こないだ男性ファッション誌「UOMO」でノンフィクションの特集があって、声をかけてもらったんだけど、なんせ選べるのは一冊だけで、文字数もちょっぴりだからフラストレーションが溜まってしまった。
今から駆け抜けるように樋口が選んだノンフィクションベストテン(順不同)やります。
『テロルの決算』沢木耕太郎
「UOMO」のノンフィクションではこれを挙げた。ベタ中のベタ。
「好きなロックバンドは?」って訊かれて「ローリング・ストーンズです」って答えるぐらい面白みがない、おまえ権威主義者かってぐらいの定番すぎる答え。
ノンフィクションにおける金字塔の中の金字塔です。
1960年10月12日、浅沼稲次郎社会党委員長が衆人環視の演説の途中で刺殺された。
犯人は右翼の少年山口二矢17歳。逮捕された二矢はその後鑑別所の中で首を吊って自決した。壁に歯磨き粉で、「天皇陛下万才、七生報国※」と書き残して。
※筆者注 七生報国:7回生まれ変わっても国に報いるの意
日本の歴史上永遠に語り継がれる暗殺事件はなぜ起こったのか? この国の歴代No. 1ノンフィクションライター沢木耕太郎の手にかかると、この事件がまるで神の手によってあらかじめ決められていたかのような錯覚さえ覚える。
この本を読んで、驚嘆したり、震撼したりしない人間はひとりもいないだろう。
僕は自分が書いた、アメリカに原爆を落とす日本人青年の物語を『テロルのすべて』と名付けたが、もちろん本書からの影響だ。
これ以上は言わない。この本を読んでいないくせにノンフィクションを語る奴は人間じゃない。それだけだ。
『プロレス少女伝説』井田真木子
これは「SPA!」で連載していたサブカルコラム集『さよなら小沢健二』を写メにて(!)再掲する。
え、オレ井田真木子の歳(享年44歳)を超えたんだ……。今後も恥じない仕事を続けなきゃな。
『肉体の鎮魂歌』増田俊也編
こちらは『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の増田俊也さんが編著したスポーツノンフィクションの短編10本を収録したオムニバス本。
新旧の傑作スポーツノンフィクションが10本読めるから、あまり本を読まない人にもオススメかも。山際淳司さんの『江夏の21球』という、半永久的に語られる古典も入っているし。
またしても沢木耕太郎が入っている! しょうがないよ、ノンフィクションの神なんだもん。
『三人の三塁手』とは長嶋茂雄と、彼のおかげでプロ野球選手として日の目を見ることがなかったふたりのこと。
TBSが「プロ野球戦力外通告」ってドキュメンタリー番組をやっているけど、間違いなく本書からヒントを得ている。
そして本書の10本の中でダントツなのは高川武将の『オリンピックに嫌われた男。』。
マラソンランナー瀬古利彦と、その師匠の中村清の壮絶な日々を描いている。
この中村コーチが、日本のあらゆるスポーツ関係者の中でいちばん「どうかしている」(←言葉を選びました)人間であることは、自信を持って推したい。
そのエピソードの数々は、現代だったら即逮捕。もしくは社会的抹殺は免れないだろう。
狂気に狂気が呼応するとき、ボストンマラソンで日本人が当時の大会新記録で優勝するという奇跡が起きる。
だけどわざわざ文科相が教育委員会に対して、全国の中高の運動部に休養日を設定するよう通告する現代では、もはや望むべくもない。
や、母体に運動神経を置き去りにしてきた俺が「むかしの運動部のシゴきは人権蹂躙で良かった」などと口走るつもりは毛頭ないけど。
それにしても増田さんがうらやましい。売れたらこんな本が出せるのか。俺もいつかこういうアンソロジー本を作って、今では埋もれてしまった作品と作家を今一度世に知らしめたい。
『書店風雲録』田口久美子
日本でいちばん有名で、かつ信用ができる書店員が田口久美子さんであることは言を待たないだろう。
現在は池袋ジュンク堂本店副店長である伝説の書店員田口さんが、80年代に池袋のリブロに勤務した日々を描く。
とにかくこれさえ読めば、80年代の出版界、書店の大型化の流れ、当時流行った雑誌、池袋界隈の街の風景、セゾンを中心とした文化、あの時代の女性の社会進出が全部、水を飲むようにわかる。
出版界に身を置く人でこれを読んでなかったら恥ずかしいよ。
『さらば、わが青春の「少年ジャンプ」』西村繁男
裏表紙のあらすじから抜粋。
何でもいい、男一匹ガキ大将、ハレンチ学園、ど根性ガエル、デロリンマン、アストロ球団、こち亀、すすめ!!パイレーツ、リンかけ、キン肉マン、ドクタースランプ、北斗の拳、ドラゴンボール、魁‼ 男塾、ジョジョ……などなど、70~90年代の『少年ジャンプ』でハマったマンガがある人で、これを読まなかったらもったいない。
日本のマンガ史、カルチャー史、テレビ史、というか日本人の人格形成にもっとも影響を与えた作品を世に輩出し続けてきた舞台裏がわかる、超一級の証言がここにある。
余談だが、樋口が編集者時代に『ぼくの週プロ青春記』(小島和宏)を作ったが、それは本書の影響。
「ほぼ日」に寄稿したテキストまだ読めるね。ここにリンク貼っとく。
『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』町山智浩
町山さんから一冊選ぶって難しすぎる。
『映画の見方がわかる本』、『トラウマ恋愛映画入門』、柳下毅一郎との共著『映画欠席裁判』シリーズなどなど、町山本にハズレなし。
どうしても一冊挙げるなら、文春文庫で解説を書かせてもらった「キャプアメ」。
四百字詰め原稿用紙で40枚書いた
ありえない分量。でも町山さんも編集も怒らなかったよ。
町山さんとの出会いからその人間性、あのテキストのこの部分からパクったと全告白(懺悔とも言う)、挙げ句本人にダメ出し、話は評論家論にまで及び、町山さんへの思いのありったけを叩きつけた。
ウザいよ熱いよ。いま久し振りに読み返したけど我ながら気持ち悪いよ。ラブレター・フロム・ストーカー。
でも町山さんがいなかったら、僕は先述の『テロルのすべて』といい、半分以上小説を上梓できなかっただろう。
町山さんには最近、週刊新潮で連載の「おっぱいがほしい! 男の子育て日記2016」の挿し絵を描いて頂いています。
奥様と愛娘に隠れて執筆してくれているそうです。
こちらもよろ。
あーまだいい足りなさすぎる!
これ読め。町山さんのブログの神回。
これを読んで何も感じないなら人間なんかやめちまえ!
『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』森達也
最近だと佐村河内守のドキュメンタリー『FAKE』を大ヒットさせたが、氏は映画監督としてだけでなく、ノンフィクションの書き手としても超一流なことは周知の通り。