第161回 2乗の広がり(前編)

「同じことでも、違った表し方をすると新しい発見があるんだよ!」と「僕」は説明するけれど……新シーズン「広がる複素数」第1章前編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} $

僕の部屋

ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。おもしろいクイズないの?」

「もう飽きたのか、早いなあ」

ユーリのいとこ。 さっきまでの本棚で読み物を物色していたが、 もうあきらめたらしい。

ユーリ「だって、最近あたらしい本増えてないじゃん。もう全部読んじゃったよ」

「さすがに、そんなことはないだろ?」

ユーリ「読みたい本は全部読んじゃったってこと。残っているのは読みたくない本だから、意味ないのー!  ねー、おもしろいクイズない? ややこしー数式が出てこなくて、 でも単純じゃなくて、引っ掛け問題でもなくて、 わくわくするクイズ」

「ハードルいきなり上げるなよ。じゃ、こういうクイズは?」

クイズ
$2$乗すると$9$になる数は何か?

ユーリ「……ねー、お兄ちゃん。ユーリはちゃんと《単純じゃなくて》っていったよね!」

「単純すぎた?」

ユーリ「あったりまえじゃん。$2$乗すると$9$になるのって、$3$と$-3$でしょ?」

「そうだね。正解! よく$-3$を忘れなかったね!」

$$ \begin{align*} 3^2 &= 3 \times 3 = 9 \\ (-3)^2 &= (-3) \times (-3) = 9 \\ \end{align*} $$

ユーリ「あんまりホメられた感じがしない。簡単すぎるもん」

クイズの答え
$2$乗すると$9$になる数は、$3$と$-3$である。

「じゃ、もっと難しくしようか」

ユーリ「$2$乗して$16$になるのは$4$と$-4$だし、$2$乗して$25$になるのは$5$と$-5$だよ。 その系列はやめてね」

「話を先取りするなよ……それじゃ、こういうクイズは?」

クイズ
$2$乗しても変わらない数は何か?

ユーリ「簡単、簡単! $1$だね。$1^2 = 1$で変わらないから」

「ほんとう?」

ユーリ「む。その《先生トーク》はユーリがまちがっているってことだ!」

「探り入れるなよ」

ユーリ「わかった。$1$だけじゃないや、$0$もだ。$0^2 = 0$で変わらない」

「そうだね」

$$ \begin{align*} 0^2 &= 0 \times 0 = 0 && \text{$0$を$2$乗しても変わらない} \\ 1^2 &= 1 \times 1 = 1 && \text{$1$を$2$乗しても変わらない} \\ \end{align*} $$

ユーリ「ま、ちょっとしたまちがいは誰にでもあるもんだよ」

「それを自分で言うのか。ところで、$0$と$1$以外にあると思う?」

ユーリ「何が?」

「だから、$2$乗しても変わらない数だよ。確かに$0$は$2$乗しても値が$0$のままで変わらないし、 $1$は$2$乗しても値が$1$のままで変わらないよね」

ユーリ「うん、$2$乗してみればわかるじゃん」

「でも、$0$と$1$以外に、そういう数はないんだろうか。$2$乗しても値が変わらない数は、他にないんだろうか」

ユーリ「むむ……その《先生トーク》からすると、思いがけないところにそーゆー数があるんだね?」

「ねえ、ユーリ。そういう探りを入れるのはやめようよ」

ユーリ「へーい……でも、$0$と$1$の他にはもうないと思うけど」

「ユーリはどうしてそう思ったんだろう」

ユーリ「だって、なさそーだもん。あのね、マイナスの数って$2$乗したらプラスになっちゃうじゃん? さっきの、 $$ (-3)^2 = 9 $$ みたいに。ってことは、 マイナスの数は《$2$乗しても変わらない数》にはならない」

「なるほど。それはそうだね」

ユーリ「プラスの数だってそーだよ。たとえば、$2$乗したら、$3$は$9$になるじゃん?$$ 3^2 = 9 $$ 《$3$は$9$になる》ってことは、$2$乗したら自分より大きくなっちゃうから《$2$乗しても変わらない数》にはならない……あ、 小さくなることもある。$0.1$とか。 $$ 0.1^2 = 0.01 $$ 《$0.1$は$0.01$になる》んだから、小さくなる。 例外は$0$と$1$だけでしょ。$0$を掛けたら何でも$0$だから、$0$に$0$掛けても$0$のままだし、 $1$に$1$掛けても大きさ変わらないから$1$のまま」

「うん、ユーリは数の大きさに注目したんだね。

  • $x < 0$($0$より小さい場合)
  • $x = 0$($0$に等しい場合)
  • $0 < x < 1$($0$と$1$の間の場合)
  • $x = 1$($1$に等しい場合)
  • $x > 1$($1$より大きい場合)

の$5$通りに《場合分け》したことになる」

ユーリ「あー、そだね。そーなるね」

「こんな考え方もあるよ。クイズの内容を方程式にしてしまうんだ」

ユーリ「ほーてーしき」

「《$2$乗しても変わらない数》というのは《言葉》で表しているけれど、それを《数式》に置き換えて表してみよう。 $2$乗しても変わらないというのは、 その数を$x$と置いたとき、$x^2$と$x$とが等しいといえる。 だから、《$2$乗しても変わらない数》を$x$と置くと、 $$ x^2 = x $$ という$x$に関する方程式ができる」

ユーリ「ほほー。出たな数式マニア……ってほどじゃないか」

「ほどじゃないね。これで《言葉》から《数式》に移されたことになる。 あとは方程式を解いていけばいい」

$$ \begin{array}{ccrcl} & \quad & x^2 &=& x \\ \Leftrightarrow & & x^2 - x &=& 0 \\ \Leftrightarrow & & x(x - 1) &=& 0 \\ \Leftrightarrow & & x = 0 &\,\text{または}\,& x - 1 = 0 \\ \Leftrightarrow & & x = 0 &\,\text{または}\,& x = 1 \\ \end{array} $$

ユーリ「……」

「これで、$x^2 = x$を満たす$x$は$0$と$1$しかないことがわかった」

ユーリ「お兄ちゃん、いま式をサクサク書いたけど、この、$$ \Leftrightarrow $$ はいったい何?」

「え? 話したことなかったっけ。これは、 $$ P \Leftrightarrow Q $$ と書いたとき、左右の条件$P$と$Q$とが《同値》であることを表す記号だよ。 数学の式変形で使うときには、 数式を《同値変形》していくときにこういう書き方をすることがある」

ユーリ「どーち?」

「うん、まずね、矢印は$\Rightarrow, \Leftarrow, \Leftrightarrow$の三種類がある」

「$P$ならば$Q$」は「$P \Rightarrow Q$」と書く。
「$Q$ならば$P$」は「$P \Leftarrow Q$」と書く。
「$P$ならば$Q$で、しかも、$Q$ならば$P$」は「$P \Leftrightarrow Q$」と書く。

「この最後の場合、つまり$P \Leftrightarrow Q$が成り立つとき、条件$P$と条件$Q$は《同値》というんだ。 そして、$P$と$Q$が数式で書かれているとき、 $P$を表す数式を$Q$を表す数式に変形させることを《同値変形》 と呼ぶことがある」

ユーリ「うーん……お兄ちゃん、それってあたりまえのことを難しく言ってる?」

「あたりまえってことはないと思うけど」

ユーリ「だってね、$$ \begin{array}{ccrcl} &\qquad& x^2 &=& x \\ \Leftrightarrow & & x^2 - x &=& 0 \\ \end{array} $$ というのがあったとするじゃん? これって$x$を移項したってことでしょ?」

「そうだね、その通り」

ユーリ「それって、あたりまえじゃないの?」

「移項はあたりまえに見えるけれど、さっきの問題を考えるときには、同値かどうかを意識するのは大事なんだよ。 もともとの疑問はこうだったよね。

$0$と$1$は$2$乗しても変わらない。
では、
$2$乗しても変わらないのは$0$と$1$だけか?

ユーリ「そだね」

「いま言葉で表したことを$\Rightarrow$を使って整理するね。$$ \text{(A)}\qquad \text{《$x = 0$または$x = 1$》} \Rightarrow \text{《$x$は$2$乗しても変わらない》} $$ この$\text{(A)}$は成り立っていることはわかったけれど、 $$ \text{(B)}\qquad \text{《$x = 0$または$x = 1$》} \Leftarrow \text{《$x$は$2$乗しても変わらない》} $$ この$\text{(B)}$は成り立っているだろうか?」

ユーリ「ほほー。にゃるほど。$\text{(A)}$と$\text{(B)}$で、矢印の向きが《逆》になってる」

「そこだよ。まさにこれは《逆》というんだ。$\text{(A)}$の逆が$\text{(B)}$で、 $\text{(B)}$の逆が$\text{(A)}$だね。 《$2$乗しても変わらない数が$0$と$1$以外にあるだろうか》という問いは、 $\text{(B)}$を確かめる問題になるわけだ。 そこで、数式の同値変形が大事になる」

ユーリ「なんで?」

「$\text{(A)}$と$\text{(B)}$の両方が成り立つなら、$$ \text{(C)}\qquad \text{《$x = 0$または$x = 1$》} \Leftrightarrow \text{《$x$は$2$乗しても変わらない》} $$ ということだからね。 《$x$は$2$乗しても変わらない》ということを、$x^2 = x$という数式で表す。 そこから同値変形を続けていって、 《$x = 0$または$x = 1$》にまでたどりつけるかどうか……それが大事になるからだよ」

ユーリ「同値変形って意識したことないよー」

「え?! 数式の《移項》や《展開》や《因数分解》なんかは、ぜんぶ同値変形を作り出してるんだよ。 大事だから習ってるし、練習してる」

ユーリ「そっか。まーそれはいーとして、同値じゃない変形ってのもあるの?」

「もちろん、たとえば$x = y$の両辺を$2$乗するような式変形。これは同値変形にならない」

$$ x = y \qquad \Rightarrow \qquad x^2 = y^2 $$

ユーリ「?」

「《$x = y$が成り立つならば、$x^2 = y^2$が成り立つ》とはいえるよね。でも、《逆》はいえない」

ユーリ「そゆことか。$3^2 = (-3)^2$はいえても、$3 = -3$とはいえないから?」

「そういうこと!」

グラフで考える

「ところで、グラフで考えると《$2$乗しても変わらない数》は$0$と$1$しかないことがよくわかるよ」

ユーリ「グラフで考える?」

「うん。ほら、$y = x^2$のグラフが放物線になるって話は知ってるよね。こういうグラフ」

$y = x^2$のグラフ(放物線)

ユーリ「うん。わかる」

「この放物線の方程式は$y = x^2$だから、この放物線の上にある点は必ず$y = x^2$という式を満たしていることになるよね」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

gggooottto しんぷるにいきましょう! 2年以上前 replyretweetfavorite

aramisakihime 「2乗」から同値変形やグラフや数直線につながっていく様子が面白いです。後編はさらにどこまで広がっていくのかも楽しみ。 3年弱前 replyretweetfavorite

36ebony52ivory 基本は知ってることなのにこんなに多様な表し方が! 面白くてもう。 https://t.co/jBpfbemj4j 3年弱前 replyretweetfavorite

wed7931 同値変形は大学に入って初めて理解できた。高校数学によく出てくる証明問題の締めの「x=yとなるのは、このときに限る」という言い回し。大学でやっと理解できた。 3年弱前 replyretweetfavorite