号外》今日、NASAの探査機ジュノーが木星到着!!

7月4日、アメリカにとって記念すべき独立記念日の今日。宇宙開発に携わるひとたちにとっても、今年の7月4日は記念すべき日となります。
NASAのジェット推進研究所(JPL)も連日お祭りの準備が進んでいると、そこで働く日本人技術者の小野雅裕さんは言います。
果たして今日、遠い宇宙で起こるビックニュースとは?
小野さんの解説と一緒にお楽しみください!

木星に到着したジュノーの想像図。Image: NASA/JPL

今日人類がはじめて木星に着いたよ~
ピテカントロプスになる日も近づいたんだよ~

そんな前衛的な歌詞を、白いタンクトップを着た小太りの男が、無気力なメロディーに乗せて歌うシュールな姿が日本のお茶の間を席巻したのは、僕が小学生の頃でした。

そんなこととは全くもって関係がありませんが、今日*、NASAの探査機ジュノーが木星に到着します!!(*アメリカ時間7/4)

現在、ジュノーは木星の強力な重力に引き込まれて加速しており、再接近時には木星に対して時速22万キロ、東京から大阪までたったの8秒で行けてしまうスピードに達します。最高速度に達するタイミングでジュノーは35分にわたってエンジンを逆噴射して減速し、木星の重力に捉えられ、木星を周る人工衛星となるのです!

エンジンの噴射開始は日本時間7月5日(火)昼12:18です。11:30よりオンラインのストリーミングがあります:http://www.nasa.gov/multimedia/nasatv/index.html#public


アメリカの独立記念日を祝う木星の花火

『さよなら人類』の歌詞とは異なり、人類が木星に着くのは、今回が「はじめて」ではありません。実は、過去に8機もの無人探査機が木星を訪れています。

ですが、そのうち7機は高速で木星のそばを通り過ぎただけ(フライバイ)でした。宇宙には抵抗力を及ぼすものが何もないため、止まるためにはロケットエンジンを逆噴射しなくてはいけません。宇宙では止まるより飛び続ける方がはるかに簡単なのです。ですから、パイオニアやボイジャーによる初期の木星探査はすべてフライバイでした。

しかし、フライバイではほんの数日間しか木星を観測する時間がありません。

一方、木星を周る人工衛星となれば、何年にもわたって観測を行うことができます。

最初に木星の人工衛星となったのは、『さよなら人類』が発売された前年の1989年に地球を飛び立った、ガリレオという名の探査機でした。1995年に木星に到着してから2003年に役目を終えるまで、8年にわたって木星を回り続け、膨大な量の科学的知識を人類にもたらしました。

今日、ジュノーの軌道投入が成功すれば、ガリレオ以来2番目の木星の人工衛星となります。そして約1年半の間に木星を37周して観測を行った後、意図的に木星の大気に突入し破壊され、「さよなら人類」となるわけです。

JPLに出現したジュノーの模型と、ちょっと安っぽい木星のポスター。JPLでもお祭りの準備が進んでいます。

ちなみにジュノーの木星到着はアメリカ時間では7月4日の夜。独立記念日です。

アメリカの子供たちにとって、7月4日は花火の日。日本の夏では毎週どこかの街で花火大会がありますが、アメリカでは一斉射撃のように全ての街で花火大会が7月4日に行われます。

子供たちが夜空を飾る花火に見とれていたり、屋台のお菓子や移動遊園地の1回5ドルのチケットを親におねだりしたりしている頃、8億キロ離れた木星の空にも、静かに一発の花火があがるのです。

Image: NASA/Kim Shiflett


放射線との過酷な戦い

ジュノーにとっての最大の敵は、木星の強力な放射線帯です。木星には太陽系の惑星の中でずば抜けて強い磁場があり、それが太陽から飛んでくる荷電粒子などを捉え、加速することによって、強力な放射線帯が作られます。

余談ですが、磁場は地球にもあります。ですから、木星のものとは比べものにならないほど弱いとはいえ、同様の放射線帯は地球にもあります。(ヴァン・アレン帯、と呼ばれています。)

放射線帯と聞くと有害なものに思えるかもしれません。実はその真逆です。太陽からの荷電粒子を上空で捉え、盾のように地表を放射線から守ってくれています。地球上で生命が生きられるのは、磁場があるおかげなのです。

火星には磁場が存在しません。ですから、火星の地表には地球よりも強い放射線が降り注いでおり、生体の被曝量は地球の自然被爆量の約100倍(年間約230 mSv)程度だそうです。数年程度の有人探査ならば問題ないでしょうが、移民して定住するとなると被曝を軽減する工夫が必要です。未来の火星の都市は地下に建設されるかもしれませんね。

一方、木星の衛星エウロパは、木星の強力な放射線帯の中を公転しているため、地表での被曝量は地球の約100万倍(年間約2 kSv)にも達します。とても生命が存在できる環境ではありません。ですが、地底にある海は、厚さ10キロ以上にもなる氷の層に守られています。そこに生命が存在するかもしれないと科学者たちが考えるのはそのためです。

話をジュノーに戻しましょう。放射線は、生物にとってだけではなく、機械にとっても非常に有害です。電子機器を損傷してしまうからです。そのため、ジュノーの本体は、厚さ1センチ、重さ172キロにもなるチタンの装甲で守られています。

それでも、放射線は徐々にジュノーの体を蝕んでいきます。まずダメージを受けるのはカメラです。搭載されているカメラは、最初の8周の軌道は稼動するように設計されていますが、それ以上は保障されていません。

木星の強い放射線帯は、美しいオーロラを出現させます。オーロラの観測のジュノーのミッションのひとつです。Image: NASA/JPL


ジュノーの翼:3枚の巨大な太陽電池

ジュノーには、過去に木星を訪れた8機の探査機とは決定的に違うユニークな特徴があります。

巨大な3枚の太陽電池パネルです。

木星は太陽から遠いため、太陽光の強さは地球と比べてたったの4%です。太陽電池の発電量も相応に落ちます。ですから、過去に木星を訪れた探査機はすべてRTG (radioisotope thermal generator)という、プルトニウム238の自然崩壊熱を電気に変える仕組みの発電機を用いてきました。

(注:RTGは原子力発電や原爆とは以て非なるもので、核分裂・核融合は一切伴いません。プルトニウム238がじわじわと自然崩壊する熱を利用します。また、発生する放射線の大部分は最も遮蔽が容易なアルファ線なので安全です。心臓ペースメーカーの電源として体内に埋め込んで使われたこともあるほどです。ちなみに原爆や核燃料に用いられるのはプルトニウム233, 235, および239です。238が間違って核爆発する危険性はありません。)

ジュノーがRTGではなく太陽電池を採用した理由の一つは、技術の進歩により発電効率が向上したことです。

もう一つの理由は、プルトニウム238の供給不足です。1988年にアメリカはプルトニウム238の製造を停止し、1993年以降はロシアからの輸入に頼ってきました。ところがロシアも製造をやめてしまったのです。2015年の時点では、NASAに割り当てられたプルトニウム238はRTG3基分しかありませんでした。そのうち1基は次世代火星ローバー(Mars 2020 Rover)が既に予約済みです。

アメリカは2013年より、少量ですが、プルトニウム238の製造を再開しました。木星より遠くの探査にはRTGは依然必須なので、NASAにとっては朗報です。

土星探査機カッシーニに搭載されたRTG。プルトニウム238は遮蔽が容易なα線しか出さないので、このように人間が防護服なしに近づいても問題ない。Image: NASA


探偵ジュノー:入り乱れた諸説に白黒つけるためのミッション

ところで、ジュノーは何のために木星に行くのでしょう?

最大の目的は、木星がいかにして作られたかの謎を解く鍵を見つけることです。

木星は、その強大な重力で他の惑星の形成や進化にも大きな影響を与えてきました。ですから、木星の誕生の謎を解くことは、太陽系全体の誕生と進化の謎を解くことにも繋がります。

しかし、どうやって46億年も前に何が起きたかを知ることができるのでしょうか?

宇宙の過去や未来についての謎解きは、ちょうど推理小説で探偵が状況証拠を集めて犯人を割り出していく過程に似ています。

たとえば、密室で刺殺事件があり、犯人がアリバイのないA, B, Cの3人に絞られたとしましょう。直接証拠は見当たらず、目撃者もいません。どうすれば、誰が真犯人かを特定できるでしょうか?

探偵は追加の間接証拠を探します。たとえば、被害者の傷の向きをしらべ、犯人が右利きであったことを知ります。すると左利きのCはシロとわかります。さらに探偵は様々な間接証拠から犯行時刻を絞り込みます。するとBのアリバイが成立し、残るAがクロになる。そんな具合です。

木星がどのようにできたかについても、さまざまな説があります。そして現在分かっている限りの間接的証拠だけでは、どの説が正しく、どの説が間違っているのか、特定できません。

多くの説は、大まかな点では一致しています。まず微惑星が集まって岩石のコアができ、それが重力でガスを寄せ集めて巨大惑星になった、という点です。(木星はその体積の殆どが水素とヘリウムのガスです。巨大なガスの塊のような星なのです。)

ですが、コアの重さがどれほどか、どのタイミングでコアができたのか、そして木星がどこで生まれたかなど、細かな点では諸説入り乱れています。ジュノーは、まるで探偵のように、それらの説に白黒をつけるための追加の証拠をさがしに行くのです。

ところで、「木星がどこで生まれたか」という問いに、「え?」と反応する人も多いでしょう。実は、惑星は生まれたときの軌道から大きく移動する(planetary migration)ことがあり得るのです。たとえば天王星と海王星は、現在の木星や土星の軌道周辺で形成された後に、外側に移動していったというのが現在の定説になっています。


ジュノーが掴む証拠

では、ジュノーはどのような証拠を見つけようとしているのでしょうか?

そのひとつは、木星にある水の量です。水はコアの元になった微惑星に由来すると考えられているので、水の量がわかれば最初にどの程度の微惑星が寄せ集まったのかの検討がつきます。

水の量を測るために、ジュノーにはマイクロ波放射計が搭載されています。これは地球でも大気の温度や湿度を測ることに使われています。

重要なのは、マイクロ波は雲を透過することです。ですから、これを人工衛星に積めば、雲の下の気象条件を知ることができるのです。

ジュノーは木星を37周する間に、木星の厚い雲の下にある大気にある水の量を、木星全域にわたって測定します。これにより、木星全体に含まれる水の量の目星をつけられるのです。

ジュノーはさらに、コアの重さをもっと直接的な方法で測定することも試みます。

しかし、木星の直径は地球の11倍もあるため、その中心にあるコアはどんな機器をつかっても直接見ることはできません。木星の外側からコアの重さを測るのは、卵の殻を割らずに黄身の大きさを測るような芸当です。

では、ジュノーはいかにしてそんな芸当をやってのけるのでしょう?

こんなカラクリを使います。まず、ジュノーから地球に届く電波のドップラー効果を測定することにより、探査機の位置と速度を精密に割り出します。それにより、木星の重力がどのように探査機に作用したかがわかります。すると、木星内部の質量の分布が見えてきます。もし木星の中心に重い塊があることがわかれば、それがコアだと分かるのです。

NASAの遊び心。ジュノーにはレゴ人形が積まれています。左がガリレオ・ガリレイ、右がローマ神話の神ユピテル(木星の語源で、ユピテルの英語読みがジュピター)、真ん中がユピテルの妻のジュノー、つまりこの探査機の語源です。Image: NASA/JPL-Caltech


夜空を見上げてみてください!

今日、日が沈んだ後、職場や学校からの帰り道に、立ち止まって夜空を見上げてみてください。冬にくらべて明るい星が少ない夏の空ですが、ひときわ明るい二つの星がすぐに見つかると思います。

南東に見える真っ赤な星が火星です。あの小さな赤い光の中で、2機のローバーと5機のオービターが今日も元気に稼動しています。

そして南西に見える黄色い星が木星です。ジュノーの小さな花火は地球から見ることはできません。しかしあの8億キロ離れた光の傍から、ジュノーは木星、そして太陽系の形成と進化の謎を解き明かす、決定的な証拠を送ってくるのです。

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宇宙人生—NASAで働く日本人技術者の挑戦

小野雅裕 /小山宙哉

世界で唯一、太陽系の全ての惑星に探査機を送り込んだ機関があります。それは、NASAのJPL(ジェット推進研究所)という組織。そんな宇宙探査の歴史を切り拓いたともいえるJPLで働く技術者・小野雅裕さんが目指すものとはーー。『宇宙兄弟』ス...もっと読む

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コメント

tago21saku 凄い!おめでとうございます! 3年以上前 replyretweetfavorite

hal_31 ちょっと長いけど面白い。個人的には発電の話が。 3年以上前 replyretweetfavorite

covent_garden 《 号外》今日、NASAの探査機ジュノーが木星到着!! - 3年以上前 replyretweetfavorite

napsucks 11件のコメント https://t.co/nhNEKXHkMs 3年以上前 replyretweetfavorite