第6回 「掛け捨て」年金の話

AIJ事件によって、初めて企業年金の運用実態を知った人も多いのでは? 年金基金だけでなく、あなたが資産を預けた「運用の専門家」たちが、知識や経験によらず、勘だけで運用先を決め、しかもその事実を誰も教えてくれないとしたら……。私たちは結局、自分自身の知識で判断し、資産を守るしかないのです。(『いきいき』2012年6月号より転載)

企業年金の仕組みと実態

企業年金の運営を委託されていたAIJ投資顧問が、2000億円の運用資金のほぼ全額を失っていたことが大きな社会問題になっています。いったいなぜこんなことが起きたのか? 今回は、資産運用に潜む罠について考えてみましょう。

企業年金(厚生年金)というのは、サラリーマンのための年金制度です。月給やボーナスから徴収された年金保険料は、会社や業界団体がつくる厚生年金基金に集められ、そこで運用されます。

といっても、年金基金が直接、株式や債券を売買するわけではありません。基金の仕事は運用方針を決め、投資会社を選定して、預かったお金を安全かつ確実に増やしていくことです。

今回の事件は、企業年金の仕組みがまったく機能していないことを白日の下にさらしました。AIJが提供する投資商品は一般に“ヘッジファンド”と呼ばれ、個人投資家に販売することは認められていません。これはヘッジファンドがハイリスクで、情報の開示も十分ではなく、専門知識のない個人にはふさわしくないと考えられているためです。


逆にいえば、年金基金がAIJに投資できたのは、彼らが機関投資家として高い専門性と責任感を持っているとされていたからです。

すでに報道されているように、損害を蒙った年金基金は社会保険庁などから多数の天下りを受け入れていました。彼らは年金制度の専門家かもしれませんが、資産運用についてはどうなのでしょうか。

ある基金の担当者は、新聞の取材に対し、「(AIJの社長と飲みにいったら)きさくで話題は豊富だったので、信頼した……」と答えています。厚労省の調査によると、総合型厚生年金基金の約8割に資産運用の経験のある専門家がいません。彼らは素人の集まりでしかなかったのです。

原発事故と同じ「専門家」の無責任

AIJ事件が教えてくれたのは、誰も他人のお金のことを真剣に考えたりしない、という現実です。年金基金に天下った社保庁のOBたちにとって、唯一の関心事は自分の任期を大過なく過ごし、満額の退職金を手にすることでした。それに比べれば、基金の加入者であるサラリーマンの老後などどうだっていい話です。

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