AIが小説家になる時代がやってくる?

人工知能が人類を超えると予言される2045年まで、約30年。AIがプロ棋士を打ち負かしたり、AIが書いた小説が一次選考を通過したり……日常のなかでその「予言」の信憑性をひしひしと感じるニュースが増えてきました。予言が現実になってシンギュラリティ(技術特異点)を迎えたとき、ヒトがヒトでいるために必要なこととは? 
『明日、機械がヒトになる』を上梓した海猫沢めろんさんと、人と人工知能が織りなす未来を描いてきた作家の長谷敏司さんの、ゲンロンカフェで行われた対談を全4回にわたってお届けします。

テクノロジーは「人間性」を変えるのか

海猫沢めろん(以下、海猫沢) 長谷さんとぼくは同年代なんですが、実は初対面という。今日はお越しいただき、ありがとうございます。

長谷敏司(以下、長谷) いえ、こちらこそよろしくお願いします。『明日、機械がヒトになる』拝読しました。海猫沢さんが考えを語る、地の文がインタビューの間にたくさんあるのがおもしろかったです。各分野の先生たちに話を聞いているパートだけでなく、次はどういう人に話を聞きに行こうという海猫沢さんの思考経路まで書いてあるのが。

海猫沢 「人間の機械化」と「機械の人間化」の両方向から探っていこうのは最初からぼんやりあったんですけど。それで一人取材すると「ああ、次はこの人がいいかも」という感じで浮かんでいったんです。どなたのお話がおもしろかったですか?

長谷 ロボット研究の石黒先生のお話がよかったですね。ぼくは一番好きかもしれない。「子供のときに怒ることができなかった」というエピソードがあったりして、ご自身のことをこんなに話す方だったんだと驚きました。 
 他の方も、3Dプリンタの田中浩也先生やSR技術の藤井直敬先生を始めとして、時代のキーマンばかりじゃないですか。人工知能の松尾豊先生は、ぼくも人工知能学会の倫理委員会でご一緒しているんです。

海猫沢 そうなんですね。いつ頃からですか?

長谷 一昨年かな。倫理委員会がスタートしたのは、人工知能学会の学会誌をリニューアルしたことがきっかけです。女性型のメイドさんロボットが掃除している姿のイラストが表紙に使われたんですがそれが「女性差別を固定化しているんじゃないか」という批判が出たんですね。

海猫沢 あー、ありましたね。取材の時期にも話題になってました。

長谷 その炎上をもとにして、AIを研究する際には、もっと社会の中で自分たちの研究がどういう位置づけにあるのかを真剣に考えなければいけないという反省が生まれて、それでSF作家であるぼくも呼ばれる流れに。

海猫沢 そういうことだったんですね。今回の本はウェブ連載を書籍化したもので、実はウェブ掲載時には長谷さんの短編集『My Humanity』の内容を紹介させていただいたんですよ。すごく好きな本で。 
 というのも、この本のテーマでもあるんですけど、ぼくはテクノロジーは「人間性」というもの自体を変えてしまうんじゃないかと思っているんです。でも文学—とくに純文学は、現実の進歩に比べてほとんどテクノロジーのことを書かないんですよ。ぼくはそこに向き合ったほうが人間にも向き合っていることになるんじゃないかという不満があって。
 そんなとき『My Humanity』を読んで、まさにその問題意識に近いことをやっていらっしゃるなと感じたんです。それで、ぜひお話したいと思っていました。

「AIが書いた小説」はまだ登場していない

海猫沢 長谷さんはライトノベルのレーベルでデビューされていますが、最初はSFを書くつもりはなかったんですか?

長谷 そこまでジャンルは気にしてなかったですね。デビュー作自体はSFっぽいもので、日本SF新人賞に応募しようか迷ってたんですけど、分量的に応募規定を満たしていたのがスニーカー大賞だけで。それで受賞してスニーカー文庫で仕事をしていたら、早川書房の方が連絡をくださったので、そこからSFに関わりを持つようになりました。
 でも、「SFが現実になる」なんて話に、一般の記事やテレビでも触れるわりには、書店でのSFの棚ってものすごく少ない。

海猫沢 一時期は「SFってつけたら売れないから、帯などにSFと書くな」なんて話もありましたしね。

長谷 純文学でテクノロジーを書く人がいないという話がさっきありましたけど、SFレーベル以外で機械の話とかしっかり書こうとすると「これ、文学的にいらないですよね」って言われたりもするそうですし。

海猫沢 それもありますね。ぼくも長谷さんも作家ということで、今日一番聞きたいのは、やはり「AIが小説を書く」ということについてなんです。公立はこだて未来大学のAIプロジェクトでAIが創作した小説が、星新一賞の一次審査をパスしたじゃないですか。長谷先生も報告会に参加していましたよね、あれ。

長谷 はい。でも、まだ「AIが書いた」という感じじゃないんですよ。AIに記述させるためのプログラム言語を人間が書いてるんです。それによってエピソードや名詞、修飾といった「部品」がばらされた状態で用意されていて、さらに「あらすじ」にあたる流れは、コードを記述することで人間が決めている。それにしたがってAIに「組み立て」をさせたというほうがたぶん正しいです。それで書かれた10万通りのなかから人間が選んだ。7割方は人間が書いたようなものです。

海猫沢 10万作って、選ぶ側が大変ですね……。

長谷 全部読んだわけじゃなくてランダムに抽出したみたいですが。小説の良し悪しをAIが判断できる段階にはないんですよね。星新一賞は選考過程を最終選考以外公表しないので、賞の選考でAIの小説の何が評価されたかはわからないんですが。

海猫沢 今回は4作品が一次選考通過でその後落とされていますが、この先もっと「読まれる小説」をつくっていくには何が必要だと思いますか? 将棋とか碁だったら、勝つか負けるかという明確なゴールがあるけれど、小説はすごく難しいですよね。ぼくは、「泣ける」とか「ホラー」だとか、感情部分のパラメータを工夫するのがいいと思っているんだけど……。

長谷 うーん、ぼくはもっと即物的な話じゃないかと思っていて。今、「小説家になろう」のような小説投稿サービスがあるじゃないですか。あれはPV(ページビュー)もわかるし、その小説の性質—ファンタジーとかアクションとかハッピーエンドとか—にあわせたタグを組み合わせて、細かい分類をすることもできる。個々のタグがついた小説がどれくらいのPVを稼いでいて、その小説がもつ個々の要素がどうPVに影響しているかあたりをもっと分析したら「PVのとれる小説」の条件が探れるので、それを反映していくのがいいんじゃないかなと。

海猫沢 PVが目的でいいんでしょうか?

長谷 最初の条件付けとしては明確ですし、計量可能なのでAIに課す目的として評価できるんじゃないでしょうか。AIじゃなくても、今の商業作家だって「これはウケるな」「ウケないな」という感覚も取り入れながら書いているし。

AIはシミュレートする存在である

海猫沢 今回の新刊のための書店まわりをしてきたんですが、そのときに、ある店員さんが、最近のラノベの売れ行きは極端で、「転生」「チート」「異世界」のうちのどれかが入っていないともう売れないと言っていました。

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“すこしふしぎ”な科学ルポ

海猫沢めろん

漫画家・藤子不二雄氏はかつて、SFを「すこし・ふしぎ」の略だと言いました。そして現在。臨機応変に受け答えするSiri、人間と互角以上の勝負を展開する将棋ソフト、歌うバーチャルアイドル初音ミク、若い女性にしか見えないヒューマノイド……世...もっと読む

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コメント

realwavebaba https://t.co/DgTN60Eo2k 最近この種の記事が多い。語るのは勝手だが「意味を理解するAI」はまだ発明もされていない原理不明の何かだ。そいいう指摘を専門家がしても大きな記事にはならない。愚かだとは思う。 11ヶ月前 replyretweetfavorite

Singulith >「ある店員さんが、最近のラノベの売れ行きは極端で、「転生」「チート」「異世界」のうちのどれかが入っていないともう売れないと言っていました」  https://t.co/JIOov6O6Q5 11ヶ月前 replyretweetfavorite

Singulith >「アメリカのゲーム業界では、それをもうやってるんですよね。ニューロマーケティングといって、テストプレーヤーに装置をつけて脳波をとりながらテストプレイしてもらうという 〜ダイレクトに脳波はかったほうがいいよねという」  https://t.co/JIOov6O6Q5 11ヶ月前 replyretweetfavorite

arikanagahisa 面白かった: 11ヶ月前 replyretweetfavorite