信頼は「自発性」によって作られる
篠田 働き方には「新卒採用・終身雇用」しかないって思い込んでしまうと、精神的につらくなるだろうなと思うんです。この問題は、個人と企業の間の「信頼」に関わってくるんですけど。
—— 前回の「アライアンス」についてのお話の中でも、「信頼」がキーワードでした。問題というのはどういうことですか?
篠田 会社と人の関係は、普段の人間関係になぞらえることができると思うんです。
たとえば、私がいかに由佳里さんのことが大好きで信頼していても、もし「今後は由佳里さんとしかお友達関係を作ってはいけない」となってしまったら、その瞬間、お互いにかなりツラくなると思うんです。
渡辺 ふふふ、いいたとえですね。
篠田 私は、ほかの方たちともいろんな形でおつきあいしてるからこそ、由佳里さんとはこういう信頼関係を作ろうと思える。それは誰かから強制されるようなものじゃないんですよね。たぶん、職場と人も、本当はそうあるべきだと思うんです。
会社も変わるし、人も変わる。なのにいつも同じ相手といなきゃいけないというのは、閉塞感につながります。その閉塞感があるにも関わらず、付き合い続けなきゃいけないとなったら、その関係はもう信頼関係じゃなくなりますよね。
渡辺 そう思いますね。
篠田 信頼のベースになるのは「自発的に信頼すること」なわけで、それが「義務」になった瞬間、信頼とは違う何かになってしまう。「お互い選択肢があっての自発的なこの関係ですよね」って、思えることが重要なんです。
だから、結果として終身雇用なのはすばらしいと思います。初恋の人と結婚して添い遂げたみたいな話だから。
渡辺 そうそう、そんな感じですよね。それは幸せで、ラッキーなパターンで。
やっぱり、そのシチュエーションを自分が選んでいるのか、それとも強要されているのかっていうのは重要で、少なくとも、半分は成り行きでも「自分が選んだ」って思えてること。それが絶対に必要ですよね。
すべてを求める関係は不幸になる
渡辺 今お話していて思い出したんですけれど、以前読んだ本で、ブッカー賞と全米図書賞の最終候補になった『A Little Life』っていう本があるんです。その中の登場人物のセリフに、「relationship(関係)が与えるのはeverything(すべて)じゃない、something(なにか)なんだ」っていうのがあって。
篠田 うんうん。
渡辺 そのキャラクターが、「若いころには、すべてが得られるような気がしてしまっていた。でも、実際にはそうじゃなかった。うまくいっている関係とは、カップルの両方が、相手の持っているもっともよい資質を認め、それを尊重することを選んだケース。だから、自分に大切なこと3つを選ぶんだよ」みたいなことを言っているんです。
篠田 なるほど。
渡辺 それは、いろんなrelationshipで言えることだと思うんですよね。結局、失望するのは、「ぜんぶが満たされないとダメなんだ」って思っているからなんです。男女で言ったら、恋心も、忠誠心も、経済力も、居心地の良さも……って。でも、そうじゃないんだと。
篠田 そう思いますね。
渡辺 職場とのrelationshipでも、同じことが言えるんじゃないかと思います。信頼って、「選ぶ」というところがすごく問題ですよね。
篠田 「選ぶ」という行為は、基本的に自発的なのものですものね。
渡辺 そう、両方ともがそれを認識して、大事だと思った上で選ばないと、関係はうまくいかない。理想的なrelationshipというのはそういうものなんだって、その本を読んで思ったんです。
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