結局SMAP解散企画はどうなったか
K編集長の机の上の「企画は即刻ナシに」との置き手紙を見届けた私は、その後東京外語大学のイスラム教に詳しい教授の取材に行ったのだが、取材が終わって同大学の便所で小便をしていた時にK編集長から電話が来た。
K編集長 中川さん、今大丈夫ですか?
私 はい。おしっこしていますが大丈夫ですよ。
K編集長 実は……。
私 企画がなくなるんですよね?
K編集長 もうご存知だったのですね(笑)。
私 はい。たまたま、今朝、デザインを見ようとセブンの向かいのブロス編集部に行き、Kさんの机を見たら置き手紙があるのを確認しました。
K編集長 そうなんですよ。大変申し訳ないのですが、そういうことになりました。
私 大丈夫です。事情は分かります。
K編集長 たいへん申し訳ありません……。
私自身は実はこの時、少しホッとしたのである。散々大澤さんから自分の文章力にダメ出しをくらっていただけに、4ページもの原稿を一人で書けるか不安で仕方がなかったのだ。だから、正直、企画が吹っ飛んだことに対しては安堵の思いを抱いていた。
なんせ、日経エンタ! やセブンの場合は、大澤さん・嶋さんという後見人というか、企画を全面的に見てくれる上司がいるものの、ブロスの場合はK編集長が私の文章力を事前にチェックすることなく、全面的に私に企画を任せてくれていたからだ。だからこそ、すべての責任を自分で負うことに対して不安があった。そんな折りの企画中止である。K編集長の申し訳なさとは裏腹に、私自身はかなりホッとしていたのである。
というか、今さらながら思うのだが、K編集長という人は実に剛毅な人ではないか! 「博報堂にいた」というだけの理由で仕事を発注してくれ、私の周囲にどんなスタッフがいるのかも確認せず、企画力も文章力も一切チェックすることなく総額20万円の仕事を発注してくれた。いや、剛毅というか無茶苦茶である。
今、ライターや編集者に発注する立場の私であっても、K編集長ほど無茶苦茶な発注はできない。ある程度力量は面談をするなどして把握してから仕事はお願いする。よくよく考えるとかなりラッキーな受注であった。
このことを大澤さん・嶋さんという私の文章能力・取材能力・企画力に懐疑の心しか持っていない二人に伝えたところ、異口同音に「えっ? お前みたいな素人が仕事取れたの?」と驚かれた。
「それがそうなんですよ~(ガハハ、オレだってやる時はやるぜ、ドヤ! 見る人が見れば、オレは優秀なんだゾ! 認めてくれる人がいるんだゾ!)」とその時々は鼻高々だった。
目の前のお金よりも嬉しい言葉
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。