AIを使える人と使えない人のあいだに起こる深刻な格差

AIが人間を超えるシンギュラリティ(技術特異点)の到来が、いよいよ目の前に見えてきた今日このごろ。はたしてテクノロジーで人類は幸せになれるのでしょうか? あるいは、不幸にならないために心がけるべきこととは? 長谷敏司さんと海猫沢めろんさんの、ゲンロンカフェで行われた対談、いよいよ最終回です。

ダイエット本しか買わない人にSFが降りてくる日

長谷 ぼくはAIが発展して、社会に浸透している未来が来ることを予測はしているけれど、それは危ないことでもあるなとは思っているんですよ。とくに危機感を感じているのは、AIを使いこなせる人と使いこなせない人の間に生まれる格差ですね。

海猫沢 デジタル・ディバイドのAI版が起こると。

長谷 今でもコンピュータやインターネットが使えない人は職業選択の幅が減っているんだけど、AIが普及したら、AIを使いこなせる人と使いこなせない人に同じことが起きると思います。AIで便利になるといっても、それでご飯を食べられるガイダンス(指導)までを、誰でも触れられるAIが無料で面倒見てくれるかっていうと、それは無理でしょう。

海猫沢 ぼくは、AIにかぎらずテクノロジーはもっと発展してほしいと思っている派なんですよ。『明日、機械がヒトになる』では最終的に「幸福学」の話を聞いたけれど、たとえテクノロジーが発展して今のところは不幸になるかもしれなくても、それでも発展したほうがいいと考えている。

長谷 ぼくは、テクノロジーで人間は全体的には幸福になるだろうと思っていますよ。ただ、テクノロジーで幸福になるためのガイダンス(指導)というか、周知活動を全力で続けないと大変なことになると危惧しているんです。海猫沢さんにもその問題意識があるからこそ、今回の本につながったんではないですか。

海猫沢 それはありますね。社会のリテラシー次第で、テクノロジーのリアリティーって全然変わる。そして、ぼくは『My Humanity』をはじめとするSF小説にもリテラシーを上げる力があると思っています。でも、前回もおっしゃっていた通り、SFの棚は本当に狭い。どうやったらみんなに届くのか……。

長谷 それをずっと考えて、そのアプローチをし続けないと、ぼくらの子供世代や孫世代がそのツケを払うことになるんでしょうね。AI化社会って、基本的には初期投資のできる人が圧倒的に優位なんですよ。子供のころからAIを買い与えることができるとか、トレーニングを行うことができるとか。AIもネットと同じで、大量のリソースがまわりに転がってても、学習してリテラシーを身につけていないと仕事につなげられない。
 でもそれを、書店でダイエット本くらいしか買わない人に伝えるにはどうしたらいいんだろうって思いますね。そういう人のところにまで、SFで書かれてきた現実が降りて行ってしまうというのは、なかなか難しい状況だと思います。

負けているからこそAI研究を続けなければならない

海猫沢 やっぱりそこは感情に訴えるのが強いですよね。たとえば「恐怖」。「AIが人間を滅ぼす」とか「AIが人間の仕事を奪う!」みたいな煽り方をしていくとか。

長谷 ぼくはあまり適切じゃないと思います。恐怖って、非常に人間的なトリガーですけど、速度のコントロールができないじゃないですか。恐怖の速度に乗せて変化の情報を伝えてしまうとうまくいかないような。

海猫沢 でも、日本の状況はずいぶんのんびりしているとは思うんですよ。研究にしてもリテラシーにしても。AIの分野については、もはや負けている。

長谷 まあアメリカには周回遅れだし他の国にも負けていますよね。これからどうしたって一番になることはない。実際、Googleみたいにデータを大量に集められる仕組みがないわけだし。だから、日本であれこれAIの倫理について議論して倫理的な社会をつくったとしても、アメリカで別の倫理が浸透していたら、それがアメリカの「より良いサービス」といっしょに入ってきちゃう。
 ただ、そのときにアメリカと交渉するだけの技術力やリテラシーが、日本側に何もないっていう状況が一番最悪ですね。だから勝ててはいなくても、せめて渡り合える研究はすすめていかないと。

海猫沢 日本は「交渉するAI」とか開発したらいいのかも。AI同士で交渉してもらおう。

長谷 まぁ、それもありですね(笑)。

AI社会のブラックボックス化を防ぐには

海猫沢 あ、会場から質問が。どうぞ。

会場 人がAlpha碁の手を解説できなかったように、いずれAIが人間の理解を超えてしまいブラックボックス化してしまう時がくると思っています。そのとき人はどのようにAIを管理すれば良いと思いますか。あるいは管理以外の向き合い方があるんでしょうか?

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“すこしふしぎ”な科学ルポ

海猫沢めろん

漫画家・藤子不二雄氏はかつて、SFを「すこし・ふしぎ」の略だと言いました。そして現在。臨機応変に受け答えするSiri、人間と互角以上の勝負を展開する将棋ソフト、歌うバーチャルアイドル初音ミク、若い女性にしか見えないヒューマノイド……世...もっと読む

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コメント

yuji_iskwrt あとは、未来の執筆シーンとか。ゲンロンカフェでの対談企画のトピックを思い返しながら読んでいた(時期的には対談の頃には作品は仕上がっていたのだろうけど)。 https://t.co/WrFGEfwnDd 約1年前 replyretweetfavorite

AI_m_lab こちらも理解しておきたいですね 1年以上前 replyretweetfavorite

kemiichi これもよむ、今月いっぱい修羅場につきメモ・・・> 1年以上前 replyretweetfavorite