スティーブ・ジョブズを育てることはできますか?
Q.生まれたアイデアを質の高いアウトプットに落としこむという部分については、どうしても個人のクオリティラインに左右されてしまうところがあるような気がしています。その段階で、オーナーシップが個人に戻ってしまうという葛藤が僕自身の中にあるんです。例えば、アップルの場合は、スティーブ・ジョブズという強力な個人がチェック機構になっていましたよね。
堀井:i.schoolは、スティーブ・ジョブズのような人を育てることが目的ではないんです。ゆくゆくはそういう人も出てくるかもしれないけど、私たちが目標にしているのは、創造的な課題が与えられた時に、どういうプロセスを踏めばそれをクリアできるのかということを設計できる人材を育てることです。その課題に必要な人や情報を集め、チームを作り、作業を進めてゆくというプロセスを設計することが大切なのです。ひとりのスタープレイヤーがいた時に、その人に何を組み合わせればよりスゴいものが生まれるかを考えることが課題であって、もしスティーブ・ジョブズが必要なら、極端な話、調達してくればいいんです。そもそも、育てようと思って育てられるようなものでもないですからね(笑)。
Q.「スティーブ・ジョブズは調達するもの」。これは名言ですね(笑)。課題解決のためのプロセスや定石のようなものが作れれば、あとはそれを色々なところにインストールしていけばいいわけですよね。それによって、誰もが優れたイノベーションを生み出し得る状況ができたら面白いですね。
堀井:一般的に、先ほど話したアブダクションというのは、無意識の内に行われるもので、言語化できないと思われています。過去の経験が記憶として蓄積されていて、ある目的を果たす手段を考える時に、直感的に必要なアイデアが思い付くという流れです。でも私は、無意識のうちに行われているアブダクションを言語化して、説明できるようにしたいのです。さらに言うと、その説明を使ってアイデアを思い付くというところまで持っていきたい。
Q.体験を言語化していくということですね。
堀井:例えば、イチローは、自分のバットスイングをすべて言語化するトレーニングをしているといいます。スポーツの世界では、言語化することは良くないと言われていて、いかにそれを無意識でやれるようにするかが課題という考え方があります。でも、イチローは、自分のその日のスイングを非常に精緻な記述で分析するのです。つまり、自分の無意識の部分に意識を当てて言語化し、それをぎこちなくなるまで練習することで、無意識だけでは到達できない高みに上がれるというわけですね。アブダクションの思考が起こる瞬間を順解析していくのは難しくても、それが起こった時の思考を、後から逆解析して言語化するということは可能だと思うのです。もしそれができれば、素人でもある程度の高みまでは上がれる可能性があるということですよね。アブダクションの思考においてアナロジー(類推)というのは間違いなく重要なキーワードだと思っています。
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