ハヤカワ・SF・シリーズ》温故知新〈後篇〉

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 今回はSFマガジン2016年8月号の特集「ハヤカワ・SF・シリーズ総解説」にあわせて、「新・SF観光局」の第27回を抜粋して再録した後篇です(SFマガジン2012年2月号より)。

 HSFSに関しては、ネット上で全リストや詳しい資料が簡単に手に入るので、興味のある方はそちらを参照していただきたいが、第一号にあたる3001番は、ジャック・フィニイ『盗まれた街』(3002のカート・シオドマク『ドノヴァンの脳髄』と同時刊行)。3031番までは、《ハヤカワ・SF・シリーズ》ではなく、《ハヤカワ・ファンタジイ》として刊行されている。

 なぜSFでも科学小説でもなくファンタジイだったかと言えば、当時、元々社の《空想科学小説全集》が失敗したばかりで、 “SFに手を出す出版社は潰れる” というジンクスがまことしやかに囁かれる時代だったためらしい。最初の十冊のラインナップを決めた都筑道夫(当時、早川書房で〈エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン〉日本語版の編集長をつとめていた)は、自伝的エッセイ『推理作家の出来るまで』(フリースタイル)の中で、

いちおうのラインナップをつくってから、福島君とも相談して、企画会議にだした。当時は企画をだして、反対されることはなかったのだが、さすがにSFをやることには、早川社長も、不安だったようだ。それも、SFという言葉はつかわずに、ハヤカワ・ファンタジイとすることで、説得できた」と説明している。

 福島正実のほうは、「都筑道夫とぼくとは、このシリーズを出すにあたって、過去の経験にかんがみ(中略)いたずらな偏見を招くおそれのあるサイエンス・フィクションという言葉を使うことを避け、最初からプローパーSFを選ばず、むしろ、サスペンス・スリラーとしても読むことのできる作品──SFファンのみならず一般読者──とくにミステリー読者にも受け入れられやすい作品を、主としてとりあげること」に留意したと書いている(『未踏の時代』ハヤカワ文庫JA)。

 こうして選ばれた最初の十冊は、『盗まれた街』『ドノヴァンの脳髄』に、フレドリック・ブラウン『火星人ゴー・ホーム』、レックス・ゴードン『宇宙人フライディ』、リチャード・マシスン『吸血鬼』、フランク・ハーバート『21世紀潜水艦』、C・M・コーンブルース『クリスマス・イヴ』、ジュディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』というラインナップだった。

 都筑道夫いわく、

早川書房は、翻訳出版の専門家と見られている。そこで、SFを出して失敗したら、当分のあいだ、手をだす出版社は、なくなるのではないか、と思った。いまの若いひとには、おおげさに聞こえるかもしれないが、十年、遅くなるだろうと思った

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大森望

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