頭身ではなく実際は体が長いのかもしれません。
「泣きギツネ」とどちらが先なのか不明ですが、こちらはヒゲや大きく黒い鼻、強調されすぎた吊り目など、おおよそファンシーとは言い難い要素を多分に含んでいるかわりに、目と離れた眉毛と頬の紅潮表現という、後にファンシー絵みやげの中で定番化する擬人化的手法が使われております。ただし、まだ眉毛の位置は中途半端で、広い額の真ん中にあります。便宜上こちらを「ひげギツネ」と呼んでいます。
「North Fox in HOKKAIDOのシリーズ」には、さらにもう一つのキャラクターがいます。頬に白い部分を描いているのが特徴なので、「ホオジロギツネ」と呼ぶことにしましょう。
あまり商品を見かけないため、不人気キャラクターだったのではないかと推測されます。
あしあとマークが流行っていたからか、足の裏の肉球を見せています。
こちらは他の二つと違って吊り目ではなく点目です。頭が大きく額は広く、眉毛の位置も「ひげギツネ」より下、目のすぐ上となっています。また、耳の先や尻尾の先を尖らせず丸く描くなど、シリーズ内で一番の進化系と思われます。
他にも「North Fox in HOKKAIDO」と書かれたキャラクターがいくつかあります。方向性はバラバラですが、ロゴの書体がまったく同じで、かつファンシーになり切れていないという共通点を持っています。
すべてこの一例しか見たこのないイラストたち。
上のワッペンのイラストは、試しに一つ商品を作ってみて、そのまま消えていったのではないでしょうか。
左下の横向きで走るキツネは、前足で木の枝を握り二足走行するという、完全に人間の走り方になっています。
眉毛の位置は一番高い位置にあり、一番の進化系と言えます。
右下のムーンライトフォックスは、キツネのシルエットのみという実験的な商品です。