池上彰の選挙特番は「ローカル路線バス旅」&「アド街」
速水健朗(以下、速水) 今回のテーマは参議院選挙だけど、その報道について。というか、選挙特番の振り返りをしておきたい。
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 各局が日頃起用しているキャスターや専門家を率いた総力戦シフトで取り組んでいました。視聴率では、テレビ東京『池上彰の参院選ライブ』が3年連続となる民放トップです。
速水 でもそろそろ池上彰すごいではなく、それがもたらす弊害みたいな話にシフトするべきだろうね。
おぐら 「選挙特番といえば池上彰」のイメージも強いですが、実態としてはNHKの開票速報のほうが視聴率でもずっと上回ってるんですよね。ツイッターの実況やネットニュースだけを見ていると、池上彰の話題ばかりが取り上げられるので勘違いしがちですけど、保守的な一般家庭は普通にNHKを見ている。なんだかんだ自民党が勝ち続ける構図と同じだなって。
速水 でもね、それだけ影響力は強い。特に、ほぼすべてのメディアが「池上彰コンプレックス」に陥っているのはやばいでしょ。相手がいやがる質問を政治家にぶつけるのが池上流なわけだけど、それを各局の選挙特番のキャスターが真似しようとしていたよね。でもその「意地悪な質問」のほとんどは「こんなこと聞いちゃう俺」にしか見えないという。
おぐら いまや池上さんが厳しい質問をしてくることは、候補者たちにも周知されているので、さすがにみんな事前に対策を立てている様子でした。
速水 「対池上シフト」。その典型が蓮舫。余計なことをしゃべらないぞって。政治家側が池上の誘導には絶対に乗らないぞっていうゲームになりつつある。
おぐら 今回の参院選では、民放各局「自民党が議席の3分の2をとるのか?」っていうところばかりを話題にしていて、それが重要なのもわかるけど、結果同じような話を延々と繰り返してる。だけど池上特番は、候補者や党ごとの支持母体の解説みたいなところから政治の話につなげていきます。
速水 そこね。各局が勘違いしているのは、池上選挙特番を政治報道番組だと捉えてしまっていることなんだよ。その認識で真似しようとするから大失敗してる。でも実は、池上選挙特番は、手法としては、完全にテレ東的なバラエティーなの。
おぐら そうか、「池上彰と行く 参院選バスツアー」は、まさにテレ東イズムが集約されたような企画でした。
速水 なぜかバスっていう。
おぐら わざわざバスにタレントや新人女性アナウンサーを乗せて「さあ、各党の支持母体をバスで観に行きましょう!」ってなってました。
速水 別にわざわざバスで行く必要ないから!
おぐら しかも、スタジオには峰竜太がいますしね。
速水 そこはアド街ね。「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」&「アド街ック天国」というテレ東を代表するバラエティのパロディとして選挙特番をやってるというのが、池上選挙特番として理解するとわかりやすい。
おぐら 確かに! 街のお土産屋さんとかに寄るノリで、創価学会の内部だったり、日本会議の偉い人がいる神社に行ったりしちゃってた。そういえば、バスツアーのVTRを流す時、スタジオの前振りで「今日は普段見ることができない映像をご覧いただきます」と言っていたけど、まさにそのとおりでした。
速水 日曜の朝にしか開催されない地元の朝市にお邪魔する感覚ね。そのノリで創価学会の本部に行って、まずは本部内のお土産屋の店員をいじる。その流れで、本部の広報に「ところで池田名誉会長はお元気ですか?」って聞いちゃう。あの感じは、ホンジャマカの石ちゃんのグルメレポートのテクニックの応用でしょう。
おぐら 内容はハードコアなのに、ノリはあくまでポップに。広い層へ向けた表現の理想形ですよ。
速水 そこだよね。フジテレビが報道のノリで創価学会に行って、「政教分離」を聞いたって、それは意味合いがまったく違う。全然わかってない。