横浜1963

Off Limitsというわけか

ついに、レストラン「バージル・ケイン」で事件の手がかりをつかんだソニー。
赤沢美香子と中年の将校がよくこの店に来ていたという情報を手に入れる。
ソニーの気持ちは高ぶっていた。

「やはりそうだったか」
「米軍関係者どころか、現役の軍人とはな」
 報告を聞いた大村が渋い顔をすると、警備部長が天を仰いだ。
 その拍子に椅子が軋む。警備部長の体重では、部長に割り当てられている立派な肘当て付きの椅子でも、一年と持ちそうにない。
「その相手が犯人とは限りません。ただ赤沢さんには会社の同僚も知らない人間関係があり、その一端が摑めたということです」
 ソニーが断りを入れる。あえてクリスチャンという件は、言わないでおいた。そちらのルートは、まだ洗っていないからである。
「つまり、英語を習いたいという日本人女性の相手をする米軍関係者がいる、ということだな」
 大村が確認する。
「おそらく、そういうことでしょう。赤沢さんは海外に雄飛したかった。しかし浜中食品にいては、そのチャンスが摑めない。そのために英語力をさらに付けて、米国にでも行くつもりだったのかもしれません」
「で、どうするつもりだ」
 警備部長が、汗で汚れた眼鏡を拭きつつ問う。
「明日、開店前にバージル・ケインを訪れ、その軍人が誰かを探ります」
「何と言って探るのだ」
「最近、赤沢さんと連絡が取れなくなっているので、その軍人から、つないでもらうとでも言います」
「それで大丈夫か」
「ほかに代案がありますか」
 二人は顔を見合わせると、首を左右に振った。
「それでは失礼します」
「ソニー、くれぐれも気をつけてくれよ」
 大村の言葉が追ってきた。そこにはソニーの身を案じるというよりも、米軍との間に波風を立ててほしくないという思いが込められていた。
「分かっています」
 そう言うと、ソニーは警備部長の部屋を後にした。

 開店一時間前の午後五時、バージル・ケインを訪問すると、夫人が驚いた顔で迎えに出てきた。
「何か忘れ物でも」
「いいえ、実は──」
 ソニーは考えてきた再訪の理由を話した。
「そうなの。でも、私は知らないわ。少しここで待っていて下さい」
 夫人がテーブルの一つを指し示したので、ソニーはそこに座った。
 ──いよいよ主人の登場だな。
 覚悟を決めて待っていると、身長百九十センチメートル余の白人が、のっそりとやってきた。
「いらっしゃい。俺がオーナーのケビン・クレイトンだ」

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